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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Say you love me.

作者: SHIZU

俺は大和創(やまとはじめ)。家族構成は父・建(たける)、母・智子(ともこ)、2つ上の姉・真理(まり)、1つ下の弟・瞬(しゅん)の5人家族だ。

父さんには2つ下の弟がいて、その保(たもつ)おじさんと会社を経営してる。

兄弟仲が良くて、実は家も隣同士だったりする。保おじさんところも、奥さんの美優(みゆ)さん、俺より3つ上の長男・瑛太(えいた)、俺と同い年の次男・晴(はる)、2つ下の長女・楓(かえで)の5人家族だ。

お互いほぼ毎日顔を合わせて、実質、6人兄弟みたいなもんだ。

特に同い年の晴とは、ずっと一緒だった。

従兄弟だけど、弟で、兄で、友達で、ライバルで、そして俺にとっては、初恋の人でもある。

いつから好きだったかは覚えてない。


「従兄弟って結婚できるんだって」

と中学2年生の時、晴が言った。

「へー」

調べてみると、本当に出来るらしい。でも従兄弟で結婚するカップルは実際にはあまりいないんだとか。

俺は気付いていた。晴の初恋は真理だ。

それでそんなこと言ったんだ。

真理は可愛いというより、どちらかといえばかっこいいかな。しっかりしてて、面倒見が良くて、女にも男にも慕われるタイプ。

小学生の頃から、俺らがいじめられたりしてると、瑛太と一緒に、いじめっ子を追い払ってくれた。

物心ついた時から晴は、

「真理ネェ!」

と自分の実の兄の瑛太よりも、真理にばっかりついてまわってた。

あいつの気持ちを知ったのは小学校6年生の時。

中学生になった真理が、父さん達と一緒に俺ら小学生組の運動会を見にきた。

徒競走で1位になった晴は、誰よりもまっ先に真理のところへ走っていき、そのことを報告をした。

褒められて嬉しそうな晴の顔、今でも忘れられない。

晴は運動神経が良くて、兄貴の瑛太は勉強が出来た。俺は運動は並だから、せめて勉強は晴に勝ちたいと、よく瑛太に勉強を教わった。

瑛太は真面目で穏やかな優等生タイプ。だけど芯はしっかりしてて、自分をちゃんと持ってる。俺の憧れでもあった。

瑛太に勉強を教えてもらったおかげで、どの高校でも好きなところ選べるくらいの成績はあった。

でも、俺はずっと一緒に居たくて、晴と同じ高校を選んだ。


高校生になっても、今までと同じように毎日一緒だ。晴は水泳部に入った。元々地域のスイミングスクールに通っていて、水泳は得意だった。俺はどこにも入るつもりはなかった。でも部活やってるあいつと一緒に帰るため、部活には入ることにした。

部屋で宿題をしながら晴が言った。

「創、部活どうすんの?」

「迷ってる」

「一緒に水泳やる?」

「俺あんまり運動部は…」

「じゃあ生徒会は?お前の成績なら立候補したって誰も文句言わないよ?」

「めんどくさそうだし、生徒会の活動に時間を使うのは良いとして、選挙のために時間を割くのはもったいない」

そんなもん入ったらお前と一緒にいる時間が減るじゃんか。

「まーそうだよな。軽音とか吹奏楽は?」

「それもありだけど、練習とか凄そうだし」

「努力家なのに練習はイヤ?」

と晴は笑いながら言った。俺が努力してるのは、晴に置いてかれたくないから。どっか片隅でもいいから、晴の視界にいるため。

「そうじゃないけど…」

「けど…あー。勉強時間減るからか。真面目だなー」

違う。俺の方が遅くなったら部活入る意味がないからだよ。お前の部活が終わるの待つための口実なのに。

「でも吹奏楽とかちょっと憧れたけどな。女の子も多そうだし。ほら、あんじゃん?高校野球の応援で吹奏楽部が来てるやつ。そっから恋が芽生えたりすんのかな?」

「なんだそれ。水泳部の応援には吹奏楽部来ないだろ?晴はそんなんばっかだな。真理に言いつけるぞ」

「あー!ごめん。軽い気持ちで言っただけだからさ。そういや真理ネェ、どこの大学行くの?」

「△△大学だって。最近、よく瑛太に勉強教えてもらってるよ」

「へぇ…いいの?」

「何が?」

「いや、別に…んで、どうすんの部活」

「どうしようなー。ちょっと考える。宿題終わった?じゃ、ご飯食べに下に降りるよ?」

「おう。もう腹減って死にそう!」

下に降りると、瞬と楓も居た。

「真理達は?」

と母さんに聞いたら、瑛太と図書館で勉強して、そっからなんか食べて帰るんだって。

最近多いな。あの2人が一緒にいるの。晴はショックだろうな。ふと横を見ると、

「いただきまーす!」

と言って、大好物のうちの母さんの作った生姜焼きを、美味そうに食べ始めた。

そうだ。部活決めた。


2日後、俺は入部届を持って部屋の前にいた。

「何!?入部してくれるの?」

後ろから声がして振り返ると、可愛い女の人が立っていた。

「あ、はい。1年の大和創です。これ…」

とその人に渡すと、

「入って入って!男子が来るなんて滅多にないから嬉しい!」

「よろしくお願いします」

「そういや…大和ってことは、ツインズのかたわれ?」

ん?ツインズ?

「大和君って水泳部に入った子と同じ名前やったよね?双子?ちょっと顔似てるし」

初めて言われた。

「双子じゃないです。従兄弟です」

「あー!なるほど。私は吉田伊織(よしだいおり)です。3年生はいないから、2年生だけど部長やらせてもらってるのー。よろしくー!2年生は5人。1年生は創君入れて7人ね。他みんな女の子だけど、仲良くなれると思うから、頑張って」

「はい。よろしくお願いします」

ということで、俺は料理部に入部した。


帰り道。

「はは。なんで料理部?」

と部活で濡れた頭を拭きながら晴が言った。

「まー美味しいもの食べられるし、料理出来たらモテそうだし、将来一人暮らししても、困らなさそうだし、その先結婚しても、家事の分担も出来るし。マイナスになることないだろ?」

「えー。一人暮らし?そんなん寂しいじゃん。お隣さんじゃなくなんのー?」

「お隣さんじゃなくなったとしても、従兄弟には変わりないんだから、寂しくないだろ?」

「んー。じゃあ創が一人暮らしする時、俺もついてく!毎日美味いもの食べさせて!」

「それ、一人暮らしじゃなくなるじゃん!やだよ…」

「何?そんなに俺と離れたいの?」

「そうだよー!」

「えー。晴くんショックだなー」

「なんだよ。晴くんて」

と俺は笑ってしまった。

「そういや、毎日あんの?料理部って」

「うん。土、日曜以外は大体。毎日調理ってわけじゃないみたいだけど。あと土曜はイベントとか応援のある時はあるって。運動部の合宿もついてってご飯作るって」

「そうなん」

「そだ!部長の吉田先輩、晴のこと知ってたよ。大和って名前の、雰囲気が似たような感じの子が水泳部にいるって。だからツインズかって」

「ツインズ?」

「先輩、俺たちのこと双子だと思ったって」

「なるほど。まあ似たようなもんだけどな」

「そうかな?」

「わかるだろ?小さい頃から兄弟みたいに一緒に育ったんだから。なんか双子みたいなテレパシー的なやつ!」

「んなもん俺らにあるか?」

「んなもん俺らにゃないか!」

と笑ってると家に着いた。

テレパシーなんてあったら、こんなに悩まないのかな。

違うな。俺の気持ちが、そのまま晴に伝わったら…考えただけでゾッとする。死ぬまで隠し続けなきゃ。


だいたい夕飯はどっちかの家に集まって食べる。

子供の頃、夕飯の時間になっても、遊び足りないと駄々をこねた俺達子供らのために、美優さんがついでだからと母さんたちも家に呼んで、ご飯を作ってくれた。それがこの習慣の始まりだった。

今はどちらの家に集まるか、母さん達がメッセージで知らせてくれる。

「今日は晴ん家だって」

「おー。今日は瑛太達もいるから鍋だってー!」

「いいな、鍋」

「俺、鍋好きー」

「俺も」

「何鍋好き?」

「俺はキムチ鍋」

「俺もー!めっちゃ辛いのがいい」

「じゃあ着替えたらそっち行く」

「おけ!」

と言って、お互いうちに帰った。

俺と晴のこんな関係、いつまで続くんだろう。一生このままがいいと思うけど、無理なのかな。急に彼女とか連れてきて、紹介されたらどうしよう。晴を突然失うのは怖いな。


もうすぐ梅雨入りになりそうなある日。

「今日はクッキー作ります」

と部長が言った。お菓子も作るのか。

他の先輩曰く、今日は部長の彼氏の誕生日らしい。

なるほど。職権乱用だな。部長の彼氏は水泳部らしい。だから晴のことも知ってたのか。

クッキーが出来上がった。初めてにしては上出来だと思う。それにアイシング?ってやつを先輩に教えてもらって、クッキーに太陽の絵を描いた。なかなかいい感じのが出来た。運動して、お腹空いただろうから、晴にあげよ。

先輩と一緒にプールの方へ向かうと、ちょうど練習が終わったとこだった。

「けーん!」

と言って先輩は、水泳部の彼氏さんのとこへ走って行った。晴も一緒に出てきたみたい。先輩がクッキーを渡すと彼氏さんは喜んで食べていた。その時、

「ん。お前も食う?」

と先輩の彼氏さん、沢口先輩って言うらしい。その沢口先輩はつまんだクッキーを、晴の口に持ってった。

晴は

「え!いいんですか?」

と言いながら口を大きく開けた。

ニコニコしながらクッキーを食べてるあいつを見て、俺は自分の持ってたクッキーの箱を、そっとカバンにしまった。

吉田先輩は晴達のそのやりとりを、何故だかスマホで撮っている。

帰り道、

「なぁ。お前のないの?」

「何?」

「創も料理部なんだから、クッキー作ったはずだろ!」

「さっき先輩にもらってたじゃん」

「やだ!1個じゃ足りない!」

「あげないよー」

「創、独り占めするつもりだろ!」

「いいじゃん!俺が作ったんだから」

と俺が逃げると

「俺にもくれー」

と晴は追いかけてきた。

俺よりも高い身長。水泳で鍛えられた逆三角形の筋肉。晴はいとも簡単に、俺の動きを封じた。

「やめろよ」

「ほら、だせよー」

「やめろ」

「全部食べないから。お前の分も残すから!」

「だからやめろって!」

俺の声にびっくりして、晴はすぐに俺の身体から手を離した。

「…そんなに欲しいならやるよ!全部食べていいから。先に帰る」

俺は鞄にしまっていた箱を晴に渡して、走って家まで帰った。

「あら、おかえり。晴は?一緒じゃないの?」

「もうすぐ帰ってくるよ。晩御飯何?」

「鮭のムニエル。あんた達好きでしょ?」

「うん。でも、俺今お腹空いてないから、俺の分晴にあげて。あいつがいらないって言ったら、後でお腹空いた時食べるから、冷蔵庫入れといて」

と俺は母さんに言って、自分の部屋に駆け込んだ。

まだ心臓がはち切れそうだ。

走って帰ってきたからじゃない。

あいつの近すぎる距離に、自分の感情がコントロール出来なかった。思わずパニックになった。

俺の鼓動が聞こえたら…どんどん熱くなる体温をあいつが感じたら…呼吸が激しくなるのを知られたら…その前に晴から離れたかった。

そして今もまだこんなにドキドキしてる。

心を落ち着けようと深呼吸した時、部屋をノックする音がした。

「創ー。ごめーん。そんなに嫌がるとは思わなかったから。クッキー、全部お前が食べていいから。智子さんに飯は俺ら部屋で食べるって言ってきたから開けてー」

「うん…今開ける」

と言って、もう1度深呼吸すると、俺は部屋の扉を開けた。

「ごめん。もうクッキー欲しがらないから、晩御飯一緒に食べよう」

「大丈夫。クッキーも一緒に食べよ。元々お前にあげるつもりだったし」

「うん。じゃあ仲直りな!」

「そもそも喧嘩はしてないけどね」

「でもお前怒ってたから」

「お前がいつの間にかあんなに力が強くなってたから、ちょっとびっくりしただけ。もう喧嘩したら、俺負けるな」

と笑うと

「大丈夫。手加減するから」

と晴も笑った。


夏以降の大会に向けて、夏休みは毎年水泳部の合宿があるらしい。3泊4日だって。テニス部も同じ日程で合宿があるから、料理部は二手に分かれた。

2年生は吉田先輩と吉田先輩の友達の東先輩。1年生は咲田さん、玉木さん、梅田さんの仲良し3人組と俺が水泳部担当だった。水泳部と同じバスで合宿所に向かかう。

バスは2人がけ。俺の横には、玉木さんが座っていた。その後ろに咲田さんと梅田さん。俺らの通路挟んで隣に先輩達。

晴は後ろの方で水泳部の友達とワイワイ話している。

出発してすぐ、俺は1年女子に囲まれた。

「創ちゃんはさ、相方と同じ水泳部じゃなくて、なんで料理部?」

と隣に座っていた、たまちゃんに聞かれた。

ちなみに、梅田さんはウメさん、咲田さんはさっきーと呼ばれている。

「なんでだろ?俺は水泳そんな得意じゃないし、料理部ってなんとなく楽しそうだったから」

「なんだ。はるるの献身的な妻になろうとしてるのかと思った」

と後ろのウメさんが言う。ちなみにはるるは晴のこと。この人達はなぜかそう呼んでる。

「妻って。俺男だよ?」

「じゃあ献身的な夫?どっちにしろ、そういう世界線もアリじゃない?」

と今度はさっきーだ。

「いや、アリじゃないでしょ。そもそも従兄弟だし」

と俺が笑うと

「従兄弟とは結婚できるよ?」

とふたたびたまちゃん。

「…いや、知ってるけど、従兄弟は有りでも男は無理でしょ」

と俺が言うと

「なにそれ!ダジャレ?」

「下手なラップみたい!」

と後ろの2人が笑いながら盛り上がってる。

「夫のために、美味しいご飯作ってあげようね!」

とたまちゃんが言った。

どうしても俺を晴の妻にしたいらしい。

俺らの会話を先輩達はニコニコしながら見ていた。

合宿所に着くと部屋割りが告げられた。

ん?なんで?

