15.神狼と狩人
「何が覚悟だ!?神獣っつーなら、トカゲ一匹消し飛ばして見せろや!!」
アーロンの鬱憤たっぷりの叫びに、卵はピカピカ光って浮きながら、けれど困惑した様子を見せた。
「なんで、加護を、持ってるだけで、俺の友達が狙われ続けないといけないんだよ!ふざけるんじゃねぇぞ」
怒りだとか悔しさだとか、色んな感情が混ざり合って地団駄を踏んでいる。それが他者のための怒りなのが彼の善良さを表しているかもしれない。
卵は「ええ〜……」みたいな雰囲気を出してはいるけれど。
「できるのかよ、できねぇのかよ」
「で、できる!こともなくもない……」
「はっきりしろ!!」
「寒さで弱っているはずだ、不可能ではない!!」
その言葉を聞き出したアーロンは「初めっからそう言えよ」と急に落ち着いた。いや、これは落ち着いたというのだろうか。ハロルドがいなくなって騒いでいる騎士たちをチラとだけ見て、「じゃあ、行くぞ」と騒ぎのあった方角を見据えた。
「絶対にハルを連れて、生きて戻る。難しかろうが、不利だろうが、こんな理不尽受けてたまるか」
光る卵に手を伸ばす。
そして、指先が触れた瞬間だった。光がパンと弾けると、それは徐々に形がはっきりとしていく。
そしてそれが形になると、アーロンの目が点になる。
「わふ!!」
そこにいたのは真っ白ふわふわの子犬だった。「犬が卵から生まれるのは違うだろ」という斜め上の感想が出てしまう。卵の時は流暢に話していたのに生まれたら「わふ!」なのも混乱に拍車をかけたかもしれない。
「無理だな。女神様に祈れば何か返答あるか?」
「おい!おれは、ふぇんりるなんだぞ!!」
「子犬だろ」
「ふぇんりる!!おおかみ!!」
白い毛玉が辿々しく話し始めるけど、子犬とドラゴンを対峙させたい人間はいないだろう。どうしたものか、と思っていたら目の前の子犬が巨大化した。そして、アーロンの首あたりを咥えるとひょいと上空に投げ出した。
驚いていると、背中に落ちた。
「アオーーーン!!」
それは遠吠えをすると、走り出した。
背中でアーロンが「ちょっと待て!!待てってば!!」と騒いでいたけれど、神狼たるそれは止まらなかった。
“生きて帰る”と覚悟を示した少年を乗せて、フェンリルは走る。風を切って、雪を舞いあげて。
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ちなみにフェンリルが欲しかった覚悟は「生き残る」覚悟。
神獣によっては「戦う」覚悟が欲しいやつもいるし、「守る」覚悟を欲しいやつもいる。