12.旅路3
時間を決めて順番に睡眠を取ることになり、ハロルドは先に休むように言われてテントに入る。相談して購入したテント内部は暖かい。内側に温度を暖かく保つ魔法がかけられているようだ。砂漠に入る前の野宿とは違う寒さではあったが、寒さというよりも昼との温度差に環境の厳しさを感じた。
外から時折、何かの騒ぐ音が聞こえるが、アイマンに「今は休む時間だ」と言われて出ていくのをやめた。
「緊急事態の際は、向こうからきちんと合図がある。エリザ嬢はその辺り抜かりない方だ」
「そうですか」
「姉君が心配なのはわかるが、彼女は学園交流戦で我が国の天才と呼ばれていた魔導師の鼻を魔法の一撃でへし折った才媛だ」
安心させるように微笑んでいるアイマンだが、エリザベータの才能がヤバいことしか伝わっていない。
とはいえ、馬に乗っている最中にエリザベータが学園での勉強のことを話してくれているのでハロルドは大変彼女の才能に助けられている。ブライト以外では魔法のことがとても好きなようで、魔法学関連で話してくれる内容はそれなりに興味深い。
「姉さんが強いことは知っていますけど、それでも心配くらいはさせてください」
女の子だしな、という理由の裏表のない感想に、「あのエリザベータ嬢の弟がこうも……」と言っているあたり、学園交流戦とやらの彼女はすごかったのかもしれない。
そこから声をかけられるまで眠って、妖精たちの呼ぶ声でハロルドは目を覚ました。
「交代ですって!」
「ハルを起こすのは、ボクたち」
「ふふーん、エリザや医学バカには譲ってあげないんだから〜」
得意げな彼女たちに「ありがとう」とお礼を言って目を擦った。欠伸を殺して背伸びをすると、外套を羽織る。後ろでアイマンも動く気配がした。
テントが開くと、「エリザってば人使いが荒いんだ」とボヤくアルスがひょっこりと顔を出した。
「奥方の言うことは聞くものだよ」
くつくつと笑いながら言うアイマンにアルスは少しだけ不満げな顔をした。けれど、思い直したのか「まぁいいや。交代だ」と言って入ってきた。
二人で外に向かうと、エリザベータが火を見ながら「あら、あの方先に寝てしまいました?」と真顔でコテンと首を傾げた。
「寝てはいなかったよ。どうせまた本でも読んでるんじゃないかな」
「仕方のない方ね」
さらりとそう言うだけに留めているのは、彼が神だからだろう。
「では、気をつけるのよ」
「うん」
エリザベータの細められた瞳に少しだけ気遣うような気持ちが見えた気がした。
「弟に対してもああなんだな」
「あれはあれで心配してくれているみたいですよ」
「……本当に?」
冷たく見えても何も思わず、何も考えていないわけではない。暴走状態も知っているので一概に「良い人」とも思えないが、その印象は変わりつつあった。
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