「先輩!なんで俺、晴と同じ部屋なんですか?」

「だっていくら仲良くなったとはいえ女子と同じ部屋ってわけにゃいかないでしょ。晴君なら水泳部の中でも気まずくなくていいかと思って」

「いやそうですけど…」

「ちなみに、1年は初めてだから説明しとくと、部屋にはベットが人数分あって、トイレは部屋の外。シャワーもね。シャワールームは時間で男女分けてるから、間違えないように。部屋を空ける時は、鍵ちゃんと閉めること。おっけー?…じゃ解散!夕飯の準備するから16時に食堂集合ねー」

と先輩が俺達1年に言った。

晴達1年も、顧問の先生から説明を受けてた。

水泳部は今から少し練習だって。今からプールに集合らしい。

あと、4時間か。何しよう。幸いWi-Fiは飛んでくれている。映画?観てもいいけど、水泳部は練習してるのに、俺だけ映画観るってのもなんか申し訳ない。

ベッドに横になりながら考えていると、メッセージが届いた。

"1年女子部屋に集合!"

なんか嫌な予感しかしない。

けどまあ仕方ないか。


俺はたまちゃん達の部屋の扉をノックした。

「お!来た来た!入って!」

たまちゃんに案内されて中に入ると、何故か先輩達もいた。

「なんかのミーティングですか?」

と俺が先輩に聞くと、

「まー、ミーティングと言えばミーティングよね?」

と吉田先輩がみんなに目配せをした。

「実はこれ、腐女子の集いなの。だから水泳部組はこのメンバーにしたの!」

また職権乱用かよ。んで、みんなニコニコしている。いや、ニヤニヤの方が正解か?ところで腐女子って…

俺の嫌な予感は当たってしまった。

「さっき!1年ズが創ちゃん達の話してたでしょ?あれ、私達も本当は参加したくってー」

普段はクールな東先輩までウキウキしてる。

「研が…あ、沢口君がこないだ、はるるにクッキー食べさせてたでしょ?あれ、私がやってって頼んだの!」

と吉田先輩が言った。この人、誕生日の彼氏に何させてんだ。

「確かにあの2人アリですよね!」

とウメさんが言う。

「そう!ビジュアル的にはアリなんだけど、なんかこうしっくりこなくて。そこで現れたのが創ちゃんだよ!」

と東先輩が言った。

「私も流石に双子なら諦めたけど、聞いたら従兄弟だって言うじゃない?創ちゃん、受けっぽいし、なんかこっちの方がしっくりきて、アリだなって!」

てか、しっくりきても困る。しかも受けとかよく本人の前で言うな…

「んで?実際のところどうなの?ただの従兄弟なの?特別な何かがあるの?」

女子5人に囲まれた俺は、圧倒されて一瞬言葉を失った。

「…そら、ただの従兄弟ですよ」

「んー。私達の勘は外れたかー?」

と東先輩が言った。

「勘?」

「そー!私達みんな絶対創ちゃんは、はるるのこと好きだって思ってたのにー!」

とさっきーとたまちゃんが声を揃えて言った。

「何で?」

「だって創ちゃん頭いいじゃん?本当ならもっと上の学校だって行けたでしょ?でもはるると同じ学校に行きたくて、うちにしたのかと思ったから」

さっきーが言った。

図星。女の勘て凄いな。

「それにね。クッキー作った時、焼いたクッキーに太陽の可愛いイラストをアイシングしてたでしょ?ほら、あれって晴だから晴れってことかなって」

ってたまちゃんが言った。

俺、アホだな。

女の勘が凄いんじゃなくて、俺が分かり易すぎたんだって今気付いた。そしてトドメを刺したウメさんの言葉。

「最初に何作りたい?っていうアンケートに、生姜焼きって書いてたから、創ちゃん生姜焼き好きなんだー!って言ったら、俺じゃなくて従兄弟が…って。それはもう献身的な妻になろうとしてるか、胃袋掴んで離れられなくしようとしてるかのどっちかでしょ!」

「俺そんなこと言った?」

「言った!」

全員が声を揃えて言った。胃袋掴もうなんて気はなかったけど、あいつが生姜焼き好きだから、作ってあげたいと思ったのは事実。本当は母さんに聞きたいけど、色々詮索されると面倒だから、料理部で教えてほしいと思っただけ。

俺のKO負けだった。もういいや。めんどくさい。話して楽になってしまえ。

俺は1つ深呼吸して言った。

「本当のこと言うんで、誰にも言わないでもらえますか?」

「うん!」

5人の目が輝く。

「…そうです。気が付いたら、俺は晴が好きでした」

「きゃー!」

5人の悲鳴がこだまする。

「でも、この気持ちは墓場まで持っていきますから、誰にも、もちろん晴本人にも伝わらないように、協力してください。お願いします」

「オタクは口が堅いからその辺は大丈夫!でもどうして?」

とたまちゃんが聞いてきた。

「どうしてって。家も隣で、毎日一緒にいて、兄弟みたいに育ったんだ。いくら仲がいいとは言え、俺がそんな風に思ってるって知られたら、絶対あいつに嫌われる。だからそれ以上の気持ちはなかったことにして、せめて仲のいい従兄弟のままでいようって思ったんだ。それならずっとそばにいられる。それに…あいつは女の子が好きだよ。俺のねぇちゃんのこと、昔っから追いかけてた」

と言った俺の言葉に、1年トリオは泣きそうな顔してる。

「そうか…でも心で応援しててもいい?」

と東先輩が俺の肩をぽんぽんして言った。

「ありがとうございます」

と俺は頷いた。


2時間くらい話してたな。

俺達は夕食の準備まで、水泳部の練習を見にプールサイドにいた。吉田先輩がポラロイドカメラを持って来た。最近はデータ保存もできて、同じ写真を量産することもできるらしい。もちろんその場で写真をプリントすることもできる。

「どうしたんですか?それ」

と俺が先輩に聞くと、先輩は

「私達、実はただのご飯係じゃないのよ。水泳部にはマネージャーがいないから、実はあの子達の使った水着、タオルの洗濯とかのサポート的なことから、卒アルと水泳部用アルバムの写真係も兼ねてるの」

「そうなんですか?知らなかった」

「写真はたまちゃん担当!中学の時写真部だったんだって!写真いっぱい撮っといて。きょうの夕飯はカレーだから、そんなに手もかからないし、練習終わった水泳部の子達と、一緒に戻ってきたらいいから」

「はい!任せてください!」

へぇ。たまちゃん写真に料理って。多趣味だな。

俺らは戻ってカレーの準備をしていた。この量すげーな。

母さん達がほぼ毎日、10人分のご飯作ってるの思い出して、心の中で密かに感謝した。

しかも育ち盛りの男子が4人もいる。

カレーを混ぜてる右腕が、だんだん痛くなって来た。

来年の合宿に向けて、俺も今から筋トレしようかな。


夕食後シャワーを浴びた後、俺はプールサイドにいた。飛び込み台の上に座っていた俺の後ろから声がした。

「創ちゃん!お疲れー」

「あぁ、たまちゃん。お疲れ」

「何?夫じゃなくてガッカリした?」

「してないよ。どした?」

「これをね。創ちゃんに渡したくて」

と言ってポーチから、1枚のポラロイド写真を出した。それを見て俺は思わず息を呑んだ。写真に写っていたのは、水着姿で夕日に照らされた、笑顔の晴の姿だった。

「よく撮れてるな。でもなんで俺に?本人にあげたら喜ぶよ?あとはアルバムに入れてあげたら…」

「もう!これは1枚しかないの!創ちゃん専用。データは消して残ってないから。だからその…ちょっとムラムラした時に、その写真で…ね?」

俺にだけ渡した意味を、その言葉で理解した。

「ちょっと!女の子がそんなこと言わないの」

「大丈夫。腐女子はその辺、理解あるから」

「そういう問題じゃないでしょ…」

「あ、シャワー切り替えの時間だから、私行ってくるね。創ちゃんまだいる?」

「うん。もうちょっと。ありがとう」

「はーい」

たまちゃんが行ってしばらくするとまた背中の方から声がした。

「創?」

「あぁ晴か。どした?」

「いや、今日全然話せてなかったなと思って」

「心配しなくても、俺ら同じ部屋だろ?」

「まぁね。そういやさっきすれ違ったあの子、可愛いよな。何話してた?」

「あぁたまちゃん?特には何も。なんで?」

「仲良しじゃん?バスも隣に座ってたし、話の内容はわかんないけど、今だってなんか渡されてたし…」

「あぁ、見てたの?そ。ラブレターもらったんだよ」

と俺は冗談でいった。だって晴の写真とは言えないし。

「ふーん。創にもついに彼女が出来るのか!いいですねー」

「付き合うとは言ってないだろ?」

「なんで付き合わないの?あの子といる時、楽しそうにしてるし、話も合いそうなのに。他に好きな子いるとか?」

「…いないよ」

「じゃあ付き合っちゃえばいいのに」

「本当にそう思ってんの?」

「おう」

「じゃあ考えてみるわ。俺部屋戻るけど晴は?」

「俺も戻る」

「いこ」

部屋に戻った俺は、とりあえず写真を財布にしまって、たまちゃんにメッセージを送った。

「明日、時間あったら話できる?」

「オッケー」

と返信があった。

晴は俺達のやりとりを見ていた。


朝ご飯の後、水泳部は練習でプールに向かった。

俺とたまちゃんは昨日の水着やタオルを洗濯していた。

先輩達は昼ごはんの準備だ。

「話って?」

「昨日俺達が会ってるの、晴が見たらしくって」

「え?話の内容は?聞かれちゃった?」

「いや、それは大丈夫だった」

「おー。良かった」

「でもなんか渡されてたって言われたから、晴の写真とは言えなくて、咄嗟にラブレターって言っちゃった」

「うん。仕方ないよね」

「あいつは他の人にペラペラ喋ったりはしないけど、もし晴に俺のこと何か聞かれたら、適当にあしらってもらいたくて。それで先に話しておこうと思った」

「わかった。はるるは昨日なんて言ったの?」

「あの子と一緒にいる時、結構楽しそうにしてるし、付き合っちゃえば?って」

「マジ?」

「マジ。本当にそう思ってんの?って聞いたら、うん、だって」

「なるほど…」

「だから何か聞いてきたら、適当に話し合わせといてくれる?」

「わかった」


夜、俺はまたプールサイドにいた。

大学は晴と違うとこに行こう。俺はきっとあいつの近くにいすぎた。だからいつまで経っても、気持ちの整理が出来ずにいる。大学も離れて、一人暮らしでもすれば、晴の姿を見なくて済むし、きっとこの想いも風化する…

「よ!」

「吉田先輩。どうしたんですか?」

「ん?うん…たまちゃんから少し話聞いてさ。大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「ならいいんだけど、私達、興味本位とかひやかしであんな話したわけじゃないからね?」

「わかってますよ」

「本当に応援したいだけだからね?」

「はい。ありがとうございます。でもこれであいつの中に俺は居ないってわかりましたから。従兄弟としてこれからもやってくだけなんで。今まで出来てたんだから大丈夫ですよ」

