8.砂漠を渡る準備
普通にエリザベータの弟だと思われているハロルドは設定もあるのでその誤解を解く必要もないと放っておいた。自分に興味のない女性と一緒にいるのは気楽で良かった。本人も自分は無感情無関心無感動だと思っているようだが、割とすぐにそういうわけでもなさそうなことに気がついた。
とりあえず、深めのフードが付いている外套を着せられたハロルドは、当初の予定通りに砂漠を越えるための買い物をしていた。やはり、こういうことは経験者に教えを乞うのが一番だろう、とアイマンの意見を聞きながら買い物をしていく。
「ハルのお花が恋しい」
「ハルの野菜」
「果物〜……」
妖精たちはいつも良いものを与えられているために少ししょんぼりしているが、こればかりは仕方がないと諦めてもらう。
(そういえば、温室と畑の世話頼んできたけど大丈夫かな)
肥料を与える予定表や収穫時期の簡単な走り書きのメモは渡してきているが、なぜかハロルドが自分で全てをやった方が良いものができるようだ。スキルのせいだろう、とは思いながらも急に出なければいけなくなった時などには不便に感じた。
「ごめんね。君たちは俺の生命線だから……」
紛うことなき本音である。
そして、そのことを知っているので三人の妖精は「しっかたないわねー!」「ハル、世話がやける」「ふふ〜ん、ハルったらいつまでもよわよわなんだからぁ〜」とにやにやとどこか嬉しそうに言った。
いつも通りの妖精たちにハロルドは自分の気分が落ち着くような感覚があった。変わった環境での「いつも通り」はありがたいものだ。
(それにしても、俺って生産職とはいえそんなに弱いか?)
フードを注意深く目の当たりまで下げながらそんなことを思う。
妖精基準の強いと人間基準の強いは違う。ハロルドは同年代の多くよりは自分が優秀であるとは思っていた。けれど、性格がそもそも争いに向いていないこともあって強さだけを磨いているわけではない。ちょっと人より優秀止まりだ。
「ハロルド、何か欲しいものは」
エリザベータに問われて商品を見て、順番に指差す。なるべく顔を見せるな、関わるなという指示がアイマンから出ている。仕方なくの行動ではあるが、歯痒いものだ。
「わかったわ。それでは包んでくれる?」
慣れない言葉遣いや呼び方、設定。ボロが出そうで恐ろしい。幸いにも事実も含まれているため、そこまで誤魔化すことはない。
エリザベータづてに渡された買い物を持つと、その店を後にした。
「食料、衣料、あなたの必要とする品……これで終わりかしら。薬品類は旦那様とあなたが持っているということでいい?」
「うん。その他のものも買い終わったみたいだ」
荷物を抱えて、自分よりも少し背が高いエリザベータの顔を見上げる。エリザベータはハロルドのフードを下に引っ張って、顔を下ろさせた。
確かに顔が見えるのはまずいか、と「ありがとう」と言うとほんの少しだけ驚いたような顔になった。
「あなたは変わった子ね」
「姉さんには負ける」
「それはそう」
「エリザ、変」
「まぁ、今のエリザはキライでもないかもぉ?」
妖精たちの追撃も入ったエリザベータはショックを受けているように見えた。
(この人、さては暴走してなかったら可愛い人なのでは?)
どうして今の彼女になったのか、もしくは初めからこうだったのかはわからないけれど、なんとなくそんな感想を抱いた。
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