11.旅路2
意外にも、剣はそこまで不得手ではなかったらしく、それなりには扱えた。
アルスはそんなハロルドを見ながら首を傾げる。彼の知る錬金術師の戦い方とは少し違っているように感じた。
彼の知り合いであった「パラケルスス」という錬金術師は基本的には魔法を扱いながらもその恐るべき技量で戦場にて武器を錬成し、それを用いて戦うこともできた。ただどんなに強い魔剣を作っても、彼はもっと強い武器や防具、より良い薬剤を作りたいという欲求から、強い魔物や希少な植物、鉱石を求めて劣悪な環境に飛び込んでいくタイプの厄介な研究者だった。そのため、基本的に使い捨てになっていた。
当時の勇者は良い魔剣や魔槍が折れるたびに「やめろ!!私が、私が行くから!!」と悲鳴をあげていた。
(あれは二?三代目の勇者だったかな?可愛い女の子で結局無茶苦茶なアイツが見てられなかったのか、ずっと側にいたな)
アルスにとっては懐かしい友たちの記憶だが、今を生きる人間たちにとっては神話のような時代の話だ。
パラケルススのような例外を除けば、基本的に錬金術師という生き物はどちらかといえば研究室に篭りきりで採取は冒険者などに任せる。それ故に基本的にはそこまで戦力を求められないし、採取についてくる時でも援護の方を求められる。
しかし、アルスの中の錬金術師はその友である。
「ハロルド。君、その場で武器を錬成して戦ったりはしないのかい?」
「何それ」
アルスの言葉に少し考え込んで、以前見たことのあるアニメの存在を思い出した。
錬金術師のスキルを発動させて液晶を出して戦うのか、とも少し考えたけれどおそらく違うだろう。
試しに、と昨日確認したうちの武器の材料と作成方法を思い出しながら攻撃補助系の短剣を作りたいと念じて魔力を練る。足下に虹色のバラのような模様が現れかけて急いで止める。
「やれ、そう……?」
「うん。最終的には魔剣とかも作れるようになると思うから錬金術を極めるといいよ。あと、使うならたくさん武道の練習もしてね」
「久しぶりにいい物を見た」とばかりににこにことしている医神だが、ハロルドは「やばい」で脳内が埋め尽くされていた。こんなことができると知られた日には面倒になるに決まっている。
(そんな化け物スキルを気軽に渡したのか、あの女神!!)
ハロルドが調子に乗ってやらかす方向に成長する可能性だってあるのだ。だというのに、こんなスキルを渡すなんて信じられなかった。
フォルテ的には「晴ってば気が小さいから少しくらい強くしても大丈夫ね」という考えはある。それに、基本的な研究者としての錬金術師を想定していた。気が小さいからこそハロルドは頭も胃も痛かった。
そして、通常の錬金術師のジョブスキル持ちは神に目をかけられることは少ない。よって、パラケルススやハロルドのようなある種特殊な進化をする人間はそう多くない。
「とりあえず、剣術は磨いた方がいいようだな」
「あ、はい」
「他もたくさん覚えておけば、素材採集頑張れると思うよ」
ハロルドが知る由もない話ではあるが、アルスの友人であるパラケルススは過去の英雄からしてもぶっ飛んだ方法で強くなった男である。
人付き合いが面倒であるからと、倒れかけても自作の回復薬を水のように飲んで回復し、自力で各地の山、森、洞窟、果てはダンジョンまで走り回って素材を集めて研究に没頭した男だ。
誰と比べられているのかなんて知らないので、ハロルドは「関節とか痛いんだけどな」と溜息を吐きながら、とても真面目にその技術を習得するためにアイマンと向き合った。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
なお、ハロルドは成長期。