「でも辛いよね。話聞くからね。みんな創ちゃんの味方だからさ」

「ありがとうございます」

俺が部屋に戻ると、晴は自分の練習動画を見ていた。

「お、真面目にやってんね」

と言うと、

「合宿までやって、タイム上がらなかったら、沢口先輩に怒鳴られそうだからな」

「そっか。頑張れ」

「うん」


合宿3日目。朝練が終わって、お昼ご飯食べ終わると、晴とたまちゃんの姿がないことに気付いた。

どこ行った?まあいいか。食器の片付けしよ。

しばらくすると、晴とたまちゃんがひょこっと現れた。晴は午後練習でプールに向かった。

たまちゃんは小走りで俺に近付き、

「創ちゃん。今日また夜にプールサイドに来てくれる?」

と言った。

夜、夕食後に俺はプールサイドにいた。

「ごめん。お待たせ」

とたまちゃんが駆け寄る。

「どうしたの?」

「ちょっと話したくて」

「昼間のこと?」

「うん。私、あの時、はるるに創のこと好きなの?って聞かれたの」

「うん。そんで?」

「だから、ちょっと気になってる。もしかしたら好きかもって言ったら、少し考えたあと、創のことよろしくって言ったの」

「え?好きかもなんて言ったの?」

「うん。どんな反応するか見たくって。それにラブレター渡したって言ったんでしょ?なんとも思ってませんって言うわけにもいかないかなって」

「忘れてた…ごめん、たまちゃん」

「大丈夫。そんときのはるるが表情とかが少し気になったから、先輩やウメさん達に相談してみたの!それで作戦考えた」

「うん?作戦?」

「その結果。私達付き合ってみない?」

「え?」

「もちろんフリね。付き合ってるフリ。それではるるが自分の気持ちに、気付いてくれたりしないかなって思って」

「でも俺の問題にたまちゃんを巻き込むの悪いよ。それに自分の気持ちって、あいつは俺のこと最初から何とも…」

「でも1度試してみよ?それで本当に何も進まなかったら、むしろごめんて感じになるけど」

「そんな…」

「逆に腐女子達に生き甲斐を与えると思って?」

「…じゃあわかった。よろしく」

「やった!先輩達に報告しなきゃ!行くね?」

「あ、俺もシャワーの男女切り替えの時間まで、30分しかないから行くわ」

「じゃあ後で私達の部屋に来て!先輩達も呼んどくから!みんなで作戦会議しよ!」

「うん」


俺はシャワーを浴びていた。もうすぐ切り替えの時間だ。みんな駆け込んできたのか、5つ全部埋まってるみたい。

「うわ。満員じゃん。あと15分しかないのに!」

と晴の声がした。

「晴?俺もうすぐ終わるから、ちょっと待ってて」

「創?どこ?」

「1番奥」

と言うと晴が素っ裸で入ってきた。

「おい!まだ終わってないから!」

と頭を流しながら俺は言った。

「いいじゃん!従兄弟なんだし、昔は一緒に風呂入ったっしょ?」

「昔の話だ!」

「ちょうど良かった。部屋に忘れてきたから、シャンプー貸して」

「ちょっ!せっかく流したのに、また泡付いたー!」

「ちょっと狭いなー」

「自分のせいじゃん!」

と俺達がわちゃわちゃしてると、

「お前らー。早くしないと、あと10分で交代だぞー」

と沢口先輩の声がした。

気付くと、俺ら以外みんなシャワーを終えていた。

「ほら!早くしろよ!先出るからな」

「はーい」

あー!死ぬかと思った。心臓に悪い。一緒に風呂入るの何年振りかな。小学生の時以来だ。

身体を拭きながら考えていた。

部屋に戻って髪を乾かしていると、晴が帰ってきた。

「あー!焦ったー!」

「頭びしょ濡れじゃんか」

「だってギリギリだったから」

「ちゃんと拭きなよ」

と俺はスポーツタオルを、晴の頭めがけて放り投げた。

「さんきゅー。そうだゲームやろ?」

「少しだけな」

「何でさ。合宿中、全然話出来んかったのに。最後くらい遊んでよ」

「話はいつも家でしてるだろ?後で料理部の人と話してくるから、それまでなら出来るよ」

「ふーん。じゃあいいよー!1人でゲームするから」

「はいはい」

1時間くらいすると、たまちゃんからメッセージが来た。

「じゃあちょっと行ってくる」

「…戻ってくる?」

「当たり前だろ?眠かったら先に寝てていいよ」

たまちゃん達のところへ向かった。

多分2時間くらい話してたと思う。

戻ってくると晴はゲームをしながら

「おかえり」

と言った。

「うん。ただいま」

「ゲームする?」

「しないよ。眠くないの?」

「うん。俺、枕変わると寝れない」

「昔からだな。枕のせいかは知らないけど、中学の修学旅行の時も眠れなくて、同じ部屋の友達巻き込んで、朝まで怖い話してただろ。そのせいでみんなまで眠れなくなって、お前先生に怒られてたな」

と俺は思い出して笑った。

「…なぁ。そっち行っていい?」

「やだよ。ベッド狭いのに」

「お願い」

「昨日普通に寝てたでしょうよ」

「それでも夜中何回も起きた」

「確かにずっと寝苦しそうにはしてたけど…」

と俺と会話してる最中に、立ち上がってベッドに入ってきた。子供の時はよく同じベッドで寝たな。俺よりも体が小さかったくせに、いつのまにか体格がよくなって、力も強くなった。ここ何年もこんなことなかったのに。なんか悩み事かな。仕方ないから、俺は晴を抱きしめるように腕を広げると、

「違う」

と言って晴は、俺の首の下に腕を入れて、ぎゅっと抱きしめた。

ボディソープの香りがふわりと漂う。

ダメだ。ドキドキしすぎて、俺が眠れない。方向を変えて晴に背を向けた。

「おやすみ」

部屋に置いてある、古い時計の秒針の音が、ずっと耳に残っていた。


次の日、朝食食べて俺達はバスに乗り込んだ。

合宿はこれで終わり。

家に着くと、晴は俺の部屋にそのまま上がってきた。

「そういえば、玉木さん…だっけ?結局どうすることにした?」

「まあ、お前も勧めてくれたし、付き合うことにした。でもお互いこういうのは初めてだから、ゆっくり時間をかけていこうって」

「へー!良かったな!初めての恋人かー!おめでとう」

「おめでとうなのかわかんないけど、まぁありがとう」

「じゃあ俺と遊ぶ時間減っちゃうかもなー」

「そだなー」

「次はいつ会うの?」

「来週。8月10日オープンのパンケーキのお店があるんだって。ついてきてって言われたから、一緒に行ってくる」

「いいなー!俺も可愛い彼女欲しい!」

「もういい加減、真理に告っちゃえば?」

「何で…?」

「知ってたよ。真理のこと好きなの」

「まぁそりゃ好きは好きだけど…」

「グズグズしてると取られちゃうよ?他の人に。ほら、最近仲のいい瑛太とか」

「別にいいよ。俺はな。でもそうなると創は辛いんじゃない?」

「なんで?」

「瑛太のこと、好きだっただろ?」

「は?」

「ずっと勉強教えてもらってただろ?その時もうお前の瑛太を見る目がハートだった」

「まぁ好きは好きだけど、従兄弟だし、なにより瑛太は男だよ…そういうんじゃないだろ。尊敬はしてるけど」

ここで漫画なら、俺が好きなのはお前なんだ!とか勢いで言っちゃって、は!みたいな展開になるんだろ?

でも実際は、そうはいかない。

変な空気が流れる。耐えきれなくて、

「晴、もうすぐ誕生日だな。何か欲しいもんある?」

「特にはないよ…」

そっか。なんか機嫌悪い?

夕方、晴が自分の家に帰って、しばらくしてメッセージが届いた。

“誕生日、欲しいものはないけど、なんか美味いもの作って”

俺はすぐにグループメッセージでみんなに、それを転送した。すぐに返信がきて、吉田先輩が任せとけって言ってくれた。

ふとたまちゃんがくれた写真を思い出した。

財布から写真を取り出す。

“創ちゃん専用。だからその…ちょっとムラムラした時に、その写真で…ね?”

ダメだ。そんなことしたら後戻り出来なくなる。でも、写真を見たら思い出してしまった。シャワー室に入ってきた時の、あいつの身体。程よく焼けた肌。しなやかな筋肉。塩素で少し脱色されたこげ茶色の髪。昔は無かった背中のほくろ。なんだかんだ結構しっかり見てたんだな、俺。変態かよ。

ベッドで添い寝した時の温もり。髪にかかる吐息。ボディソープの香り。そんだけあれば充分だった。

はぁ…ほんと、ただの変態かよ。


8月10日。俺はたまちゃんと、駅で待ち合わせをしていた。

ちなみにさっきーとウメさんとは現地集合だ。

パンケーキ食べながら、晴の誕生日の作戦会議するんだって。

たまちゃんと合流したその時、

「おーい!創ー!」

と誰かが俺の名前を呼んだ。

声の方に視線をやると、水泳部の中で晴の1番仲良しの松本君こと、まっつんがいた。隣には晴もいた。

「おはよう!こんなとこで何してんの?」

「今日オープンのパンケーキ屋さんに行くんだ。だからたまちゃんと駅で待ち合わせして、今から行くとこ。まっつん達は?」

「俺らは買い物。今日発売の漫画買って、古着屋さんチラ見して帰る予定。な?」

とまっつんに言われて、

「うん」

とだけ晴は言った。

「急いでないなら、2人も一緒にパンケーキ行く?」

と俺が聞いたら、

「デートの邪魔しちゃ悪いから、俺らもう行くよ」

とまっつんの腕を掴んで行ってしまった。

「行っちゃったね」

「うん。俺達も行こうか。ウメさん達待ってるかも」

と言って俺達は晴達とは反対側に歩き出した。

店に着くと、もうウメさん達が中で待っていた。

席について注文をした。

待ってる間、ウメさんに

「はるるの誕生日ケーキの件だけど、好みは?知ってる?」

て聞かれた。

「もちろん。チョコよりショートケーキが好きで、入れる果物はイチゴだけ。本当は甘いものめっちゃ好きだけど、最近気にしてるから、なるべく砂糖は控えめにする」

「なるほど。チョコ嫌いなん?」

「すごい好きなんだけど、チョコはチョコだけで食べたいらしい。あと洋菓子のチョコレートケーキってオレンジのリキュールとか、オレンジピールとか入ってること多いから、あれが嫌らしい」

「ちょっとわかるかも」

そんな話をしているとパンケーキがきた。

「いただきます!」

みんなで頬張る。

うまい。初めて食べた。スフレパンケーキってやつ?こういうのも作ってやると、晴が喜びそう。

なんて考えながら食べていた。ふと顔を上げると3人がニヤニヤしながら

「今、絶対はるるのこと考えてたでしょー!」

と言った。

「いや。そ、そんなことない。ないよ」

そんなに顔に出てたのかな。…出てたんだろうな。俺のことだから。

そのあとみんなで買い物に行って帰った。


8月20日。俺達は朝から学校にいた。あいつも朝練あるって言ってたからちょうどいいや。

料理部の腐女子メンバーが5人集まって、俺のケーキ作りを手伝ってくれていた。家や学校で試作したりして、納得いくまでに1週間かかった。

昼にはケーキが完成したから、晴にメッセージを送った。

“練習終わったら、家庭科室に来て”

部屋でしばらく待ってると、ジャージ姿の晴がきた。

「何?」

「誕生日おめでとう!」

「え?あぁ。ありがとう」

「そこ座って。願い事して、ロウソクの火消して」

「はるる!お誕生日おめでとう!」

と5人も祝ってくれた。

「ありがとう」

少し照れた顔で晴が言った。

「はるる。ケーキ、ちょっと待って」

と吉田先輩にケーキを持たされ、俺はその横に無理矢理立たされた。

「はぁ。尊い…」

と言いながらたまちゃんに、あのカメラを渡した。

「撮るよー!」

たまちゃんはノリノリ。後ろの4人はニヤニヤ。そして俺はドキドキ。晴は…今どう思ってるんだろ。

そのあとみんなでケーキを食べた。


写真は俺達とみんなの分、渡してくれた。

それを見ながら、帰り道に晴が言った。

「料理部のみんないい人だよな」

「うん」

「たまちゃんもいい子じゃん。創が好きになったのもわかるよ」

「…うん」

「大事にしてあげなよ?」

「うん…」

「今日、創ん家だって」

「うん。18時頃来てって。母さんが誕生日パーティーするって、張り切ってた」

「ありがたいねー。息子でもないのに」

「うちの母さんは俺や瞬よりも、お前の方が好きだよ」

「確かに。智子さんに愛されてるよなー!俺」

「うん。晴は好き嫌い無いし、 母さんの料理をニコニコしながら、美味いって言って残さず食べるから。あと、子供の時飼ってたポメラニアンに似てるから可愛いって前に言ってた」

「ポ、ポメ…?」

「家、着いたな。ケーキ、母さん達は母さん達で準備してるみたいだから、今日は覚悟しろよ!絶対太るから」

「その分運動するわ」

「ん。じゃあ後で」

「おう」

と言って晴と俺は自分の家に入った。

俺は部屋に行って、今日の写真をアルバムに入れた。

隣にはあの写真がある。その写真を見て、合宿の時のこと思い出した。またムラムラしてきたから、慌ててアルバムを閉じた。

こんなことしてる場合じゃない…

俺は部屋を出てキッチンに向かった。

「母さん、材料ある?」

「うん。買ってあるわよ」

「ありがとう」

「でも何でせっかくの晴の誕生日なのに、生姜焼きなわけ?もっとすき焼きとか、お寿司とかあるじゃない?」

「晴に何欲しい?って聞いたら、美味しいご飯作ってって言われたから」

「ふーん。誰かの為に手料理作るなんて。あんたも大きくなったわねー。にしても生姜焼きって…」

「晴は母さんの生姜焼きが1番好きなんだよ?」

「あら。そうなの?んもぅ!だから晴好きよ!」

「母さん。息子は俺なんだけど?」

「もちろん!あんたも好きよ!」

「わかったよ。早く教えて。晴達が来ちゃう。前に料理部で作ったし、先輩にも教えてもらったけど、なんか違うくって。でも誕生日だし1番好きなもの食べさせてやりたいから、やっぱり生姜焼きは母さんに教えてもらうのが早いなって思ったんだ」

