1.王都へ
ハロルドとアーロンは本人たちがどう思おうとエーデルシュタイン王国の民であるので法律には従わないといけない。渋々、進学を決めた。
ギルドでの説明通り、交通費含む学園の諸費用は王国負担となっていた。それでも片道に長くて二週間もかかる場所に行きたいとは早々思えないが。
平民から王国立の学園へと入る平民は二人だけではない。馬車の中で変わっていく街並みに同乗した生徒たちがはしゃぐ様子も見られたが、ハロルド自身は都会的な街並みになるにつれ無表情へと変わっていく。王都に着く頃には絶望感溢れる空気を纏っていた。
(都会に来たら流石にもう少し埋没するかと思ったのに、普通に目立つな)
自分の顔の良さを舐めていた、と頭を抱えたい。幼い時に攫われた貴族子息と言っても信じてしまわれそうなくらいハロルドの顔は整っていた。中身がアレでも顔の造形がそこそこ整っていた両親の遺伝子が奇跡的に良い仕事をして優美でどこか儚げな顔をしている。どうしてか長時間外にいても日焼けなどもしないし、服が古着でなければとてもド田舎に住む平民の子どもには見られなかっただろう。それが女神の好みが反映された、その寵愛による産物だとは当の女神以外に気づく者はいなかった。
学園に通う者は全員、制服を支給される。採寸で着替えさせられたハロルドは余計にキラキラしかった。アーロンが絶句するレベルだった。不機嫌そうに立っているだけなのに、なぜか周囲には「困っている儚げで美しい少年」に映る。アーロンはハロルドと仲が良いのであからさまに不機嫌だと察していたけれど、男女年齢問わず口説こうとする者たちがいるのを見て、可哀想な子を見る視線を送っていた。
「俺、ここでの生活危ない気がしてる」
警戒するようにそう口に出したハロルドの言葉をどう否定すればよかったのだろうか。
「俺、お前の綺麗な顔のこと、モテて羨ましいなって思ってたけど考えを改めるわ」
見慣れているアーロンは何も感じないけれど、目立つことを避けて通れないことを嘆く友人が不憫でならなかった。ハロルドはどちらかというと目立つことや騒がしいところが苦手なタイプだった。
採寸を終えた後、寮に案内されてそこに荷物を置く。二人が同郷なのもあって同室にしてもらえた。二段ベッドと二つの机、設置された棚は自由に使っても良いと説明を受ける。場所によっては採寸が終わり次第一旦家に帰ることができるが、二人の住む村は馬車で片道約二週間のド田舎である。戻ると入学式に間に合わないので帰ることができない。他にもそういった生徒はいるようで、新学年を迎えようとしている学生の一部ももう寮に戻ってきている様子だった。
住居も学費も制服代も勉強道具一式も、おおよそ用意してもらえるけれど、学園に滞在中の食事代は稼がなくてはいけない。あとは休日用の私服や冒険者活動で使う物品はどうしても自己負担になる。自由になる資産がなくては何かあった時に対応が困難だ。早めに冒険者ギルドを確認しておく方がいい。それなりに苦労している二人はその辺りの考え方が似ていた。
王都の冒険者ギルドは村にあるものと違って窓口が複数あった。歩いている冒険者たちの装備も様々で、小遣い稼ぎをしているような小さな子どもから、ガッツリ鎧を着込んだおそらくは上位ランクの者までいる。
窓口で「平民だけど国の規定で王国立の学校に通うことになった」、「しばらくこちらで冒険者活動をしたい」と伝えて登録をしてもらう。あらかじめ申請をしていた方が、トラブルにあった時などに間に入ってもらいやすいという地元のギルド職員のアドバイスに従った形になる。
慣れたように登録をしてくれる受付のお姉さんは施設についてのパンフレットなどを渡してくれた。「頑張ってね」という笑顔に二人で返事をすると微笑ましげな目で見られるのは子どもだからだろう。
「ハァ!?あの魔物の素材がこの程度の値段の訳ねぇだろ!!」
大声が聞こえてそちらに視線が向く。
嫌なものを見た、と該当人物を確認したハロルドはすぐにアーロンの腕を引いた。
「あれとはなるべく近づくなよ」
「まぁ、あんな態度悪いやつとか声かける気もしないけど……」
その人物はロナルド。
ハロルドの中では、これから先の人生でも関わりたくない人間の筆頭だった。
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