2.冒険者活動
その日はロナルドを見てすぐに帰ることにしたけれど、翌日には彼がいないことを確認してから再度訪問した。
「ああ、あの人滅多に来ないからそこまで気にすることはないわよ」
依頼を受けに行った先で窓口のお姉さんがそう言って苦笑した。
彼女曰く、ロナルドは数十年ぶりに現れた“勇者”のジョブスキルを持つ人間らしい。ハロルドからすれば「あれが勇者とか終わってんな」と地面に唾でも吐き捨ててやりたい心境だけれど、表情には出さなかった。というか、出さないように心底努力した。
ロナルドはそのジョブスキルから姓も賜っている。ハロルドたちの2歳上なのでまだ14歳のはずだが、その年齢で異性を侍らせてもいるらしい。冒険者ギルドでの横柄な態度はいつものことで、自分は勇者だから何をやってもいいとでもいうような思考で行動している。
「国も勇者を他国に出すわけにはいかないからとある程度の優遇を認めているけれど、流石に昨日は態度がひどくって。窓口を国の魔学部だけにすることになったの」
昨日のアレはハロルドたちが帰ってから殊の外、大きな騒ぎになったらしい。困った顔の彼女に「そうですか。ありがとうございます」と微笑むと後ろで大きな音がした。
「あああああああ!!?取っ手が取れた!?」
ドアの取っ手を持った少年が青い顔でゆっくりと後ろを向いた。
「弁償」
筋肉が立派なギルド職員が少年の肩を叩いた。
だろうな、と周囲も頷いた。どれだけの力を込めればポキっとドアの取っ手が取れるのだろうか。
「そんなぁ……」
愕然としているが、壊したものは直すのが常識である。
しょぼしょぼと連れられていくその少年はハロルドたちと同い年くらいだろうか。平民にしては良い仕立ての服を着ている。多少裕福な家の子息に見えるが、貴族であっても多くの場合、次男以下は自身で身を立てるか婿入りをすることになる。そういった家庭の事情なのかもしれないと考えないことにした。
王都まで来れば魔物の分布も変わる。
ダンジョンもあるのだと教えてもらったけれど、二人はガツガツ稼ぎたいというよりは「安全に少しばかり貯蓄できて、学園生活に困らない程度の金が欲しい」というペアだった。王都近郊のダンジョンのランクはそう高いものではないが、入るにしても下調べがある程度終わってからでないと入る気はしない。
ハロルドとアーロンの家族は二人を心配している。家族を悲しませる気のない二人は石橋を叩いて慎重に渡るという方向で話し合いをしている。
「手堅くボア系か?」
「そうだね。もう少し実際の場所とかこの辺りの魔物を見てみないと自分のレベルと合ってるか分からないし」
そんな二人を見ながらギルド職員の何名かは安心していた。なにしろ、2年ほど前に来た現勇者様は自分の実力に見合わない魔物のいる土地へと乗り込んで大混乱を起こした前科がある。そうでなくても、田舎からやってきた若者は学園に入ることができたのは自分が優秀であると、認められたからだと、天狗になっている者が少なくない。
この時期になるとそういった意味合いで “やらかし” が増えるためピリピリしている。その中でのこの慎重さは歓迎すべきものだった。
二人は相談して採取とボアの討伐任務を受注して去っていった。
そしてその後すぐに「田舎から来たらしい子がCランク相当の魔物に追いかけられてる!!」と冒険者の一人が飛び込みで入ってきた。毎年のことだ、と待機していた職員と冒険者数名が走り出した。
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