「創…じゃあ頑張って作らないとね!」

「うん」

俺は母さんに教えてもらいながら作った。

東先輩に教えてもらったポテトサラダも作った。ハムよりベーコンを使って、食感にエリンギ。これを少しのバターで炒めてポテトと合わせる。マヨネーズと塩、あとは粗挽きのブラックペッパーで味を整える。あと中華風の卵スープも作った。

下味をつけておいた豚肉を焼いてる時、晴達が来た。

「あ!生姜焼きの匂いー!」

とキッチンに入ってきた晴は、母さんじゃなくて、俺が焼いていたのを見て、不思議そうな顔をしている。

「座ってなよ。もうすぐできるから」

「今日は智子さんの生姜焼きじゃないの?」

と俺の後ろに立って、余っていた付け合わせのプチトマトを、つまみ食いしながら晴が言った。

「そうだよ。今日は母さん直伝の、俺の生姜焼き」

「智子さんのが好きなのにー」

「じゃあ食べなくていいよ」

「ごめんなさい。ありがたーくいただきます」

そのやりとりを見ながら、母さんは笑っていた。

「さ!出来たから食べよ!」

夕飯を食べて、みんなでゲームして、ケーキも食べて、そのあと晴は俺の部屋にいた。

「なぁ、今日泊まってっていい?」

「何で?こないだからどうした?」

「いや、俺今日、誕生日だしさ。帰るの面倒だなーって思ったから」

「誕生日だしって、何の関係があるのさ?てかすぐ隣なのに面倒って…」

「明日も休みだし。あ、夏休みの宿題教えて?まだ解けてないとこあるから」

「それでそのまま居座るつもりだろ?」

「大丈夫!宿題取ってくるから待ってて」

「何が大丈夫なの?もぅ…枕も持ってこいよ」

「おー!」


宿題を済ませると、もういい時間になっていた。

「お陰様で宿題全部終わりました!いぇい!」

と晴が言った。

「風呂どうする?先入る?」

「いや、創が先に入んなよ」

「わかった。着替えは持ってきた?タオルは俺が出る時、新しいのバスルームに置いとくから」

「ありがとう」

俺と交代で晴が風呂に入ったあと、

「今日食べすぎ。苦しい」

と言った俺に、

「俺、まだ食える」

とポテチをつまみながら晴が言った。

「昼間のケーキもうまかったよ。ありがとう。ケーキだけじゃなくて、生姜焼きも。一生懸命作ってくれたんだろ?お前のそういうとこ好きだよ」

そう言った晴の笑顔に、また俺の心臓は、壊れそうなくらい早くなる。晴が言った好きは、なんの意味も持ってない。俺の好きとは違う。

なんで好きになったのが従兄弟なんだろ。しかも男だなんて。今まで何回も後悔した。

もうやだな。こんなの。苦しいだけで、前にも進めないくせに、後戻りも出来ない。

そう思った時、晴の口から意外な言葉が出た。

「たまちゃんとは、もうキスしたの?」

「は?何急に…」

「した?」

「まだ何もしてないよ。何で?」

「いや、創は奥手だからさ。大丈夫かなって。手は?繋いだ?」

「それは、まぁね…」

嘘だった。たまちゃんに、晴になんか聞かれたらそう言っとけばいいよ、と言われていた。たまちゃんといる時は、基本的にBLの話、漫画、ドラマ、ゲーム、料理、写真の話ばっかしてる。楽しいけどね。色気のある話は出てこない。まあ本当は2人で出かけることもあまりない。だいたいウメさんやさっきーも一緒だから。

キスどころか手を繋ぐことも多分ないな。

でも俺に恋愛としての興味を持ってないのは、有り難かった。万が一、本気で好きになってくれたとしても、俺はその気持ちに応えられる自信はない。晴のことを好きになってさえいなければ、たまちゃんのこと本気になれたかもしれないけど…

ひどいな。俺。

少し考えていると、正面に座っていた晴が、隣に座って

「じゃあ練習する?」

と言った。

「…なんの?」

「キス…とか?」

何言ってんの?こいつ。

しかも、とか?って何だよ!

「…しないよ。それに晴だってそんな経験豊富なわけじゃないじゃん」

「そりゃそうだ。まあ、冗談だけどな」

「何でそんなこと言い出した?」

「なんとなく。初めてが恥ずかしいから、なかなか進展がないのかなって思ったから」

「違うよ。あんまりがっついてると思われたくないし、俺達まだ高1だし、ゆっくりって話したから」

「うん。なら良かった。もう寝る?」

「そうだね」

そう言うと、先にベッドに入った晴が、

「ん!」

と言って手を広げた。

俺は晴に背を向けて、その腕の中に入った。

抱きしめられて、本当は凄い幸せなはずなのに、俺の心はずっと苦しい。

目を合わせたら、晴は俺の気持ちに気付いてしまうかもしれない。だからいつも背中を向けている。

わかってる。こんなに近くにいるのに、晴の心は俺から遠い。


夏休みが明けると文化祭の準備が始まる。

金、土の2日間開催される。金曜日は生徒だけ。土曜日は保護者達も参加できる。

6クラス×3学年あって、劇や歌は5クラスだけ。希望するクラスが多ければ抽選だ。

他は部の活動も含めて、展示や占いなどのイベント系、喫茶などの飲食系、作ったアクセサリーなんかを売る販売系にわかれる。

部活の方は強制ではないが、収益がそのまま部費として認められる為、参加する部は多い。

もちろん、俺達料理部はクッキーやマドレーヌなんかを売る販売系が良かったけど、抽選で外れて飲食系になった。

「販売なら当日楽できると思ったのに!みんな同じこと考えてたのね。でも。いいこと思いついたから、喫茶系もアリだわ!」

と先輩が言った。そして5人がなんかヒソヒソ話をしている。他の部員も入って、俺を見ながらなんか盛り上がってるし。

「なんすか?」

と聞くと東先輩が言った。

「メイド、執事カフェにしようかと思って!」

「はぁ…俺は執事ってことですか?」

「ほぼ全員メイドで。私とさっきーだけ執事。衣装も作るからね」

「なるほど…ってなるほどじゃないです!それだと俺は女装じゃないですか!?」

「バレた?もう決定だから。先輩命令だから」

またまた職権乱用じゃんか…

意外にも、他の部員も反対しないんだな。

多数決でも負けるなら、抗ってもしょうがない。

「もう、好きにしてください」


クラスの出し物はフリマだった。みんなの家のいらないものを持ち寄って、それを売る。準備にかかる費用だけ避けたら、あとの売上は募金にする。だから事前にやることは少ない。

俺は2日とも料理部の午後担当になった。自由時間は2日目の午前。1日目の午前はクラスの方を担当だった。

晴は当日はほとんどやることがないらしい。劇の時間は2日とも14時からだから、1日目だけは様子を見るけど、あとは水泳部の方と、2日目に来る母さん達の案内を頼んだ。

俺は、メイド執事カフェをやると言ったけど、自分がメイドの格好をすることは、恥ずかしくて言えなかった。

晴はクラスの出し物はミュージカルで、あいつは大道具だって言ってた。

水泳部はお悩み相談室だって。実は沢口先輩の実家は、まあまあ有名なお寺らしい。実は先輩、修行もしてるって。

先輩が袈裟を着て、悩み相談を聴く。晴達は小坊主の格好でサポートだって。面白い。小坊主に悩み相談も出来るらしい。時間ができたら行ってみようか。

晴はクラスの方の準備が忙しそうだった。

俺は料理部で先輩達と、衣装作成やメニュー開発をしていた。あまり手の込んだものは当日作れないから、前日までに準備したり、スーパーで買ってきたものをアレンジする。クッキーやマドレーヌは手作りだ。

衣装は執事の東先輩とさっきーが縫ってくれる。

2人はコス衣装をよく作って、一緒にイベントに出かけるらしい。安くていい生地を売っているお店もよく知ってたから、いろんな人が相談に来ていた。

ついでにコスプレして撮った2人の写真も売るらしい。ちゃっかりしてんな。

SNSとかでは、知る人ぞ知るコスプレーヤーらしい。

俺もちょっと衣装作りを手伝った。忙しい親達の代わりに、家にあるミシンで、瞬達の手提げ袋を縫ったりしてたから、簡単なものくらいは作れる。なぜか今度のイベントは、一緒に行こうと誘われてしまった。


文化祭1日目。

AM。

俺はクラスの物販担当。晴は水泳部の方だって。

小坊主見て笑ってやろうと思ったけど、結構忙しくて無理だな。

PM。

昼からは晴はクラスの出し物の方の最終調整と改善のために忙しそうだった。

俺は家庭科室でメイド服を着せられ、ウィッグを被せられて、東先輩に化粧をされていた。

俺だけロングスカートなのがせめてもの救いだ。

「化粧までする必要あります?」

「あります!」

とそこにいた全員が言った。

もう、俺の味方は1人もいないのか…?

最初は戸惑っていたが、忙し過ぎてそれどころじゃ無かった。明日は一般参加もある。先輩の話によると、もっと忙しいらしい。挙げ句の果てに、なぜかみんな俺と写真を撮りたがる。女装がそんなに面白いのか。

来年は俺も職権乱用してやる!

2日目。

AM。

俺とたまちゃんは自由時間で、晴も自由時間だった。

3人で他のクラスや、部の出し物を見て回った。

来年の参考になる。

晴は2人で見てきなよって、気を遣って言ったけど、たまちゃんが良しとするわけはなく、3人で楽しく過ごした。

PM。

また服を着せられ、メイクをされていた。

母さん達来たらどうしよう。一応、午前の間に料理部のカフェには顔を出しておいたから、晴は来ないだろうし、母さん達には、忙しいから相手できないとは言っておいた。晴も15時までは小坊主やるって言ってたし、あと半日乗り切れば…

そして昨日とは比べ物にならないくらい忙しかった。他校の生徒や、生徒や教員の家族、昨日の3倍以上の人がきた。もちろんチケットが無いと、学校には入れないけど、それでも想像の上をいく忙しさだった。

そしてやっぱり写真を頼まれる。

俺の負担、デカくない?

終わりに近付き、ちょっと人が減ったなと油断したその時、

「あのー。1年の大和創います?」

と声をかけられ、

「はい!何ですか?」

と何も考えず振り返ってしまった。

俺の視界に入ったのは、驚いた晴の顔。そしてその後ろの驚きつつもニヤニヤしている親が4人。よりによって4人とも来たのかよ。うちの母さんと美優さんはスマホを取り出し、テンションがあがって、何枚も俺の写真を撮っている。

やめて、もうやめて。

たぶん一生ネタにされる。

そこへ登場する吉田先輩。そっと晴の腕を掴んで俺の横に並べた。晴もノリで俺の肩を抱いたりしながらポーズを取っている。

「さ!お写真どうぞ!」

と母さん達を始め、その場にいた人たちに撮影を促す。

どさくさに紛れて、たまちゃんもあのカメラで写真を撮っている。ここまで乗り切ったのに、最後にこうなるとは、先輩達も運がいい。

他の人も集まり始めたから、撮影会は文化祭終了まで続いた。


片付けをしているとき、

「これ、創ちゃんの分」

と、さっき撮った晴とのツーショット写真を、たまちゃんに渡された。

「あんまり記録にも記憶にも残したくないんだけど…」

「なんで?永久保存版でしょ!」

あーうっかりした。あいつも何でまた来るんだよ!母さん達だって、晴のクラスのミュージカル見たら帰るって言ったくせに。

それにこんなに目立っちゃって、来週からどんな顔して学校行けばいいんだ。


帰ると晴はうちに遊びに来ていた。打ち上げと言ってオレンジジュースで乾杯した。何が打ち上げだよ。クラスも部活も違うのに。

部屋で俺がぐったりしてると、俺の隣で

「執事の方じゃなくて、メイドの方だったんだな」

と晴が笑いながら言った。

「なぁ。何で昼間料理部のカフェ行ったのに、夕方また来たの?」

「いや、母さん達が昼間、創のカフェ行ったらしいんだけど、人が多くて入れなかったって言ってから。夕方なら空いてると思って。それに…」

「それに?」

「沢口先輩が料理部のカフェに、可愛い子がいるからって。1人だけ長いスカートのメイド服で、すぐわかるって言うから、どんな子か見てみたいと思って行ったんだけど、創の姿は見当たらないし、ちょうどいいと思って、後ろ姿の長いスカートのメイド服の子に声かけたら、振り返ったのお前だった」

忘れてた。沢口先輩は悪魔の手先だった。

「恥ずかしいから言わなかったのに…」

「どうせノリでやらされたんだろ?まあいいんじゃない?似合ってたし」

と晴が笑う。

「う、嬉しくない!」

「あれ、自分でしたの?」

「何?」

「化粧」

「んなわけ!もうなすがままだったんだよ。先輩命令だからって言われたら仕方ないだろー」

「でも創だけロングスカートだったじゃん。みんなみたいに短いスカートじゃなくて良かったんじゃない?それは先輩の優しさだろ」

「ほんとそれだけが…」

幸いと言いかけてふと思った。

「あー!」

「何!?」

「違うよ…今、気付いた。全部」

「何!?」

「メイド、執事喫茶にした理由も、俺だけロングスカートだった理由も…」

と俺は思わず頭を抱えた。

「どういうこと?」

「メイド喫茶って名乗れば、部員に1人だけ男の俺がいることを知ってる人は、すぐに俺も女装をするって思うだろ?男の俺に女装させるってなると、反対する先生とかも出てくるかもだけど、メイド、執事喫茶にすればメイドも執事もいるってことしかわからない。誰がどんな格好するかはほとんど聞かれないだろうから、細かいこと気にする先生がいても大丈夫だと思ったんだよ!」

