35.噂はどこまでが事実か
遊び回っているなどと言われている第二王子や、虐げられているという噂のその婚約者を見て少し疑問に感じるところがあった。少なくともハロルドが見た範囲内での実態が穏やかなカップルと初恋暴走お嬢様だったのだ。噂が本当かどうか、実際はどんな人間かなど自分の目で見なければ判別がつかない。
「ハル、あの“アナタノエリザベータ”という女だが」
「ルア、エリザベータだけが名前だよ。それで、どうかしたの?」
知らない間に爆誕していた妖精の片割れに話しかけられて、名前の訂正と続きを促す言葉をかけた。
ルア、と呼ばれた黒髪の少年姿の妖精は、その紫色の瞳をハロルドに向けて気になったことを伝える。
「その女、あまり強くはないがブライトに誘惑の魔法をかけようとしていたぞ」
「は?」
「女自体におそらく適性はあまりないのだろう。本当にそこまで強くはない。だが、自力でその魔法を、感覚だけで展開している」
魅了や誘惑は闇属性の魔法の領分であるらしく、それ故にあまり強くはない魔法に気がついたルアは「フォルテ様に阻まれているが、効いていたなら少しくらいあの女を気にする素振りを見せたかもな」と淡々と告げた。ハロルドにしてみれば「腐れ外道再び」案件なので女神フォルテに対する感謝の気持ちが強くなった。
「魔法使い、魔導師あたりのジョブスキルを得ている可能性がありますね。そういったスキルを持つ方々は多属性の魔法を使いやすいと聞いたことがありますし」
白髪に柔らかな金色の瞳を持つ少年妖精がそう続ける。敬語で話す彼はルクス。ルアと共に生まれた光の魔法を主に扱う妖精である。
育てていた花から本当に妖精が生まれたらしく、三妖精から話を聞いた時はハロルドも頭を抱えた。とはいえ、「二人の分」と新しい水晶花の種も押し付けられたことも考えると、彼らも出ていく意思はないようだった。もうここまで来たら妖精の数名くらい同じか、と腹を括った。
「もうこうなると、第二王子殿下の周囲もきな臭いような気がしてきた。ちょっと探ってもらおうかな」
聖女のことも気にかかっていた。ハロルドが多少とはいえ関わりがあったのはエレノアの一件だけだ。直接会うことはなく今まで来ている。そもそも、王族の婚約者全員ヤバいやつ問題から考えても政治的バランス以外にも何かあるのかと勘ぐる気持ちがないとはいえない。
(調べるとなると誰か雇うべきかもしれないけど、人間の知り合いより人外の知り合いの方が多いんだよな。俺)
女神フォルテとの邂逅から始まって、バリスサイトで出会ったローズたち三人、ブラン、そしてルクスとルア。
そして彼らは隠れられはするけれど、腹が立ったらぶっ殺しにかかるスーパー物騒な存在である。
少しだけ考えて、こういう調べ物が得意そうな権力者を一名、脳内で選出して筆を取った。
「ハル、飯作るぞ〜!」
「わかった」
呼ばれてハロルドはエプロンを手に取った。普段から当番制で家事をしていたが、今はとりあえず分担してさっさと済ませ、授業の予習復習などを一緒にやっている。
ハロルドたちは第2学年でも一番下のクラスであり続ける予定はない。ルートヴィヒと同じクラスであった方が楽しいだろうという思いもあって上のクラスを目指している。勉強にも手は抜けないのである。
女神、実は良い仕事をしていた。
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