6.三人旅の設定
人間に影響が出ると面倒だからと基本的に戦わない神様、優秀ではあるけれどそもそもが由緒ある伯爵家のお嬢様な魔導師、そして平民ではあるけれど容姿がとてもキラキラしいハロルド。異色かつ全員が整った容貌をしていたこともあってとても目立った。
すごく、目立った。
「冒険者ギルドに辿り着くまでに、自警団に世話になった回数が8回か。どうなっているんだ?」
「みんなハロルドを狙っていたわね。少しくらい私と分散されるのではないかと思っていたけれど」
「なぜ……?」
疲れ切ったハロルドの顔にエリザベータは「顔が整いすぎているんじゃない?」などと言う。
「やっぱり、顔を思い切り傷つけるしかないのでは」
「やめておけ。下手をすれば命に関わるぞ。昔、男に言い寄られ過ぎて狂いそうになっていた女が、顔を火で焼いてな。その火傷が元で死んだ」
「極端な例ね」
「やるやつはやるからな」
しれっと怖い話をするアルスだが、ハロルドはその言葉で考え直した。別に祖父母を悲しませたいわけではないので溜息を吐くだけに留めた。
冒険者ギルドの中に入ると、視線が集まるのを感じてハロルドは居心地の悪さを感じる。ちなみに、アルスとエリザベータは我関せずといった様子である。アルスは人間の視線など気にはしないし、エリザベータは魔法とブライト以外に興味を持たない。
ハロルドはちょっぴり彼らが羨ましく思った。
「依頼はここでいいか?」
酒場を兼ねているのか、受付はバーのようになっていた。髪の長い強面の男がアルスの問いに「そうだ」と言って拭いていたコップを置いた。
「護衛任務の依頼か?」
「よくわかったな」
「そこの坊主。どんな生まれかは知りはしねぇが、服を替えただけで平民ってのは無理がある」
「いや、普通に生まれも育ちも現在進行形で平民なんだけど」
ハロルドを育てている母方の祖父母も、死んだらしい父方の祖父母も代々平民である。たまたま遺伝子の悪戯と女神パワーで顔面が美しくなっているだけのハロルドは普通に嫌な顔をした。
むしろ高貴な生まれなのはエリザベータなのに何も言われない。
エリザベータは銀色の真っ直ぐな長い髪に、藍色の瞳の美女である。そんな彼女でもハロルドの美貌のせいで霞んでいた。
信じるものか、とばかりに男はハロルドを一瞥し、アルスを見た。
「妻とその弟を連れてラムルに行きたい。その旅路の護衛を探している」
「首都ジャマルまでか?」
「その手前のオアシスまでだ」
考える素振りを見せる男を前に、ハロルドは頭が痛いという様子を隠しきれなかった。
彼の目の前にいる二人が考えた設定は次のものだ。
エリザベータとハロルドはエーデルシュタイン王国の貴族子息であったが、家族から虐げられておりエリザベータは望まぬ相手との婚姻を結ばれるところであった。そして、彼女を愛するアルスはエリザベータを連れて駆け落ちをすることを決意するが、彼女は弟を見捨ててはいけないと言い、ハロルドも共に行くことに。ハロルドは平民でなくては殺されると言い聞かされている。
それに伴ってハロルドは目の前の二人を兄、姉と呼ぶように言われていた。
「それにしても、あんまり似てねぇ姉弟だな」
「わたく、私も弟も母似ですの。弟は父が外に作った子ですのよ。まぁ、もうその寵愛は新しい妻に向いているようですけど」
エリザベータが少し高飛車に、お嬢様らしくそう言うと目の前の男はその設定を信じたらしく、三人を不憫そうに見つめた。
「坊主がこれなら母親もさぞかし美しい女だったんだろうな」
その言葉を聞いて、久しぶりに少しだけ母親を思い出したハロルドは「そういや、あの人生きてんのかな」と思った。
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