「まあ。たしかに。スカートは?」

「俺だけ衣装が違えば認識しやすいから。晴は先輩に、1人だけロングスカートのメイド服着てるからわかるって言われて来たんだろ?本当はあの人達のことだから、俺だけをミニスカートにしたかったと思うんだよ。でも他の子を全部ロングのスカートにしようと思うと、沢山の生地がいるからコストがかかる。予算は決まってるだろ?だから俺だけロングだったんだ…まんまとやられたー。優しさじゃなかったー」

とうなだれた。

「計画的犯行だな。まあ半分は優しさだったんじゃない?みんなと同じミニスカートで、色を変えるって手もあったけど、そうはしなかったわけだし」

と晴は笑っている。

「あーどうしよう」

「でもさー。意外と目覚めちゃったりして?」

「何に?」

「女装とか。メイクとか?そんで男の子が好きーとかなったりして?」

「んなわけ。むしろ、女装もメイクも大変だったわ!それに男を好きになるか、女を好きになるかは、自分の性別や見た目とは関係ないだろ?男として男を好きになったり、女として女を好きになることあるだろうし」

「あー。なるほど…でも、女になりたいって思ったことない?」

「どうかな…わかんない」

女になりたいと思ったこと、か…

そう聞かれて、無いとは言えなかった。

だって何回もあるから。

偉そうに言ったけど、俺が女なら、なんの躊躇いもなく晴に好きって言えた。たとえ従兄弟でも、俺の気持ちを伝えられた。失恋する可能性はあるけど、気持ちを伝える前に諦める必要はなかったはず。昔は真理が羨ましかった。

「お前は?女になりたいって思ったことある?」

「んーどうかな。俺もわかんない」

「そうか。それにしても来週からどうするかなー」

「まあ明日、本物のメイドカフェ連れてってやるから、元気出せ!な?」

「いらんわい!」

まったく。おちょくりやがって。

「だから今日泊まるから!」

「えー!またー?」

いいかげん、心臓がもたないよ。

「そんで明日朝からカフェ行こ!メイドさんいないとこでいいから!俺がおごるから!」

と晴は笑顔で言った。

ずるいな。この顔されたら嫌って言えない。

もういっそ、晴がいなくなれば楽になるのかな。

「わかったから、もう寝るよ?」

「じゃあ…」

と言って、また先にベッドに入った晴は

「ん!」

と手を広げた。

諦めよう。ただの従兄弟でいよう。いつもそう思う。

なのにベッドで手を広げて俺を待つ晴に、いつも嫌だって言えない。嫌だと言えば晴は落ち込むかな。その姿を見たくないから、渋々受け入れてる。

ってそう言い訳してるんだ。

本当は抱きしめられることが嬉しくて、心のどっかで晴からの泊まっていい?の言葉を待っている。

ただの抱き枕代わりだとしても、嬉しかった。

晴の体温を感じながら眠るのが、心地良かったんだ。

また俺は晴に背を向けて、その腕の中に入ると、

「おやすみ」

と言った。

「おやすみ。いい夢見ろよ」

「なにそれ」

と言って笑った。


次の日、晴は本当にカフェに連れてってくれた。

メイドさんがいないところを俺が強く希望したから、ちぇっと言いながらも普通のカフェにしてくれた。

「中混んでるから、俺買ってくる。創何する?」

「俺はカフェラテの無糖で」

「じゃあ俺もそれにするわ。テラスで待ってて」

そう言って晴は中に入って行った。

本当に店の中混んでるな…まあ日曜の朝だもんな。

今日は晴れていい天気だし…とふと見渡すと、若いお母さんがベビーカーを押していた。隣には3歳くらいの女の子。可愛いな。

その子はチョコレートのアイスを食べていた。口の周りにベタベタにチョコアイスがついてる。思わず微笑んでしまう。

お母さんはベビーカーを押す手を止めて、カバンからティッシュかハンカチを出そうとしてるみたい。なかなか見当たらないみたいだ。

俺はさっき街でもらった、ポケットティッシュを渡そうと歩き始めたその時、ベビーカーが動き始めた。ストッパーが止まりきってなかったんだな。近寄ってから俺は気付いた。そのベビーカーはその女の子のものじゃ無い。

中には一歳にもなってないくらいの赤ちゃんが乗っていた。

その先は階段だった。ベビーカーの前輪が階段に差し掛かったその時、

「危ない!」

俺は咄嗟に、赤ちゃんを抱き上げた。ベビーカーが階段を転がっていく。

そして俺も階段を転がっていく。

赤ちゃんが怪我をしないように、俺は抱えるようにして背中から転がっていった。

遠のく意識の中で、赤ちゃんの泣き声と慌てたお母さんの叫び声。

あともう一つ。少し遠くで俺を呼ぶ声がした。


目が覚めたら病院だった。外は真っ暗。今何時なんだ?部屋にある時計は8時だった。暗いから夜の8時だろうな。

俺は丸1日以上眠っていたらしい。体中が痛い。

先生が来て言った。

「足の骨折と、全身の打撲があります。でも検査をして、頭を強く打ったりはしていないようなので、様子を見ましょう」

ってことだった。全治1ヶ月ってとこだと言われた。

赤ちゃんも無事だったみたい。良かった。

看護師さんから連絡がいったんだろう。家族みんなで様子を見に来てくれた。みんな無事を喜んでくれた。父さんと母さん。保おじさんと美優さん。真理と瞬。瑛太と楓。とあと1人。

「えっと…どちら様でしたっけ?」

みんなの表情から笑顔が消えた。



次の日、俺は先生の話を聞くために、学校帰りに病院へ寄った。

「母さん!」

「あ!晴!こっち」

「もう先生からの話、終わっちゃった?」

「まだ。今から」

父さん達は仕事で遅くなる。大人数で押しかけても先生も困るだろうからと、智子さんは母さんと俺だけを呼んでくれた。

「先生。あの子、1番仲のいい従兄弟の晴を覚えてないみたいなんですけど…」

智子さんは半泣きになっている。両側から俺と母さんで智子さんの背中をさする。

「わかりやすく言うと、記憶喪失というやつです。事件や事故がきっかけで、特定の人や家族に関するすべての情報、つまり特定のカテゴリーの情報だけが思い出せない、わからなくなるという人が時々います。それを系統的健忘といいます。数時間や数日で思い出す方もいれば、何年、何十年思い出せない人もいます。事故後の検査では脳に異常はなかったので、おそらく事故の衝撃というか、ショックが原因かと思います。今は大丈夫でも、もし頭を打っていた場合、遅れて症状が現れる可能性もあるので、入院中は様子を見ながら、定期的に脳の検査をしましょう」

「あの…どうして僕だけなんでしょうか?」

と俺が聞くと先生はこう言った。

「どうしてかはわかりません。たまたま事故に遭う直前にあなたといたからなのか、1番仲の良いということでしたので、思い入れが強かったからかもしれません。何故、というのはわからないんですよ」

「そうですか…」

俺の落ち込んだ様子に気付いたのだろう。智子さんが、

「私と美優でもう少し先生のお話聴くから、晴は創の様子、見て来てくれる?」

と言った。

「うん」

俺は先生にぺこっとお辞儀をすると、部屋を出て創の病室に向かった。

様子を見てきてって言われたけど、あいつ俺の記憶全然無いんだよな。知らない男と部屋に2人っきりって怖くないかな?

部屋の前で戸惑っていると、

「晴!」

と俺を呼ぶ声がした。

沢口先輩だった。隣には吉田先輩とたまちゃんがいた。

「先輩。今日練習行けなくてすみませんでした」

「それはいいよ。従兄弟が大変な時だし、次の大会まで時間あるし」

「具合はどうなの?」

と吉田先輩に聞かれたから、

「みんな、ちょっと時間あります?」

智子さん達が事故の後すぐに、学校に電話したから、みんな簡単な話は聞いてるらしかった。

俺は屋上に3人を誘って、事故の経緯、怪我の状態、俺に関する記憶障害の話をした。

何故かみんな想像以上に落ち込んでいる。

創はみんなに愛されてるんだな。

「大丈夫?」

たまちゃんが聞いてきた。すごく心配してるんだろう。優しい彼女だな。

「うん。今のところ脳には異常はないし、怪我も足の骨折以外は殆どが打撲とかだから、1ヶ月もすれば大丈夫だって」

「うん、それは不幸中の幸いなんだけど、はるるが大丈夫かなって…創ちゃん忘れちゃってるんでしょ?しかもいつ思い出せるかわからないなんて。あんなに仲良かったのに。そんなのはるるの心が辛い」

と言いながら泣くのを我慢している。吉田先輩と沢口先輩は、すでに隣で号泣してるけど。

「泣かないでくださいよー!生きてるんですから。生きて会えただけでも、俺は嬉しいですよ。階段から落ちた創を見た時は、死んだと思いましたから。大丈夫。記憶の方は絶対そのうち思い出しますよ!」

確証はないけど、俺はそう言うしかなかった。


病室に戻ると創は小説を読んでいた。

「あ、おはよう」

「おはようって、もうすぐ夜だよ?」

「俺今さっき起きたから。もう退屈すぎて早く学校行きたいよ」

とたまちゃんと話している。

「思ったより元気そうで安心した」

と吉田先輩が言うと、

「早く料理部のみんなにも会いたいです」

と創が返した。

「そうだよ。また生姜焼き作んなきゃ!」

と吉田先輩が言った。

「生姜焼きですか?俺、肉じゃがかサバの味噌煮作りたいです!あと和菓子も作りたいです!」

「和菓子いいな!」

沢口先輩と創が和菓子の話で盛り上がってる。しばらくして、

「じゃあそろそろいくね?また来るから」

と先輩達は帰って行った。

創は俺の方を見て、

「晴君?は帰らなくて大丈夫?」

と言った。君付けは百歩譲るけど、せめてクエスチョンマークは付けるなよ。

「晴でいいよ。覚えてないかもしれないけど、物心ついたときからずっとそう呼んでるから」

「じゃあ、晴は?まだ居ても大丈夫?」

「今、智子さんが着替えを取りに帰ってるから、来たら一緒に帰るよ。それまで、創が嫌じゃなければそばにいる。だからなんか手伝えることあったら言って?」

「そっか。色々と迷惑かけてごめんね?」

「気にすんなよ。従兄弟だろ?」

「うん…ありがとう」

まだ俺のこと、何にも思い出せて無いんだな。

ドラマなら訳あって、記憶がないフリとかしてるんだ。でもそうじゃ無さそう。

漫画なら同じショックを与えて、記憶を呼び戻そうとしたり。だけど、俺の記憶だけないってことは、俺とのことは、覚えてなくてもいいくらいの、取るに足らない思い出だったのかも。それか無い方がいいくらいに、本当は俺を嫌っていたのかな…少し泣きそうになった時、智子さんが入ってきた。俺は智子さんと一緒に家に帰った。


週末、俺は自分の部屋で考えていた。

もし俺のこと嫌で記憶を封じ込めたなら、このままの方が良いんだろうな。

でも少しでも思い出したいと思ってくれているなら、なんとか出来ないだろうか。

思い出の品とか見せたら…?

