38.悪いのは誰?
報告を見ながら「思いの外やらかしてるけど勇者よりマシか」と思いながら、アンネリースが王都を脱出していた理由を思い出して溜め息を吐く。
「どうしたんだよ、ハル。面倒事か?」
「面倒事って常に起きるよね。なんでかな……。もしかして、俺って自覚がないだけで面倒を選び取ってるのかな」
「なんか疲れてんな」
報告書をまとめてトントンと揃えた。
聖女というか教会が引くほどやらかしている。聖女もやってはいるけれど、その理由には「教会がヤバい」ことと「保身」が大きいようだった。せめて洗脳した連中の手綱を握れていればマシだったかもしれない。だが、結局は自分の吐いた愚痴で信奉者が動いて王女を追い出そうとしたり、王城の第二王子のいる区画に陣取っていたりと割と本人も悪気なくやらかしている。とはいえ、現代日本からいきなり連れてこられたという背景もあるだけに全部が悪いとも言い切れない。
(第二王子を餌にして臣籍降下、そこから結婚させて取り込みっていうのが穏便に済ませられそうだけど。報告見る限り、婚約者のお嬢様もめちゃくちゃ悪い人ではないっぽいし、なんとか良い感じの落とし所があればいいけど)
色々と思うところはあれど、そこまで首を突っ込むのも良くないと首を振った。そもそも、王子であるからにはその婚約には政治的なものも絡んでいるだろう。婚約は解消することになるのだろうが、だから聖女にくれてやろうとはならない可能性の方が高い。
「今代の聖女、10年ほど前のやつより随分マシっぽいんだよね」
「良いことじゃねーか」
「うん。最初がすれ違ってなければね」
だいたい悪いのはフォルツァートの教会連中である。召喚した聖女から見ても腐っていた彼らは、普通に「ここから逃げ出したい」と思われて面倒な女のふりをされている。結果として手がつけられないとしてハロルドを手中に収めようとしてきたわけだけれど、例の司祭が精霊から手酷い反撃を受けたことや、リッパースクワロルによる被害、そしてハロルドの地味な嫌がらせを受けてその計画は頓挫していた。
裏でウィリアムと共謀して被害における慰謝料を請求したりはしていた。匿名で新聞社に好色司祭のことをリークして現在では一部の民衆からも睨まれている。誰がやったのだ、と教会内でも大変な騒ぎになったが何故かハロルドがやったとは露見しなかった。
「召喚された聖女さんは自分に加護を与える神の教会が割と腐ってやがることに早々に気がついた。でも、国に対してあれこれと要求を重ね、許可も得ず勝手に召喚した聖女に関する費用なんかも請求してくる連中に“そんな要求をのめるか”、って完全に追い払ったっぽくて」
「あー……そんでハルみたいに保護やらって話にならずに放置ってことか」
「しかも、結構整った外見をしていたらしくて、身を守るために厄介クソ女の振る舞いを完璧にやっちゃったらしい。その上、何故か第二王子が引っかかったらしくって余計に王家からは睨まれる羽目になったりして……俺が言うのもなんだけど運が悪いな」
「そんなこと調べて何かあるのか?」
「正直に言うと、きな臭いから面倒になる前に潰しときたかったんだよ。俺も狙われるのストレスだし」
今のフォルツァートを祀る人間たちはマーレ王国との連絡が途絶えたこともあるのか少しだけ混乱している。彼らの本拠地はマーレ王国の向こう側だ。金銭的な事情もあってすぐにはその混乱は収まらないだろう。
フォルテが何かをしていることは知っている。ハロルドはそれが落ち着いてことの経緯を知られれば何かあるような気はしている。
「まぁ、今回は俺にできることなさそうだし、この報告は王家も見てるし、多分良い感じの解決方法を見つけるだろう」
「そうだな。一般庶民の俺らが考えることじゃねぇし」
「そう。俺たちは大人しく、来年からの生活を考えてお勉強」
それでも、情報は何かに使えるかもしれないと頭の片隅に置いておく。
ハロルドも無いとは思っているが、聖女たちと取引をすることもあるかもしれない。何せ、一応は魔王が存在する世界なのだ。勇者よりは聖女の方が話が通じそうだし、きちんとしたメンバーを揃えて担ぎ上げれば勝算も高くなるかもしれない。
(保険はないよりある方がいいよな)
神から力をもらっている以上、そのうち巻き込まれてしまう可能性の方が高い。知らないよりは知っている方が対処ができるだろうと考え、それから「それって勇者も調べておいた方がいいってことか?」と思って嫌な顔をした。めちゃくちゃ嫌だった。
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