36.神子の依頼
王太子アンリ・シャルル・エーデルシュタインの下に赤い妖精が現れた。不思議と妖精のその名の通り薔薇の香りが漂う。
「アンリ、こんばんは!これ、ハルからお願いのお手紙」
機嫌良さげにポニーテールを揺らすローズに「こんばんは。ありがとう、今日はなんだか良い香りがするね」と告げれば彼女はパッとその表情を綻ばせた。
「ふふん、よく気づいたわね!ハルが作った香水をもらったのっ」
「あの子、香水まで作ってるのか」
「なんか、ハンドクリームに香りをつけたいんですって。アンネが手荒れが辛いって手紙に書いてたらしいから、それ用かもしれないわ」
普段のハロルドからはあまり思いつかないものを作っていると思えば、異母妹のためだったらしいことを聞いて、アンリの表情が引き攣った。ハロルドがアンネリースを狙っているなんてことは思っていないけれど、それにしたって異母妹に甘い気がした。
アンネリースとは文通をする仲になっていて、彼女は花や薬草の種を、ハロルドの方は肥料や先ほどのハンドクリームのような細々したものを、互いに贈り合っている。ちなみにとても性能が良いのでアンネリースは普通に喜んでいるし、「お母様にも分けてあげますわっ」とお裾分けした結果、王妃にも渡ったりして「ハロルドくんに作ってもらえないかなー、もう起業して売り出してくれないかなー」なんて思われていたりする。
「ハルは懐に入れた子には甘いし、アンネってばハルからもらうだけじゃなくってちゃんと返すからいいわよね」
「うん、仲良くやっているようでよかったよ」
苦笑しながらそう言ったアンリはそっと手紙を開いた。その中には、聖女と自分の弟について調べてみてほしいとあって眉を顰める。中から出てきたのは精神魔法耐性をつけるためのブレスレット。
「ハロルドは何を気にしているのか聞いているかな?」
「なんかきな臭いって言ってた。にねんせい?でルイたちと同じクラスになるためっていっぱい勉強してるの。ジャマは嫌なんだって」
その言葉に考える素振りを見せる。わざわざ魔道具まで渡してくるあたり、何か思うところがあるのだろうと頷いて、「わかったよ。返事を書くから待っていてくれるかい?」とローズに返した。
すぐに返事を書く。インクを乾かすための時間が必要なので、ローズにはお茶とお菓子を用意した。それで思い出したのか、「そういえば、ハルからいつもお世話になってるお礼って預かってるものがあったわ」と小さなカバンからその容量に合わないものを机の上にどさっと置いた。
「使い方のメモとかも入ってるわ!」
「その前にそれ、何かな」
「異空間収納式鞄だって!ルアのおかげで作れるようになったって言ってたわ!」
「近いうち、作ったもののリストと一緒に登城してもらうように言っておかないと……」
マジックバッグを作れるようになっていたハロルドは自分のものは魔法があるからといって作成していないが、アーロンと配達などをやってくれる妖精たちのためのものは作った。材料をなぜか持っていたのも大きい。ジュエルリッパースクワロルの身体は良い素材だった。
手紙のインクが乾いたので丁寧に封をして、ローズに渡すと、彼女は「じゃあねー!お菓子美味しかったわ!」と言って窓から飛び立った。
彼女が帰った後に、ハロルドからの贈り物を見た。
「入浴剤にハーブティー、ホットアイマスク?リラックス用品か」
メモには確かに使い方や入れ方が書いてあった。この日の仕事はもう終わりであったため、アンリはこれらを試した。
試したら、気がついたら朝だった。
パチパチと驚いたようにその瞳を瞬かせた。
「途中で起きなかった」
最近ではバリスサイトが片付いたり、厄介な人間がなぜか減ったおかげで、休む時間も増えたが、アンリの睡眠は基本的に浅く、深く眠るといったことはなかった。
「……信頼できる商会に卸したりしてはくれないだろうか」
ここにまた、ハロルドグッズのファンが増えた。
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