22.ダンジョン最奥
大きな扉があった。
それを開くと、今までとは規模の違う大きな空間が現れる。なぜかそれに闘技場のような印象を受けた。
正面にはもう一つ扉があって、それがゆっくりと開いていく。そして、その存在を見せつけるかのようにミノタウロスと馬頭に人の身の魔物がいた。
(二匹並ぶと、地獄にいるっていう牛頭馬頭っぽいな。俺も漫画くらいでしか知らないけど)
ゴーレムではないのか、と思いながらただならぬ雰囲気に警戒をする。突撃していくユリウスとアルマを見送ると、先ほどまでの道中では楽々といった様子だった彼らが少し苦戦しているように見えた。
道中の魔物との差を考えていると、地面の下が丸い扉となっていたようで、そこから上がってくるものがあった。ハロルドの目の前にコアのようなものが浮かぶ。それは赤く輝いて砂を巻き上げ、ゴーレムになった。
「どういう仕組みだ……?」
「倒した魔物に対応して、出てくる感じかしら!?」
「嫌」
「こんなとこ、早く出たぁい!帰りたい〜!」
なんにしても苦戦するのだろうな、と襲ってくる大きな腕を避けた。
避けた後には、その力を示すように大きな拳の跡がついていた。避けきれなかった時のことを考えるとゾッとする。道中にいたゴーレムと違う点も恐ろしかった。砂を使った魔法も行使してくる。
(学習してるのか?)
まさか、と思いつつも氷の礫を発射する。
足場を崩すタイミングや、土魔法で杭のようなものを作るタイミングもハロルドが道中で倒した時と似ている。
厄介だ、と唇を噛んだ。
とはいえ、裏を返せば「使用していない手は通用する」とも考えられる。
「助けに来てくれたアーロンたちのためにも、ここで死ぬわけにはいかないよな」
潤沢な魔力と多くの属性魔法。人によっては気軽に何種類も使用できない属性魔法でも、ハロルドはそんなこととは知らず「理論がわかるからイメージでなんとかなるな」と使いこなす。
物理攻撃には滅法強いゴーレムではあったが、魔法攻撃への耐性はそう高くはない。どういう意図のダンジョンかはわからないが、この魔物なら倒せる、とハロルドは今度は足場をぬかるみに変えた。
色とりどりの花が溢れている。
水場は美しく、少し遠くにはハロルドから捧げられたバラが見えた。
「なんで、ハルばかりこんなに巻き込まれているのかしら!?ああ、医神も消耗してるし!何で?何でこんなトラブルばかり……!?」
精霊を唆して復讐を遂げさせてやった女神フォルテは、その後も稀に癒しとばかりにハロルドたちの様子を見ながら世界の調整を行っていた。
ところが、以前フォルツァートに強要された無理な降臨のせいで弱っていた医神を、人間が呼び出して薬を作らせていた。フォルツァートがいつぞやの聖女を心配して力づくで人の世界に連れて行き薬の製造方法を吐かせた時に弱ったまま、されど大した信仰も与えられず彼は神の座から堕ちようとしていた。
辛うじて見つけたフォルテが拾い上げて、ほっと息を吐く。
そして回復させようと神殿で眠らせて「卵の件もあったし、ハルを眺めましょう!」とうっきうきで水鏡を覗いた。そうしたら、やらかしやがった国がさらにやらかしやがっていた。
軽く調べれば、一番は王が悪いらしいけれど、ハロルドを狙う人間はたかが一人の王子のために自分のお気に入りたちを傷つけようとしていたようだ。
「神獣は生まれたばかり、あの子は消耗が激しい……。元々気に食わなかったし、私もまだ本調子ではないから、想定よりは軽く済むのではないかしら」
ダンジョンの最奥に辿り着き、戦うハロルドに一時的に強化を与えた。それと同時に神託を降ろす。
「あら、何か見当違いな理解をしているのね。神が一柱でないということも含めて少し思い知るといいわ」
美しき女神はうっそりと笑みながら水鏡を撫でた。
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ダンジョンの最奥は挑戦者にとって試練の場。
本来気ままな神にとってお気に入りとそれ以外の人間の価値なんて等価ではない。