押入れの奥にしまっていた箱を開ける。

幼稚園の時使ってた縄跳び。男の子は青、女の子は赤の縄跳びだけど、なぜかあいつのだけ手違いで赤の縄跳びだった。少し悲しそうにしてたから、交換してやるとすごく喜んでた。

小学生の時に使ってた手提げ袋。母さんがお揃いで手作りしてくれた。体操服入れも、給食エプロン入れも、全部お揃い。

夏休みのラジオ体操で皆勤賞のスタンプカード。それで貰ったノートと鉛筆。使うのもったいないって、2人で取っておいた。

小学生の時、水泳を始めた俺に、お小遣いで買ってくれたお守り。水の神様に好かれるようにって。それで俺はもっと泳ぐことが好きになったんだ。

中学の時の修学旅行でお互いに買ったお土産。俺は創にご当地キーホルダーをあげた。創はご当地キャラの貯金箱をくれた。それは今も使っている。

あ…

これは創の制服の第2ボタン。好きな人の第2ボタンをもらうってクラスの女子が騒いでたから、俺のとこも誰か来ないかなって思って待ってたのに、結局最後まで誰も来なかった。

いじけてた俺に、じゃあ俺が貰ってやるよと創が言った。だったらお前のを俺にちょうだいって言って、何故だか交換することになった。

別の高校だと思ってたのに、創が同じ高校に入ることになって、正直嬉しかった。

あいつはなぜか料理部に入った。あいつが初めて作ってくれた太陽の絵のクッキー。可愛いから写真に撮っておいた。

晴という俺の名前にちなんだのか、笑った顔の太陽の絵が描いてある。

水泳部の合宿に行った時、写真の試し撮りの為に、たまちゃんがとった創の写真。エプロンを結びながら誰かと話してる笑顔のあいつ。あげるって言われて何となくもらっただけ。でも俺は写真の中で笑うこの創の笑顔に、何度癒されただろう。

たぶん、今まで創の1番は俺だった。1番仲のいい兄弟。1番仲のいい友達。1番のライバル。俺にとっても創がそうだったように、従兄弟だけどそれを越えた何かがあると俺は思ってた。そしてあいつも同じ気持ちだと。

「わかるだろ?なんか双子みたいなテレパシー的なやつ」

俺の独りよがりだったかな。


今まで別の誰かと仲良くしてても、なんにも思わなかった。創の1番は俺で、何があってもあいつの居場所は俺だという自信があったから。

たまちゃんに告白されたって知って、なんか心が落ち着かなくて、創がシャワーを浴びてるとこに、最初は冗談のつもりで入っていった。すぐに出ようと思ったけど、目に入った創から視線を外せなくなった。

子供の時以来に見た創の裸。色白の肌に、ストレートの黒髪。どちらかといえば細身だけど、ガリガリな訳じゃなくて、意外と引き締まった身体。その時まで気付かなかったけど、うなじのほくろがなんだかエロかった。

創が出て行った後のシャワー室。交代の時間が迫るのに、俺は動けないでいた。

部屋に戻るとあいつは料理部の人のとこに行くって。明確に誰とは言わなかったけど、たぶんたまちゃんだと思った。

帰って来た創が、なんかいつもと違う人に見えた。

それがすごく嫌だった。俺は創の1番でいたかった。

抱きしめる口実が欲しくて、眠れないと言った。


8月10日。創はたまちゃんと、パンケーキ食べに行くって言ってたんだ。

俺は前日にまっつんに、買い物付き合ってって言われてOKした。古着屋はちょうど行きたかったから。

駅の近くの本屋に行こうとしていた。

すると急にまっつんが

「おーい!創ー!」

と叫んで手を振っていた。

まっつんの向いている先に視線をやると、創が立っていた。隣にはたまちゃんもいた。

なんで…2人が一緒にいるところを見ないといけないんだろ。創の隣は俺の居場所なのに。俺はなかなか2人の顔を見れずにいた。

「おはよう!こんなとこで何してんの?」

「今日オープンのパンケーキ屋さんに行くんだ。だからたまちゃんと駅で待ち合わせして、今から行くとこ。まっつん達は?」

「俺らは買い物。今日発売の漫画買って、古着屋さんチラ見して帰る予定。な?」

とまっつんに言われて、

「うん」

とだけ言った。

「急いでないなら、2人も一緒にパンケーキ行く?」

と創が聞いたから、

「デートの邪魔しちゃ悪いから、俺らもう行くよ」

とまっつんの腕を掴んで歩き始めた。

これから何時間も、創達のラブラブな姿を見せつけられるなんて、ただの地獄だろ。耐えられない。そう思った。

途中振り返ると、反対に歩き始めた創達は楽しそうに話していた。その2人の後ろ姿を、俺はただただ見つめることしか出来なかった。

ふと我に返って、まっつんの方を見ると、俺の顔をじーっと見ていた。

「切ないねー」

と言われた。

「何が?」

「片想い」

「俺は別になんとも思ってないよ」

「なんとも思ってないって顔じゃあなかったけどねー」

たまちゃんのこと、好きだと思われたかな。

「本当になんとも思ってないよ!たまちゃんは従兄弟の彼女なんだし。取ったりしようなんて思ってないから」

というと、

「え?そっち?」

とまっつんが言った。

え?何?

「そっちって?どっち?」

「いや、俺は創の方のつもりで言ったから、たまちゃんの名前が出てきて、え?ってなった故の、え?そっち?なんだけど…」

と言ってまっつんが微笑んだ。

「なんで、創?」

「だって合宿の時から、ずっと創のことばっかり目で追ってたから…」

天然ぽいくせに、意外と鋭い子なんだ、この子は。

はぁ…とため息をついた俺は、まっつんの目を見て

「自分でも混乱してるんだ。お願い。誰にも言わないで…」

とだけ言った。


8月20日。俺の誕生日に作ってくれたケーキ。美味しいもの作ってって頼んだら、智子さんに教わりながら作ってくれた、俺が1番好きな生姜焼き。

ほら、まだ俺が1番だ。

でもたまちゃんと手を繋いだって聞いた時、今まで感じたことない気持ちがふっと湧いた。

自分が付き合っちゃえば?なんて背中を押したくせに、本当にたまちゃんと付き合ってるんだって思い知って、どうしようもなく辛かった。

「じゃあ練習する?」

「…なんの?」

「キス…とか?」

思わず言ってしまった。しかもとか?ってなんだよ。

それ以外に何があるってーのよ。冗談にしなきゃ。何とか取り繕う。

創は今、彼女もいて幸せなんだ。俺が邪魔しちゃいけないよな。

ふっと湧いた気持ちは、友達を取られたから、俺と遊ぶ時間が減るから、創にだけ彼女ができて羨ましかったから…そう思おうとしていた。でもやっぱり違ってた。

今思えば、どう考えても嫉妬だった。もう言い訳のしようがない。


文化祭のメイド、執事カフェ。てっきりあいつは執事なんだと思った。それを見てみたくて、創がいる時にカフェに行くと決めていた。

創に会うついでに、沢口先輩が教えてくれたロングスカートのメイド服の子。先輩に言われたし、とりあえず声をかけた。

振り返ったのは創だった。化粧をした創の顔が、妙に色っぽくて、胸がソワソワした。

たぶん周りに誰もいなかったら抱きしめちゃってたんじゃないかな。

吉田先輩に、創の横に連れて行かれて、照れ隠しで肩を組んで写真を撮った。

ふと気付くと、俺はいつのまにか泣いていた。止めようと思っても止まらない涙に戸惑う。

俺には創との思い出の中に、忘れたい、無かったことにしたいものなんてひとつもないのに…

お前は違ったんだな。俺がいない方が幸せなんだろ?

俺は出したものを全部箱に戻して、押入れの奥にしまった。


午後は、智子さんに渡された創の着替えを持って、病院にいた。

ほぼ毎日来てる。テスト前だから、あまり長居はしないけど、少しでも顔が見たかった。4人部屋だけど、元々ベッドは創と、その斜め向かいの人しかいなかった。でもその人が退院して、昨日から創1人になった。

ドアが開いてる。

「おつかれー」

と言いながらカーテンをめくると、ベッドに座っている創。創に抱きつくたまちゃんの姿があった。創の手はたまちゃんの腰にまわされている。

「あ。ごめん。お取込み中だった?これ、着替え。持ってくように頼まれただけだから、俺帰るね」

早口になる。震えるな。俺の声。

「え!ちょっと待って」

俺を呼び止める創の声。

たまちゃんが俺を追いかけてきた。

「はるる!ちょっと待って」

「ごめんね。邪魔して。着替え渡すだけだから。気にせず続けて」

「違う違う!」

「いんだよ。付き合ってるんだから、抱き合ったり、キスしたりしたって、なんの問題も…」

息を吸うことさえ苦しくて、その後の言葉が出なくなる。

ほらまただ。自分が嫌いになるほどの嫉妬。

「ごめん、たまちゃん。創のことよろしく…」

なんとかその言葉だけを振り絞って、走って帰った。

自分の部屋に入るのと同時に、ギリギリ耐えていた涙が溢れた。

こんなことになるなら、もっと早くあいつに好きと言えば良かった。

本当はもっと前に気付いてたんだ。

たぶん創が瑛太を見つめる眼が、恋なんじゃないかって感じたあの日から。

でも、ずっと逃げていた。自分の気持ちに気付かないふりをして。

傷付くのも傷付けるのも怖かった。

それに俺があいつの1番でいられるなら、このままでいいと思ってた。

だってどんな顔して、好きだって言えばいいんだよ。応えてくれたとしても、従兄弟だし男同士なんだ。辛い未来しかないと思った。

それにもし拒絶されたら、この先あいつ無しの人生だって?

そんなの耐えられるわけがない。

それなら、今のまま。

それがあいつのそばにずっといられる方法だと思ってた。

でもこんなことで創を失うくらいなら、全部伝えて終わった方がまだ良かったのかな。

散々泣いたら少し落ち着いた。


夜、扉をノックする音。

「はい」

「ご飯、出来たって」

瑛太の声だ。

「いらない。お腹空いてない」

「じゃあ…ちょっと話出来る?」

「何?」

目が腫れてるのがバレないように、俯きながら扉を開けた。

「酷い顔だな」

と苦笑いで瑛太が言う。

「…」

「何があった?」

昔から、父さんや母さんに怒られても、瑛太だけは俺と楓の味方だった。俺がした悪戯を一緒に謝ってくれたり、いじめられた時も助けてくれた。楓に好きな人ができた時も、失恋した時も、相談に乗ってた。

本当は誰かに聞いて欲しかった。でも俺のこの気持ちを話したら、瑛太は引くだろうな。

嫌われるかもしれない。

瑛太は俺の肩に手を回してさすりながら言った。

「創のことか?」

「うん」

そう聞かれて俺は素直に答えた。

「晴のことだけ記憶を無くしたことに戸惑ってるのか?」

「それもある」

「一緒にいたのに、怪我させてしまったことか?」

「それもある」

「愛しい人を失うのが怖いか?」

「それも…」

と言いかけて、俺は瑛太の顔を見た。知ってるのか?

「どうして?」

「知らないわけがないよ。ずっと一緒にいるんだ。母さん達だって気付いてるはずだよ」

「じゃあ何で何も言わないんだろ?」

「周りが何を言ってもしょうがないだろ。何が幸せか決めるのは創とお前だ」

「でも俺は…創は瑛太を好きなんだと…」

「どうして?」

「勉強教えてもらってる時のあいつの眼は、恋する乙女みたいだった」

「なんだそれ。じゃあ…俺が言ったって言うなよ?」

「何を?」

「たぶん、創も同じ気持ちなんじゃないか?まぁ今はお前に関する記憶がないからアレだけど」

「どうしてそう思うの?」

「昔、お前が水泳始めた時、創が落ち込んでたから、どうしたのって聞いたんだ。そしたら、創、晴が遠くに行っちゃうって」

「どういう意味?」

「今まで何をするのも一緒だった。同じことして、同じものを見て、同じとこに行って。水泳を始めた時、自分が知らない世界に、新しい世界に1人で行っちゃうような気がしたって。俺がそんなことないって慰めたら、自分も何かしなきゃって。晴に置いてかれないようにって。だから勉強を教えてた。あいつはあいつで悩んでたんじゃないのか?お前のそばにどうやったらいられるのか」

「俺はどうしたらいい?」

「今は見守るしかないだろ?記憶が戻った時やるべきことを考えればいい」

「そうだな。ありがとう」


入院から2週間後。ギプスはまだ取れないけど、松葉杖使えば歩けるからと言って、テスト期間に入る直前に創は退院した。

俺は創の荷物を持って、部屋まで運んだ。

「明日からテストだろ。この足じゃ時間かかるだろうから、明日の朝、ちょっと早めに迎えにくるから」

「何から何までごめんね」

「気にするな」

「ありがとう」


無事、創のギプスが取れて、俺の記憶がないこと以外は、以前と変わらない日常を取り戻した頃、街はクリスマス一色だった。

「24日。研の家でクリスマスパーティーしない?」

「え?寺なのに?」

俺と創は同時に同じことを考えたみたいだ。

クリスマスはいつもなら家でみんなでパーティーしてる。

「うちら料理部で食事作るからさ!ね?創ちゃん」

と先輩が言った。

沢口先輩は4人兄弟の末っ子で、お兄さん達は仕事や学校で今は実家にいないらしい。先輩は一応大学を卒業してから、実家の寺を継ぐって言ってた。実家を継ぐのは、昔からの夢だったんだって。先輩のお母さんは、先輩が小学生の時に病気で亡くなったって。

パーティーには、料理部の吉田先輩と東先輩、1年の仲良しトリオ、水泳部からも部員の半分くらいが参加するみたいだ。もちろんまっつんもいる。早めに準備したいからと言って、先輩の家に早めに着いていた。

先輩とまっつんと俺で準備していると、先輩のお父さんが現れた。

「いいねー!こういうの。青春って感じで」

とニコニコしながら言う。

「お邪魔してます。すみません、大勢で押しかけて」

と俺が言うと、

「全然!嬉しいよ。賑やかで。毎週やって欲しいくらい!妻が亡くなって、お兄ちゃんたちも、仕事や進学で家を出ちゃったから、研と2人で寂しくてねー」

というお父さんの言葉に

「悪かったなー。俺と2人で」

と先輩が言った。

「悪くないよ。伊織ちゃんもよく来てくれるし。父さん、あの子好きなんだ。昔から明るくてパワフルで優しくて。母さんに似てる。研もそう思ってるだろ?」

「うん。似てるよ。でも父さんにはあげないよ」

「わかってるよ。大事にしてあげなさい。みんなが思っているより人生は短いから。大事なものが見えているなら、目を逸らしてはいけないよ」

その言葉を聞いて俺はドキっとした。

目を逸らしてばっかだったな。俺は。それも何が大事かわかっていたのに。


創とたまちゃんとウメさんはケーキ担当。さっきーと吉田先輩達は料理担当だった。俺はあっち行ったりこっち行ったりしながら、手伝いをしていた。いや邪魔になってるだけかも。

