13.旅路4
焚き火のパチパチと音を立てる様子を見ながら、アイマンと並んで座る。ASMRなどにも使われているだけあって心地良い音に感じた。
エリザベータから結界を引き継ぎ、しばらくするとそれを思い切り叩かれるような感覚がしてハロルドは立ち上がった。
「襲撃か?」
「多分」
周囲を見てもそれなりに落ち着いているように見えた。ちらほらと見える商隊の人間たちも落ち着いて座っている。
エリザベータから引き継いだ結界はあくまでも自分たちのテント周辺を守る物だ。これが敵襲であれば、彼らも危ないのでは、と表情を険しくするハロルドに周囲を見渡したアイマンは溜息を吐いて「なるほどな」と呟いた。
「商隊の数が減っている。それに……このうちの幾つかが共犯の可能性もあるな」
「それは……、エーデルシュタインが比較的平和だったとはいえ、こうまでしつこいのは何か理由でも?」
「ここから西に行ったところに火山地帯があって、そこを挟んで向こう側にフィアンマ帝国という国がある。そこの王がまぁ……好色というよりは美しい人間が好きでな。男女問わず美しい者を買い集めているんだ。高値で」
「うっわぁ……」
色に溺れるでなく、ただただコレクションのように集める。そして、その中で気に入った者がいれば手をつけられる。
ハロルドは人間の中ではとびきり美しい部類の少年に入る。そして、そういった事情があるのであればおそらくそれなりに良い値段がつくだろう。
「姉さんもそういった目で見られていて、何かやったんだろうなぁ」
しみじみとそう言うと、リリィが「埋めるぅ?」と聞くので、少し悩んでから「お願い」といった。
少しすると、遠くで悲鳴と怒号、懇願が聞こえる。それに合わせて、「バカなこと、考えるからよ〜?ほら、抵抗してみなさぁ〜い?ふふ、ざぁこ!」と楽しそうなリリィの声も聞こえる。
「君はそういうことをしない子だと思っていたけど」
「色々あって、不本意でも見せしめが必要なことを理解しましたので」
温情をかければ、それだけ調子に乗って、命までは取られないと周囲を巻き込んでより厄介な害を及ぼす。もうハロルドもそれを知っている。
だから、嫌でも、不本意でも自分を狙うのであれば容赦はしないと示す必要があった。
「でも、あの子はもうちょっと口をよくした方がいいと思う」
「なんか、もうあれはあれで個性かなって最近思ってるんですけど」
あれが怖くて寄ってこない人間もいるのでハロルド的には許容範囲である。
音が止んだと思うと、「終わったぁ〜」とにこにこしながら帰ってきたので「うん、ありがと」と頭を撫でる。
「帰ったら、ごっ褒美ぃ〜!」
「もう少ししないとお菓子にするようなものあんまり収穫できないんだけど」
「わかってるわよぉ?いちごのタルト、ジャム、クッキー」
ハロルドが植えている苺で作れるお菓子を歌うように口ずさむ。
それが目当てか、と少しだけほっこりするハロルドだったが、アイマンは逆に「そんなもんのために人間は生き埋めになるのか……」とどこか遠くを見る目をしていた。
襲ってきたのは彼らなのだから自業自得である。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
なお、フィアンマ帝国の皇帝は女性。




