27.王都の自宅
休みの期間なんてそう長くはなかったというのに、王都の自宅を懐かしく思いながら、ハロルドとアーロンはその扉を開けた。妖精たちの求めに応じて、彼女たちの水晶花を異空間収納から取り出す。
「温室の方に置くか」
妖精たちにあげた水晶花と比べるとやはり異様に大きい気がする。それで困るのは持ち運びだけなので、ハロルドは「土に植え替えるか鉢植え替えた方がいいかな」なんて思いながら温室の扉を開いた。
中にある薬草は丁寧に世話をされているようだが、よく見れば少し萎れているものもある。近づいて、葉を触り、それから土に触れる。
(うーん。ちょっと液肥が足りないかな。あとは土の中の魔力が少し減ってるのかな)
地面に手のひらを当てて、瞳を閉じる。少しずつ、探るように魔力を足していく。妖精とのリンクの影響でハロルドの魔力は自然に溶けやすい。他の人間には難しいことをやっている自覚はないまま、「これでよし」と液肥を取りに向かった。
「やーん、これもうちょっと栄養与えてもよくなぁい?いいわよね、ねぇ?」
リリィが大きな水晶花に頬擦りしながらその蕾に触れていた。ローズは少し不安そうな顔で「妖精王様ってば、ほんとにこの種を渡してもよかったのかしら」と言った。
「実際、大きく育ったの、ハルのおかげ」
「それ、やっぱり異様に大きいのって何かあるのか?」
一応気にしないようにしていたハロルドではあるが、理由があるならば聞いておきたいと会話に割り込んだ。手に持っている液肥をリリィがじっと見つめている。
「トクベツな品種だからよ!それで、ハルぅ。ウチぃ、それ欲しいな〜」
「それ、薄めないと多分濃いよ」
希釈してからリリィにそれを渡す。嬉しそうに抱きしめて二輪の水晶花に向かっていく。
(というか、それこそ妖精が一人入ってても驚かない大きさなのに、余計に大きくしようとするんだな)
ハロルドは「中に本当に妖精が入ってたりして」なんて考えてから、流石にそれは考えすぎかと首を振った。
「ハル、飯買いに行こうぜ!ついでに色々買い足しとかないとな〜。もう少し向こうにいるつもりだったから保存庫もすっからかんだ」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
呼びに来たアーロンの言葉に頷いて、「野菜は持ってるよ」とハロルドが言う。足元にもふっとしたフェンリルも顔を出している。
「肉はもう今日は狩りとか行くには面倒だし、ちょっとだけ買うか」
「そうだね。じゃあ、肉屋とパン屋は絶対行かないと」
「パンも毎日焼くのは面倒だよな〜。こっち来てから母ちゃんのありがたさを感じる」
毎日のお手伝いと、毎日しっかりと家事をしなくてはいけないのとでは作業量が桁違いだ。親元を離れると苦労するのは現代日本でも異世界でも同じである。貴族であるのならば家から使用人がついてくることもあるけれど、二人は別に裕福な家の生まれではない。あまりたくさんは外食もできないのだ。
それでも気の置けない友人との暮らしは存外楽しい。いつものように話しながら、暗くならぬうちにと買い物に繰り出した。
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