俺は、創のケーキ作りを見ながら

「ケーキの作り方は覚えてるんだな…」

と思わず呟いてしまった。創は一瞬、俺の顔を見て

「ごめん…」

と俯きながら謝った。しまった。そんなつもりじゃなかったのに。

隅っこで自己嫌悪に陥っていると、さっきーが話しかけてきた。

「どうしたー?」

「なんか俺すげー嫌な感じだった」

と説明すると、

「でもね。私思うんだけど、ケーキの作り方覚えてるってことは、はるるのこと嫌いだから記憶をなくしたわけじゃない気がするなー」

「どうして?」

「はるるの誕生日覚えてる?それまで1回もケーキなんて作ったことない子が、当日までの1週間、毎日はるるのために試行錯誤して、ケーキ作ってたんだよ。そんで今も無意識だと思うけど、はるるにあげたやつとおんなじケーキを、レシピも見ずに作ってるって、ウメさん達が言ってた。頭で忘れてても、心と体が覚えてるんだと思うよ」

「俺のために1週間も?」

「うん。創ちゃんはいつも、はるるのために料理をしてた。クッキーに描いた太陽の絵も、誰かさんが1番好きな生姜焼きも。料理部に入ったのは、はるるのためだったんだよ」

「でも、あいつに何で料理部?って聞いたら、一人暮らしにも役立つし、料理できたらモテるかもだし、将来結婚しても家事分担できていいし、みたいなことばっか言ってた」

「きっと本当のことは言いにくかったんだよ。今のはるるならわかるんじゃない?」

とさっきーが言った時、ウメさんが俺達を呼びにきた。

「ちょっとはるる!写真撮ろ!これ持って!」

俺はなぜかケーキを持たされた。俺の誕生日の時みたいに、隣に創は立っていて、こっちを見ながら何か考えてるみたいな表情だった。たまちゃんがいつもみたいに写真を撮ってくれる。

写真を撮り終わったあと、創がまだ何か考え込んでいた。

「創?大丈夫?どっか痛い?」

「大丈夫。ただ、前にもこんなことあった?」

「何か思い出した!?」

「いや、そうじゃないけど、何か懐かしい感じがしたから」

「…そっか」

「ねぇ、何で俺は晴のことだけ覚えてないんだろう?」

「さぁ。俺は仲良しだと思ってたけど、お前は忘れたいほど俺のこと嫌いだったのかもな!」

と言ってみた。

「そんなに俺に嫌われるほどのこと、したの?」

創に嫌われる事。相談もせずに水泳始めた事?自分勝手な理由をつけて、同じベッドで寝た事?シャワールームに無理矢理入ってった事?それともメイド姿をからかった事か?

思い当たることがありすぎる…

「…してない…と思う」

「その間、怪しくない?」

「し、してない!」

「焦ってる。なんかさらに怪しい…」

と創が笑った。

俺に関する記憶がなくなってから、初めて創が俺に見せた自然な笑顔だった。


先輩の家を出る前、たまちゃんを呼び出した。

「あのさ、いきなりこんなこと言うと、本当に頭おかしいとか思われちゃうかもだけど、聞いてくれる?」

「ちょっと待って…はい!どうしたの?」

「俺ね、創とたまちゃんが付き合い始めたって知って、最初応援しようと思った。でもどっかでなんか引っかかってて、素直に喜べない自分がいた」

「うん」

「最初は1番仲良しの友達取られたとか、創だけ可愛い彼女できてズルいとか、俺と遊ぶ時間減るじゃんとか、そういう類の嫉妬だと思ってたんだ」

「うん。けど?」

「けど、たまちゃんと一緒にいるところとか、創からたまちゃんの話聞いたりとか、2人が抱きあってたの見て、そうじゃないって気付いた。俺は創を誰にも渡したくなかったんだ」

「…」

「いや、違う。本当はもっと前から気付いてた。ただ怖かったんだと思う。自分が傷付くのも、あいつを傷付けるのも。今だって、失ってからこんなこと言うのすごいカッコ悪いと思うけど、俺の気持ち言っておきたくて。創は嫌だと思ってるかもだけど、俺はあいつの記憶を取り戻したい。もし俺のこと思い出したら、気持ちの整理させて欲しい。たまちゃんには申し訳ないけど、好きだって伝えるだけ伝えてもいいかな?」

たまちゃんが何か呟いた。

(今のちゃんと録音出来てたかな…)

「なんか言った?」

「何でもない。受けて立つ!誰を選ぶかは結局、創ちゃんが決めることだし」

「ありがとう」

「あっ!じゃあクリスマスプレゼント。になるかわかんないけど、あん時のは抱きついてたわけじゃないんよ。立ちあがろうとした時、バランス崩してこけたのを、創ちゃんが支えてくれただけ。ちょっと安心した?」

「ん。ありがとう」


初詣は先輩のとこに行った。

「先輩!明けましておめでとうございます。それにしてもここ、ちゃんとご利益あるんすか?」

「失礼だな。結構由緒ある寺なんだぞ」

俺は祈った。記憶が戻りますようにって。

隣で創も何か祈っていた。

「創は何お願いしたの?俺は創が俺のこと思い出しますようにって願った!」

「それ、言っていいの?普通言ったら願い事って、叶わなくなるんじゃない?」

「マジで!?」

「多分…そう聞いたことあるけど」

「やべー!今のナシ!聞かなかったことにして」

「いや、無理でしょ」

と創は笑った。

俺に向ける笑顔が増えてきた。嬉しかった。


2月1日。今日は創の誕生日だった。

誕生日プレゼント、何をあげたらいいのかわからなくて、とりあえずキッチングッズを渡してみた。

「ありがとう!」

と言って喜んでくれた。

そのあと俺達は創の部屋で話をした。

「ずっと聞きたくて聞けなかったんだけど、創は俺のこと怖くないの?」

と俺が聞くと

「どうして?」

と目をまんまるにして創が返した。

「だってみんなの記憶はあるけど、俺の記憶は無いだろ?全く知らない赤の他人が、ほぼ毎日ひっついてくるわけじゃん?それって怖くないんかなって、そう思っただけ」

創はしばらく考えて、こう言った。

「怖くないよ。だって従兄弟なんでしょ?それに覚えてなくても、晴がいい奴だっていうのはわかるし、話をしてても怖いなんて感じた事はないよ」

「そっか。ありがとう」

「…?なんのお礼?」

と言って創が笑った。

そうか。わかった。もし創の俺に関する記憶が戻らなくても、もう1度、創の1番になればいい。

この気持ちを一生伝えることが出来なくても、創の1番にさえなれば、また一緒にいられるよな。


冬が終わりを告げ、俺達は2年になった。

創の俺に関する記憶はまだ戻らない。

最初の頃のよそよそしさはなくなってきた。

でも事故の前の距離感とは程遠い。

俺と創は同じクラスになった。珍しい。普通なら同じ苗字だし、ややこしいからクラス離すと思ってた。たまちゃん達やまっつんも同じクラスだ。

2年は修学旅行もある。馴染みの顔がたくさんあって、俺はホッとしていた。


梅雨入りの少し前、今日は沢口先輩の誕生日だ。

去年はクッキーをもらってた。今年はどうするんだろ。

と思っていたら沢口先輩に話しかけられた。

「晴!吉田が家庭科室に来てって」

「え。でも俺、練習…」

「それはあいつの用事が終わってからでいいから。行って来な」

「はい」

家庭科室に着くといつものメンバーがいた。創を除いて。

「吉田先輩?お疲れ様です。俺何で呼ばれたんですか?」

「今日ね。研の誕生日なの」

「知ってますよー」

「私、毎年研の誕生日には、買ったものでも手作りでも、とりあえずクッキーをあげる習慣になってるの」

「へー。そういや、何で今日創はいないんですか?」

と俺が聞くと

「創ちゃん。今日は1年の時同じクラスだった子に、家庭教師してる」

とウメさんが言った。

「なるほど。創の代わりに男手が欲しかったってことですか?なんか運びます?」

と俺が腕まくりすると

「違うよ!手伝って欲しいのはクッキー作り」

と吉田先輩が言った。

「え?何で俺?」

「今年ははるるが一緒にクッキー作って、創ちゃんにあげない?」

とさっきーが言った。

「あの時のクッキー作って渡したら、創ちゃんの記憶、少しでも戻ったりしないかなって思って」

今度はたまちゃん。

「でも…」

と俺はたまちゃんを見た。

「私のことは気にしないでー。創ちゃんの記憶戻った方がフェアに戦えるでしょ?」

俺に関する記憶が戻ったら、好きって伝えるって言ったのに、記憶を戻す手伝いをしてくれるなんて…優しい彼女だな。俺なんて自己中で全然敵わないや。

「わかった。ありがとう」

俺はみんなに教えてもらいながらクッキーを作った。

そして改めて不器用な自分にあきれた。

創がアイシングしてくれた太陽の絵。ニコニコしてる可愛い絵だったのに、俺のは…

笑ってるのか?これ。違うな泣いてるように見える。

こっちは?なんか怒ってる?あっ。これが一番マシかな。ちょっと不敵な笑みを浮かべてるけど、笑ってはいる。

あれこれ見ながら考えていた俺の後ろで、みんなが爆笑している。さっきーが

「全部笑ってる絵、描くはずだったよね」

と笑いながら言った。

「同じ従兄弟でも、創ちゃんは器用なのに、はるるは不器用なんだね」

と東先輩に言われた。

「なんかすみません。丁寧に教えてもらってるのに」

「いいよ!楽しいじゃん」

と吉田先輩が言った。

クッキーを作り終わるとみんな解散して、俺と吉田先輩はプールの方へ向かった。

創は家庭教師を終えて、プールサイドに来ていた。沢口先輩と話をしている。

「けーん!」

と吉田先輩が駆け寄る。

「お疲れ。晴もな。慣れないことして疲れたろ?」

と先輩が言った。クッキー作ること、先輩は最初から

知ってたんだな。

「はるる。創ちゃんにあげなよ!」

とスマホのカメラを起動しながら、吉田先輩が言った。

何でカメラ?と一瞬思ったけど、俺は箱に詰めたクッキーを創に渡した。

「これどうしたの?」

「俺が作った」

「えー!すごいなー」

「あんま、期待しないで…」

創は箱を開けて、一瞬固まる。

「え。これどういう感情?」

って言われたから

「満面の笑み…のつもり」

って答えた俺のそばで、先輩達が爆笑してる。

「クッキーに絵描くの難しいんだよー」

「ま、味は私が保証するから。それよりはるる。創ちゃんに食べさせてあげたら?」

と吉田先輩が言った。スマホのカメラは今も起動中。

「え?何でですか?」

「その方が何か思い出すかもよ?」

と言われて俺は創の持ってる箱から、不敵な笑みを浮かべた顔のクッキーを1つ取った。

「創。あーんして」

「いいよ。自分で食べられるから」

と照れていたけど、

「先輩命令だから」

と言うと諦めて口を開けた。食べたあと、

「おいしいよ。ありがとう!」

と笑顔で言った。その時先輩が一言。

「逆も見たいなー!」

「いや、俺はいいですよ」

と言ったけど逆らえるわけなかった。俺が

「じゃあ…」

と口を開けてると、

「どれにしようかなー」

と言って、1番上手にできたやつを、俺の口に入れた。それは後でゆっくり創に食べて欲しかったやつ。

先輩はずっと動画を撮ってた。

結局、創の記憶は戻らなかった。でもあいつがこれから覚えていく、俺との新しい思い出が増えたのが嬉しかったんだ。


夏はまた合宿があった。場所は去年と同じとこ。先輩達は夏休みの後の大会で引退だって。

料理部のメンツはいつも通り。あと1年が4人入ってきたらしいから、そのうちの1人が新メンバーだった。

また3泊4日。相変わらず俺達は同じ部屋。去年の今頃はこんなことになるなんて、思ってもいなかった。

夕食後、食器を片付けながら談笑する創とたまちゃんを見ていた。

あぁそうか。2人は付き合い始めてもう1年だ。

俺に関する記憶はなくなったけど、もちろんたまちゃんのことは覚えていた。付き合ってることも。2人の関係は進展したのかな…

手を繋いだとこまでは聞いた。でもその先は聞けない。知りたいけど知りたくない。

創の隣で、笑いながら手を繋いで歩く、たまちゃんの姿を想像する。俺なんかより全然お似合いだな…

俺はシャワー室で涙を洗い流してから部屋に戻った。


2日目の夜、プールサイドにいた俺にまっつんが話しかけてきた。

「どう?調子は?」

「最悪。タイムも上がらないし、気分も上がらない」

「なるほど。タイムはまぁアレとして、気分は創達のせい?」

「…なのかな」

「…なのだね」

「なんで?俺また創ばっか見てた?」

「うん。もうそれに関しては驚きすらない。晴の通常運転だから。ただ朝から目が腫れてた。二重瞼が一重になってた。昨日泣いたんだな。だいぶ」

穏やかな話し方をするまっつんの、いつもより少し低い声にまた泣きそうになる。

「なんか、気持ちぐちゃぐちゃになってて。頭では頑張ろうって思ったり、もうやめようって思ったり、その波に心が追いついていかないような感じ。あんま上手く言えないけど」

