7.依頼を受けた男
平民の出は自分一人であるにもかかわらず、怯えて虚勢を張る貴族家出身のおぼっちゃまと見られて、ストレスでいっぱいのまま紹介された冒険者を待つ。
自分の顔面が共にいる美しい年上の女の子より目立つだなんて流石に思っていなかった。王都でも目立つことを自覚していたハロルドだけれど、磨かれてきたお嬢様と神様の側であれば少しくらい霞むだろうとも思っていた。
「ハロルド、あなたも生き辛い身の上ね」
「……姉さん」
確かに表情が分かりにくいけれど、どことなく面白がられているような気配を感じて、咎めるように役としての彼女の名を呼んだ。「まぁ、僕もここまでとは思っていなかったよ」とアルスが肩をすくめた。
「あの方が気にするわけだ」
そんなことを話していると、「あなた方が依頼主だろうか」という低く、穏やかそうな声が聞こえた。
紫の髪に燃えるような赤い瞳。褐色の肌が健康そうだ。顔立ちから真面目そうな印象を受ける青年がそこにはいた。
「……ッ!?この度は、どう呼べば?」
「そうね、エリザと」
「そうか。ではエリザ嬢、お久しぶりです」
エリザベータの顔を見て瞬時に“誰か”を理解した青年。ただものでないとハロルドが察するには十分だった。
「姉さん、お知り合いですか?」
「ええ、少し。彼はアイマン・ガマル侯爵子息です」
「少し違いますね」
エリザベータの紹介を遮って、アイマンは訂正を入れた。
「今はただのアイマンです。“あね”が家を継ぐことに決まった際に家を出されましたので。ところで、私の知っている情報と依頼内容で乖離があるようですが」
その言葉と共にエリザベータはささっと防音の魔法を強化した。範囲指定も完璧である。魔導師のジョブスキルは伊達ではない。
「ええ、少しお話をいたしましょう?」
エリザベータの張った結界にも気付いたらしいアイマン。その顔は引き攣っていた。
王太子が暗殺されかけたことを除いて一部を誤魔化しながら、とある花が必要なのだと説明をする。エリザベータがハロルドを錬金術師、アルスを医師だと説明すると、納得したような顔をした。
医学や薬学を真剣に研究し続ける人間というのは、どこも割と行き過ぎている傾向があるらしい。それで納得されてしまう程度には。
「我が国にも、エーデルシュタイン王国の鉱山でしか手に入らない薬の材料を求めて単身で走り回っていた王子がいましたしね」
思わず「いるんかい」と言いたくなったハロルドだが、ぐっと我慢して「それに、国にいると……」とエリザベータの顔を見た。国に大人しくいると、おそらくアンリの命はそう長くない。肝心なところを濁したのが功を奏したのか、「それではジャマルの手前……ザハラオアシスまでの任務を請け負いましょう」と気の毒そうな顔で言われた。
(本当のことをペラペラ言うわけにもいかないしな)
親切そうなアイマンを騙すようで心苦しいが護衛は必要だ。エリザベータが人選に何も言わないということは腕は立つのだろうと判断した。
実は、ハロルド自身が親に売られかけているという勘違いも起きていたりするのだが、それは彼の知らない話である。
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