10.旅路1
明るい時間の砂漠は暑くはあるが、季節柄もあってかそこまで苦痛にはならない。反面、夜になれば凍えるほどに寒くなる。これが夏期であれば昼に移動なんてできなかっただろう。
明るいうちに行動できるのは良かったかもしれないが、砂漠で生活をしている盗賊団のような人間もいるらしいので油断はできない。
魔馬を3頭も借りるのは大変だっただろうと思うハロルドだが、その分凄まじいスピードで走っていく。
アイマン曰く、それなりの伝手というものがあるらしく、ハロルドは素直に「貴族……元貴族?ってすごいな」なんて思っていた。その裏でアルスがどれだけの金額をかけていたかなんて知らないのである。
「日差しが強いな」
「砂漠ですもの」
「時間があればもう少し便利アイテムとか作れたんだけど」
少しだけ馬の揺れに慣れたハロルドがそう言うと、「突然の旅でしたものね」とエリザベータも頷いた。
妖精たちが外套の内側で「暑い〜」「眩しい」「これがマシって正気ぃ〜」と言っているけれど、夜になれば一気に冷え込んで動けなくなる。砂漠は慣れない人間にとってはキツい場所だとフードを下げながら、ゆっくりと息を吐いた。そうして心を落ち着けて周囲を見渡す。
一面の砂は、方向感覚を狂わせそうだ。実際に、アイマンを雇えているからなんとか進めているという感覚はある。
一つ目のオアシスが見えてくる頃には、日が暮れてすっかり冷え込んでいた。
妖精たちも今度は逆に「寒いの〜!!」「寒暖差、やば」「もうお家帰りたいぃ〜」と震えている。
そこでテントを建てて、火を起こす。このオアシスには宿泊施設はない。ただ、水などの補給ができるだけだ。
風が吹いて、フードが捲れかけた。それをしっかりと指で押さえると、なぜかハロルドたちを見つめる視線があった。ゾワリとするそれにアイマンは頬を掻いて「見えたな」と苦笑する。
「一応、警戒はしておくように」
「わかりました」
そう返事をしながら、作ったスープの味を見る。隣にある肉が焦げたものからは視線を外した。
このメンバー、ハロルド以外は料理ができなかった。
肉を焼かせれば炭以下の何かにするし、スープの火加減を見せれば水分を全て吹っ飛ばす。
「火力を上げればその分早くできるものでは?」
「さっさと完成した方がいいだろう?」
そんなことを述べる二人には任せる前に料理本を買い与えないと、とハロルドはちょっと思った。
アルスは単純に待ちながら本を読み始めて結果的に消し炭にしてしまうので彼らとは違った理由で任せられなかった。
(平民とか無理だな。この人たち)
そんなことを思いながら、皿を配る。
少しだけ申し訳なさそうなアイマンと、「なぜダメだったのかしら?」と真顔でけれどどこか不思議そうなエリザベータ、そして「あと1ページ……」を繰り返してハロルドに本を取り上げられたアルス。
その皿の中身が旅の食べ物にしてはそれなりに豪華なことに気がついているのはアイマンだけだろう。
「料理が上手いんだな」
「普通だと思いますけど」
「アーロンがいればもっと手の込んだ料理ができるんだけど」などと思いながら硬いパンをスープにつけた。
「いや、本当にすごいよ。俺が一人で旅をしていたら運が良ければ出る魔物を狩ってそのまま焼くことしかできない」
その魔物も蠍だとか蛇を食べていることもあるらしく、ハロルドは「蛇を酒につけたら前世にあった感じの酒ってできるのかな?」なんて思いながら話を聞く。
食事が終われば剣の訓練をしようと言われて少しだけ憂鬱になった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
別にハロルドは運動神経が悪いとかじゃないので「疲れてるんだけどな〜」くらいの憂鬱。




