10.女神とスキル
症状が軽快したアーロン妹は案の定薬を嫌がったが、アーロンは笑顔で全部飲ませきった。結果的に完治し、妹は元気になったと満足そうに彼は頷いた。
女神を信仰して欲しいと言われたけれど、と悩むような素振りをする。ハロルドのように祭壇のようなものはいるのだろうか、と思ったがあの神棚を作るような妙な器用さはないので諦めた。
(親父曰く、神って結構祟るらしいし変なもの作るのもな)
王都では何年かに一度、勇者や聖女が現れる。彼らはその身に主神であるフォルツァートの加護を受けている。そして、彼らから敵視されるとそれだけで不幸が襲ってくるというのだから理不尽である。
逆を言えば、好かれればそれだけ運が良くなるというが、そんな事象が起きれば聖なるジョブスキルを持っていても権力者に囲われ変わっていくのは仕方のない話ではある。
アーロンの父は王都の学園に通わされていた時期があった。その時には賢者というジョブスキルを与えられた男が召喚された。その男もフォルツァートの加護を得ていた。最初は大人しかった男は、自分の実力と神の加護を知った瞬間、横暴になった。
そんな話を聞いているアーロンは加護をそこまで良いものか、と問われると首を傾げるしかできない。けれど、ハロルドは特に慢心した様子もなかった。それから考えるに、女神フォルテの方が主神と言われる男神よりも尊敬できる存在なのではないかと思えた。何を警戒しているのかは分からないが、加護のことは秘密にしてほしいと言う。友人の秘密を売るほど人でなしのつもりはない。
そんな彼にもジョブスキルが与えられたのは女神の采配なのかもしれない。
姿形は見えずとも、夢で「私の晴をよろしくね」などと言っていた。
「夢だけど、夢じゃなかった……」
夢で渡されたグリーンの石のはまった銀の腕輪が、いつの間にか装着されていた。魔力を込めると弓の形になるし、意識した属性の矢を放てる。魔力をガンガン消費するのが難点だろうか。
冬の終わりに、ハロルドに相談すると「あんまり人前では出さない方がいいかもな」と言われた。襲われ、奪われることを危惧して二人はそっと頷き合った。
「なんかさ、主神のやらかしの巻き添え食いやすくなるから大人しくしといた方が良い気がするんだよ」
真顔の友人に、「それ主神じゃなくて邪神じゃね?」なんて軽口は叩けなかった。当のハロルドは「こうやってスキルって与えられるのか」とちょっと感心していた。
その後も友人二人は周囲の大人を頼りつつ、詐欺などに遭わないように勉強や生きるための狩りと家庭菜園をやっていたところそれが仇となってある招待状が届くことになる。
それは、12歳になる年のことだった。
冒険者ギルド内では「あの二人、隠してるからどんなものかは分からないけどスキル持ってそうだよな」という話になっていた。ジワジワ二人の勉強のレベルアップを図っていた受付のお兄さんは国の規定通りにそんな二人を王都の本部への報告に上げていた。
その結果、王都に来てちゃんと魔法等の勉強をしなさい、という招待状が冒険者ギルドを通して送られてきた。
「え、どうしても?」
心底嫌そうな顔をするハロルドと「家のことあるしな……」と考え込むアーロン。
なお、ハロルドが行きたくない理由は幼馴染(好色)がいるのが分かっているからだ。
「どうしてもだよ。だって、君たち多分スキル持ちでしょ?そうでなくても、ある程度の魔法が使える子は危険性とか管理の問題からどうしても王都で勉強してもらわないといけないんだ。今なら勇者様とお近づきになれるかもよ」
「いや、別に会いたくないんですけど」
真面目にコツコツやってきたその結果が王都行きで、普通は喜ぶところをものすごく嫌な顔になっている。
「でも国家政策だから交通費とか学園での勉強にかかる費用は国が負担してくれるし、かかるのは食費とか嗜好品に関する費用だけ。向こうにもギルドはあるから、君たちみたいに真面目な子ならそこまで困るほどの負担ではないよ。それで学問を修められるのであれば破格ではないかな」
家に帰って相談するものの、両者とも「法律で決まっているしな」という反応だった。心の底から厄病神に会いたくなかったハロルドは嫌そうな顔をしていたが国に逆らってまで反抗することではないかと思い直す。
(心底、嫌な予感しかしない)
生活のための頑張りが逆効果になったハロルドはやはり不運なのかもしれなかった。
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