4.名目は危険の排除
少年の名前はブライト・ベキリー。
伯爵家の次男。
細身の身体に愛嬌のある可愛い系の顔をしている。群青の髪とレディッシュピンクの瞳がベキリー家の血筋を表している。
彼は伯爵家の生まれではあるが、そのスキル故にすぐに物を壊し、うっかりすると生物も吹き飛ばしてしまう。
幼い時から大きな力を持っていたせいで、ブライトの家族は彼のことを“化け物”としか認識することができなかった。そして、そのせいで彼の母親は心を病んでしまい、ブライトは一人、家族から離されて数名の使用人と一緒に別邸へと住まわされることになった。
ブライトは周囲から「何も触るな」、「動くな」と言われたけれど、彼の愛くるしい容貌から一部の犯罪者に狙われることになる。今よりもっと制御が効かなかった幼いブライトは抵抗する時に、何名かの命を奪ってしまう。
血に怯えて泣くブライトを慰められる者はいなかった。近づいて自分が潰れることを恐れる者が多く、教育も何もかもを諦められていた。けれど、良くも悪くも彼はその事件で大きな力を持つと知られてしまった。であれば、学園にも行かせなければならない。
毒を盛ってもなんとか生還してしまい、人を雇っても返り討ちに遭うことになる。
結果としてベキリー伯爵家は最低限のものを別邸に用意し、関わることを諦めた。強い毒を見つければ飲ませてはいるけれど、苦しむことは苦しむがそれだけ。死に至らしめることができずにいた。
そんな彼をハロルドはじっと見つめる。
放置していてはわざとでなくてもそのうち人を殺すだろう。ブライトと名乗った少年は悪気はない様子だった。
思わず嘆声を漏らす。
(絶対やらかすよな、彼)
ハロルドには自分がまあまあ“ツイていない”方だという自覚があった。
本来なら大往生なところを神様事故で死に、今世の親がアレで、やることが裏目に出ているのだから仕方のないことではある。
だからこそ、このまま放っておけば巻き込まれて自分が死ぬ予感がバッシバシしていた。脳内で危険センサーが大きな音で鳴り響いている。
「とりあえず、帰りましょうか」
ハロルドがブライトに手を差し出すと彼は「いいの?」という顔をした。ブライトは物心ついてから誰かに手を差し伸べられた記憶がない。
パァっと輝くような瞳を向けたあと、慎重にその手を取った。
(一応、襲われたとかじゃなければ人間に対して力の加減ができる。ということは頑張れば制御できそうだな)
冷静にそんなことを思われていたとは知りもしない。キラキラと輝く目を向けて後ろに付いてくるだけだ。
アーロンはそれをみながら「妙なのに懐かれたな」とか考えていた。
三人で冒険者ギルドに戻って狩ったモンスターや採取物を査定に出した。
その間にブライトを相談窓口に連れて行き、スキル制御に関して相談を入れる。何度か入り口を破壊していたためすんなりと話は通った。平民の間では制御ができないことは割とある話のようで、サクサク練習日や担当職員などが決まっていく。
「名目を危険の排除にすれば大丈夫でしょう」
生家が文句を言ってこようものならば、期限を区切ってなんとか完全制御まではさせるようにと国からの文書が届いてしまう。今の時期に二週間以内で家庭教師の選別と完全な制御を教えても間に合わないだろう。文句をつけない方がマシである。
翌日から冒険者ギルドに呼び出されることになったブライトを二人は何度か見かけることになるが、銀の鎧を着込んだ屈強な男が二人がかりで教えていた。
「そもそも魔力の感知ができてねぇだとぉ!?」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
「謝るより集中しろ!ほら、もう一回!!」
熱血指導をしているが、それも命懸けのようで、たまに「ヒーラーを呼べ!!骨折した!!」という大声とブライトの「死なないでぇぇぇ!?」という泣き声も聞こえていた。「死ぬほどのケガはしてねぇ!!泣くな、集中しやがれ!!」と介抱されながら叫ぶ教官は流石死線を潜ってきた猛者である。
「やっぱり相談窓口連れて行っといてよかったな」
「本当。ハルってばもしかしたら何人かの命救ったかもな」
呑気な少年二人の発言に側にいた職員数名は「そうだな!!」とばかりに強く頷いた。
ベキリー伯爵家がさっさと教師をつけていればここまで力が強くなる前に抑え込めたかもしれないのに、という気持ちもある。ある程度強力なスキルでも、国の窓口に行けば、指導料こそ規定額が必要だがそれなりの教官を派遣してもらえるはずなのだ。それをおざなりにしていることがどれだけの顰蹙を買うのか理解していないとしか考えられなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
ちなみにブライトは割と興味がある方に注意がポンとそれていっちゃうので教官には「集中しろ!!」と割と怒られることになる。