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【書籍化】巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない【4巻制作・コミカライズ化決定!】  作者: 雪菊
3章

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29.ブライトの憂鬱



 報告だけすればあとは国が全部やってくれるので、ハロルドたちは普通の生活に戻っていた。いつも通りにせっせと家庭菜園の世話をして、いつも通りに冒険者ギルドで依頼を受けて食肉と稼ぎを得る。

 変わったことと言えば、たまに会いに来るブライトがコソコソとしていることと、どこか怯えたような顔であたりを見回していることだろうか。


 新学期を数日後に控えた頃、ハロルドはついに「何かあったの?」とブライトに問いかけた。少し迷うような様子を見せる彼に、「面倒ごとは早めに片付けておくべきだよ」と投げかける。



「いやあの、なんて説明するべきかわっかんないんだけどね」



 困ったような顔で観念したように話し出した。


 冬季休暇が始まったばかりの頃。

 いつものようにルートヴィヒの侍従のような仕事をしていると、書類を運んでいる最中に一人の令嬢が数名の令嬢に取り囲まれていた。一方的に何かを言われているのを見て、ブライトは流石にこの状況はまずかろうと推定被害者の令嬢を助け出した。



「それが間違いだった……!」



 女の子を助けたのが間違いだなんて、何があったのだろうか。ハロルドとアーロンは二人ともそんなことを考えながらブライトに続きを促す。



「その女、ジョシュア殿下の婚約者のご令嬢だったんだけど、とんでもないヤバい女だったんだよ!」


「王家、見る目ないの?」


「僕はヤバいところしか見てないけど、今回僕と出会うまでは感情は見えなくても大人しくて賢い人だったらしい。だから一概には言えないんだけど……ヤバい女だったんだ!!」



 王太子の婚約者は仕事が大変すぎて逃げて、第二王子の婚約者はヤバくて、第三王子の婚約者もヤバい。

 やっぱり女見る目ないんじゃないかな、とハロルドたちが思っても仕方がない。



「僕今なら思うもん!!ジョシュア殿下が聖女に転んでも仕方ないよねって!!普通、僕がルイの侍女とちょっと話していただけで火の玉放り込んでくるぅ!?」



 何それ、と思わず理解が及ばないという表情をした友人を見て、ブライトは机に突っ伏した。



「なんで?なんで一回助けただけで“わたくしの王子様っ!”なんて言うの?意味がわかんない。すごい頻度で突撃してくるし、正直邪魔!!ルイたちが抑えてくれてるからまだ売られてないけど、僕が何かをやらかしたらすぐにあの女に売り飛ばされる……」


「第二王子の婚約者なんだから、そんなに簡単に売り飛ばされる?とかはねぇだろ」


「いや、あの女、手がつけられないからやるね!!」



 第二王子に対する対応とは天と地ほども差があるらしい。


 伯爵令嬢であった彼女、エリザベータ・タンザナイトは、政治的バランスを取るために第二王子の婚約者となった少女である。当時から感情の表出はあまりなく、静かな少女であった。

 婚約者となって数年後、エリザベータの母親が死去する。伯爵は1年後に後妻を取る。後妻とともに現れた二ヶ月しか歳の離れていない妹は伯爵にそっくりで、前夫人の生きている時からの関係性を匂わせるには十分だった。

 後妻は前妻の娘に辛くあたり、彼女から価値あるものを娘と共に取り上げた。愛人だった今の妻は大切らしい伯爵もエリザベータを守ることはなかった。

 そんな彼女ではあるけれど、第二王子はそれなりに気を配っていたので、健康状態に問題もなければドレスなどに困ることもなかった。異母妹は第二王子を籠絡しようとしたけれど、彼は不快そうにそれを振り払っていた。

 けれどエリザベータは後妻と異母妹のいびりにも、それをある程度は助けてくれた第二王子にもその態度を変えることはなかった。ただ命令されて動く人形のように日々を過ごしていた。


 けれど、ブライトと出会ってエリザベータの瞳に光が灯った。

 俗に言う、一目惚れである。


 ブライトの愛らしい顔と、思いの外強い力。優しい声音。そういったところがエリザベータに刺さった。初めて興味を持った人間はよりにもよって婚約者の、弟の、友人だった。


 エリザベータは今までの無感情無関心が何だったのかと思うような熱量で、父親を蹴飛ばし、継母と異母妹を本気で泣かし、異母弟に「お願いだから大人しくしてください姉上!!」と嘆かれながら婚約解消と囲い込みに動いている。

 認められていないのは現王リチャードがNOを突きつけているからだ。こんなしょうもないことでハロルドの怒りを買いたいと思うわけがなかった。



「つーか、怖がられてんじゃねーか。別に国に利もないし、息子の友達売り飛ばすほど腐ってるつもりねぇんだよな」


「堂々賄賂を渡してこようとするあたり、底が浅いというか……。前夫人は立派な方だったのに」



 確かに手がつけられない暴走娘ではあるが、ブライトは自分が思うよりは友人ガードで守られている。少なくともハロルドとルートヴィヒに見捨てられないうちは多少のことでは売られない。だが、婚約解消に向けて動いている。

 とはいえ、優秀な令嬢であるエリザベータには利用価値があるせいで、まだ悩まされそうだとブライトは疲れたように溜息を吐いた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

感想も嬉しいです。ありがとうございます。

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