1.嵐は突然に
眠っていたはずのハロルドは、全く見覚えのない空間にいた。夢であることだけは理解ができる。フォルテの神域は華やかな雰囲気なのだが、今いる場所は薬草畑という印象だ。
その中心にある派手なオレンジ色の花に見覚えがあって、それに近づくと「すまない。フォルテ様に捧げられていたものだがついいただいてしまった」と聞き覚えのある声が聞こえた。
そこにいたのは水色の髪に明るい緑の目の青年だった。少し決まりが悪そうにメガネをくいっと上げる。
真面目そうな印象の青年は、「僕はアルス」とハロルドをまっすぐに見て告げた。
「一応、人間界では医神だとか薬神だとか言われている」
そんな自己紹介に、ハロルドは理解できないというような顔をした。そんなもんに知り合うことをした覚えは一切ないのである。ハロルドが(一応)信仰しているのはフォルテだけだ。
「つい最近までフォルテ様のところで療養していてな。僕があまりにも言うことを聞かないから、と仕方なく、渋々といった様子で僕をこの神域に返してくれたんだ」
「フォルテ様が渋々って……」
なんだか少しクセのある神様である。
ハロルドの様子なんて気にしていないといった様子でアルスは続けた。
「ここから先は僕が加護を与えた君への神託なのだが」
「加護……?」
「話の腰を折るな」
加護をもらっていることなんて知らないハロルドは「なんで怒られているんだ?」と混乱しながら黙った。「何それ怖い」の心境である。そして、神様から神託が下される時というのは大抵碌なことになってない時である。嫌な予感がバッシバシだ。
「お前の国の王太子が今、死にかけている。その薬の材料が砂の国……お前たちの世界ではラムルというのだったか?そこにしか咲いていないものが必要でな」
「はあ!?」
「あの男が死ぬと、後に大きな影響が出るんだ。困るから行くぞ」
「行くぞ!?」
ツッコミどころが多い。
それからいきなり「準備をしておけ」という言葉と共に落ちる感覚がした。
その感覚に飛び起きると、ガンガンと扉を叩く音が聞こえる。ネモフィラが「ルイのとこの人」と言うので、扉を開く。
「申し訳ございません、神子様。急ぎ、登城して頂きたく」
その切羽詰まった様子に、先ほどの夢が、ただの夢でないことを察した。
4章スタートは例の神様から
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
感想もありがとうございます。




