30.ストレス発散
ブライトによる愚痴を聞き、とりあえずストレス解消に連れ出すことにした。
まだ雪が降ることもある季節だが、冬眠している魔物ばかりでもない。うろちょろしているものもいる。
無の表情でメリケンサックを装着し始めたブライトに二人はなんともいえない顔をした。
普段はルートヴィヒの側についているため、一応剣を持っている。だが、ブライト曰く「すぐに壊れるからお財布事情的には非効率なんだよね」らしい。訓練もしているし、筋が良いと言われているブライトだったが、本人は棍棒とか丸太持ってぶん殴ったほうが早いと思っている。壊れても罪悪感がないそうだ。
「お前、棍棒とかはもう卒業したのか?」
「ルイは気にしてなかったけど周りがやめろって言うんだよね。一応外聞もあるからって」
「メリケンサックは良いのか?」
「こんなところでとやかく言うヤツいないでしょ。それに、これなら見つかりにくいし……ねっ!」
振り向き様にスノーディアーを沈めたブライトは「この力加減完璧じゃない?」ときゃっきゃしている。確かに角が折れていないし、首も飛んでいない。速やかに、一撃で頭を殴って絶命させていた。
「殴ってるとこ見つからなきゃいいんだよ。一応拳闘も習ってるんだけど、正直武器持つよりしっくりくるんだよねぇ。剣より安いし」
感覚を確かめるように手を開いたり、閉じたりする。ブライトの嫌な過去なので口にはしないが、二人とも「まぁ、素手で相手殺して生き残ってきたんだもんな」と少し思った。
「ブライトに合う武器を探すなら、それこそ最高品質級の金属を探すところから始めないと無理だよ」
「ルイと同じこと言わないでよ〜」
そうでもしないと、彼の怪力に耐え得る武器はないのだ。ダンジョンに篭ってドロップアイテムや宝箱を狙うか、採掘や研究を頑張るか。そういった手段で装備を探すしかない。
「ま、その辺りは追々考えるしかねーだろ」
そう言いながらアーロンがまだ少し遠くにいたはずのホワイトクックを仕留めているのを見ながら、ハロルドは「今一番弱いの、俺では?」と思った。実際に口に出そうものならば「そんなわけでないでしょ」と言われること必至だ。
「ほら、犬っころ取ってこい」
「がう!」
不服というような反応を示しながらもフェンリルは獲物を取りに走っていく。その後ろ姿を目で追いながら、ハロルドは「そういえばさ」と以前から思っていたことを口に出した。
「フェンリルって名前あるの?」
「あー、流石に犬っころが名前じゃないよね」
二人はそう言うと、アーロンは考えてもいなかったようでちょっと居心地の悪そうな表情になっていた。
「あー……犬っころのコロでいいか?」
「流石に可哀想じゃない!?」
名前をつけてもいなかった事実とあまりにも適当な名付けにブライトがそう言うと、アーロンは考え込む。
フェンリルが帰ってきたころ、その姿を見て一つ頷いた。
「スノウはどうだ。雪玉みてぇだし」
「コロよりは、まぁ……」
そんなことを言っていると、フェンリルの姿が白い光に包まれた。雪に反射して酷く眩しい。
「やっと名前をつけたな!?」
そこにいたのは犬耳、犬尻尾がついた白髪にアイスブルーの瞳を持つ少年だった。片手に持っているホワイトクックがそれが誰かを示しているようだった。
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フェンリルは男の子。