「うん。本当は頭と心は一緒な気がするけど…そんで?」

「俺達いつも一緒で、ずっと創の1番は俺だって、勝手に思ってた。それは家族としても、友達としても、ライバルとしても。そして死ぬまで俺の存在が、あいつの1番だって。そんなわけのわかんない、変な自信まで持っててさ。でもそうじゃないって思い知った。それでぐちゃぐちゃしてんのかな」

「記憶なくなっても、創の1番は晴じゃない?1番というか、唯一無二って感じ?」

「そうかな…俺、あいつが俺の記憶なくしても、また1番になれば、ずっとそばにいられると思ってた。でも日に日に思い知るんだ。俺の存在はあいつにとって、何の意味も持たないんじゃないかって」

「そんなことないんじゃない?創は記憶なくなってからも、お前のこと信頼してるように見えるよ」

「それはきっと従兄弟だから。そうなんだよ。結局俺はただの従兄弟で、それ以上にもそれ以下にもなれない。昨日たまちゃんと創が談笑してるの見て、確信したよ。あいつの横にいるべきなのは俺じゃないんだろうなって」

「ネガティブ晴君。珍しいね」

「ネガティブにもなるよ。もうすぐ1年になるしな」

「じゃあポジティブなこと考えよ!創の記憶戻ったらどうしたい?」

「…どうしたいってゆうか、とりあえず昔みたいに、晴って笑顔で呼んで欲しい」

「それは今でも呼んでるじゃん」

「やっぱどこか違うんだ…」

「そうなのか…はるー!」

と言ってまっつんは俺をぎゅーっと抱きしめた。

背中をさする、まっつんの手があったかくて、また泣いてしまった。


次の日の夜。プールサイドにいた俺のところに、吉田先輩が来て言った。いろんな人が来るな。

「はるるはさ。創ちゃんのこと好きなんだね」

「え?」

「あってるでしょ?」

「…はい。バレてましたか?」

「うん。最初はわかんなかったけど、創ちゃんが怪我したあとくらいからは、なんとなく伝わってきた。最近なんて、すごいわかりやすいもんね」

と先輩は笑った。

「ヤバいですね。俺。昨日まっつんにも言われました。そういえば先輩達は、いつからお付き合いされてるんですか?」

「高校入ってからだよー。小学校からずっと一緒でさ。最初はただの幼馴染な感じだったんだけど、高校入ってすぐ、中学同じだった男の子に、私告白されたんだー」

「へー。断ったんですか?」

「その子とは仲も良かったし、どうしようかなって思って、ちょっと考えさせてって言ったの」

「なるほど」

「そしたら、私と研の共通の友達が、たまたまそれを聞いてたらしくって、研に話したんだって」

「えー。漫画っすね」

「うん。でももっと漫画なのはこれからでね。帰りに一緒に帰ろって言われて、帰り道2人で歩いてるときに、考えるくらいなら俺にしとけば?って研が言ったの」

「沢口先輩が?やりますねー」

「そ。水泳と寺にしか興味ないと思ってたのにね。びっくりしたけど、いい加減な気持ちでそんなこと言う子じゃないってのは分かってたから、じゃあそうするって言って付き合い始めた」

「へー。すげー」

「それにね。長い付き合いだから、私のことは大体知ってる。それが良くも悪くもだけど、人に話しにくい趣味の話とかも理解してくれてるし、それを踏まえて私のことを受け入れてくれるなら、大事にしたほうがいいなって思ったから」

「確かに、自分の弱いところとか、ダメなところ見せてもそばにいてくれるって強いっすね」

「だよね。はるるは?いつから創ちゃんのこと好きなの?」

「俺は…ちゃんと自覚したのは、たまちゃんが創に告白したって知った時です。なんかそれからずっとモヤモヤして。付き合うことにしたって創に言われて、今まで俺といた時間が、これからは別の人と過ごす時間になるんだって思ったら、苦しくて、悲しくて」

「そうかー」

「でも今思えば昔から好きだったような気がします。俺が水泳始めた頃、あいつも急に勉強頑張り出したんですよ。俺、瑛太って言う兄貴がいるんですけど、兄貴は頭良くて。創はずっと瑛太に勉強教えてもらってたんです。そのときの創の顔、見て欲しいくらいですよ。目にハートが見える、恋する乙女みたいな。創は瑛太を好きなんだって思って、中学の時に従兄弟とは結婚できるんだって!って創に言ったことあるんです。そもそも男同士なんで、赤の他人だとしても、日本じゃ無理なんですけど」

「へー。創ちゃんはなんて?」

「ふーん。みたいな感じでした。でも瑛太のことを言ってるつもりで、本当は自分のことを言ってたのかなって。深く考えて言ったつもりはないけど、自分を意識して欲しくて言ったような気もします。あ。引きますよね。ごめんなさい」

「引かないよ。むしろテンション上がる!」

「そう…ですか?」

「うん」

「ドラマとかで、よく失ってから大切な事に気付くって言ってたりするでしょ?あれ、本当なんだなって、今になって実感してます」

「そうだね…」

先輩の目には涙が溜まっていて。溢れる寸前だ。

「創の記憶が戻ったら、自分の気持ちを伝えたいって思ってたんです。でも記憶が戻っても、戻らなくても、俺を好きとは限らないから、余計なことして、あいつを混乱させない方がいいんだろうな、とも思います。こらから先も、俺は普通に従兄弟のままで、創はこれからたまちゃんか、もしくはそれ以外の人と結婚して、家庭を作って。俺はそれを見守るだけがいいのかなって。創に子供が産まれたら、優しい親戚のおじさんになって、思う存分に甘やかそうかなって」

と俺は精一杯の強がりで笑って言った。

「でも記憶が戻らないままは辛いでしょ?創ちゃんが記憶取り戻せるように、私達も協力するから…」

「すみません…」

先輩は泣きながらそう言ってくれた。みんなにもたくさん心配かけてるんだな。俺は創のおかげで、たくさんの人の優しさに支えられてるって気付くことができた。


合宿から帰ると

「吉田先輩に聞いたんだけど、晴はもうすぐ誕生日なんだね?何か欲しいものある?」

と創が言った。

「何もないよ」

「ケーキ作る?」

「そうだな。それだけ頼む」

「おっけー」

本当に欲しいのは他にある。

でも一生、手には入らないかもしれない。

手を伸ばせば届く距離に創はいる。

なのにずっとずっと遠い。


俺の誕生日。

いつもと同じショートケーキ。スポンジの間には生クリームとたっぷりの苺が挟んである。クリームは甘さ控えめ。上に乗ってるフルーツも苺だけ。俺の好みを覚えてるのか。それともただの習慣かな。

去年は家庭科室でみんなと食べたな。

今年は家で家族と食べている。

創はケーキを食べた後、俺を部屋に招き入れた。

「これ。誕生日おめでとう」

と言ってラッピングされたプレゼントを俺にくれた。

「何?ケーキだけじゃなかったのか?」

「うん。気に入るかわかんないけど…開けてみて」

袋を開けると、中にはふわふわの青と赤のスポーツタオルが入っていた。広げてみると端っこにHARUと刺繍がされている。

「名前、わざわざ入れてもらったの?」

「んー。というか、さっきーにやり方教えてもらって、自分で刺繍した」

「マジで?」

「マジで」

「すごいな!どんどん女子力上がってってるな。でも、なんでタオル?」

「だって、晴はいつも頭濡れてるから。風邪引いたら困るでしょ?」

と笑いながら創は言った。優しさが辛い。

「ありがとう。嬉しいよ」

「あと、これも」

と言って引き出しから出したもの。

「これって…」

「うん。お守り。水の神様に好かれるように」

2回目だ。お守りくれるの。しかも同じ言葉を添えて。まあ、一回目のは覚えてないんだろうけど。

「ありがとう…」

と言った俺の目から溢れた涙を見て、創は焦っていた。

「なんで泣くの!?」

「なんでかな。嬉しいからかな」

「そうなん?まー泣くほど喜んでもらえたなら良かったよ!」

と創が言った。


夏休みが終わると、また文化祭が来る。

俺達のクラスは、体育館の使用権を勝ち取り、劇をする事になった。題材は〈竹取物語〉つまりかぐや姫を現代風にアレンジしてパロディをやることに。まー文化祭にはありがちなやつだな。BLがテーマになり、帝の遣いの女官役以外は全員男だって。もちろんかぐやも。

脚本、演出はウメさんとたまちゃん。衣装はさっきーを始め手先の器用な子達が担当になった。

肝心な役の立候補がなかなか出なくて、学級委員が困っていた。

するとまっつんが

「去年、創って料理部の出し物で女装させられてたよな?あれ、結構似合ってたし、やってみたら?」

と言った。

「やだよ!」

と必死に拒んでいたが、なかなか決まらないと困ると学級委員に泣きつかれ、渋々創は引き受けた。

人が良すぎるだろ…去年は散々嫌がってたのに。

でもそのかわりに、帝を始め、かぐやの相手役6人を選ぶ権利を得た。

自分を巻き込んだ仕返しなのか、まっつんは1人目に選ばれた。まっつんもいるならと

「じゃあ俺、2人目いこうか?」

と言ってみた。すると、

「ダメ。晴には帝をやってもらうから」

と創が言った。

「やだよ。荷が重いー」

と俺は逃げようとしたが、創にお願いと言われて断れなかった。


水泳部の方は去年人気だったから、沢口先輩を中心にした、お悩み相談室をする事になった。

準備もそんなにいらないから、そっちは楽だった。

料理部は、去年は出来なかった販売系の枠を勝ち取った。クッキーなどの焼き菓子と和菓子を作るらしい。売り子はコスプレするんだって。東先輩やさっきーが今まで作った衣装の中から選んだり、新しく作ったりするらしい。創はなんかのアニメのキャラクターにしたって。

前日、俺や沢口先輩も手伝って、たくさんお菓子を作った。

俺はアイシング失敗の前科があるから、ラッピング担当だった。


文化祭。

2日とも、俺達の出番は最後だ。

午前はお互い部活の方にいた。

本番。

光る竹から生まれた女の子。2人のお爺さんはかぐやと名付け、大事に育てた。

かぐやはとても美しい女性に成長した。

数々の男性が寄ってくるが全く相手にせず、最終的には5人もの地位のある男性が、かぐやに求婚をする。しかし、かぐやは無理難題を与え、それすらも全く相手にしない。

5人とのやり取りが終わり、ついに俺の出番。

帝はかぐやの美しさを噂で聞き、遣いをやる。

でも全くなびかないかぐやに、あの手この手、ついにはお爺さん達を買収までしたが失敗。

いよいよ帝自ら、無理矢理かぐやに会いに行っちゃえ!作戦を決行。実際に目にしたかぐやの美貌に帝はもうメロメロ。迫る帝の前で、かぐやは光となって消えてしまった。

しかし、かぐやも大人になり、帝に無理難題をふっかけるようなことはせず、文通を通して大人の付き合いを始める。

それから3年。かぐやは月を見ては泣くようになり、理由を問われると、もうすぐ月から迎えがきて、帰らなければいけないと話す。

どうしても阻止したいお爺さん達は、帝に頼んで月から迎えが来る日に、たくさんの軍隊を派遣する。しかし、天人に対してそんなもの、全く歯が立たず、かぐやは羽衣を着せられ、地上での記憶を失い、月へと帰る。

最後にかぐやから、お爺さん達に手紙が渡される。自分が居なくなっても寂しくないようにと。

一方帝は、手紙と共に不老不死の薬を渡されるが、かぐやのいない世界で、永遠を生きる意味などないと、帝は薬と手紙を処分するように家来に告げる。そしてかぐやへの気持ちを整理して、あらたな1歩を踏み出す。

あらすじはこんなものらしい。それを面白おかしく、時に感動的にウメさん達が仕上げてくれた。

みんな最初は恥ずかしがったり、めんどくさがったりしていたが、形になっていくにつれて、楽しくなってきたのがわかった。体育館にはたくさんの人たちが来てくれて、最後は大きな拍手をもらって、1日目は終了した。


2日目。

母さん達には、最初から竹取物語のパロディだと伝えていた。

主役は創だと言ったら母さんは、

「録画しないと!」

と、はしゃいでいた。

またみんなで行くと言っていた。

今年もやっぱり2日目は人が多い。体育館にたくさんの人が訪れ、立って見ている人もいた。俺たちの緊張も昨日とは比べ物にならなかった。

でも、やれるだけの事はやった。昨日よりも良くできたと思う。

舞台の上から、手を振る母さん達も見えた。しっかり撮影もしていた。

終わると一気に力が抜けた。俺なんてまだいい方。創なんて、ほとんどずっと舞台の上にいたんだから。

帰り道。

「お疲れ」

「晴もお疲れ」

「どうだった?」

「最初は大変だったけど、なんかだんだんみんなでやるの楽しくなって、今は引き受けて良かったなって思うよ」

「前向きだな」

「晴は?帝の役なんて推薦しちゃったけど、怒ってる?」

「怒ってないよ。俺も楽しかったし」

「でも竹取物語ってすごいよね。作者不詳なのに、物語は千年経っても語り継がれるなんて」

「確かに。でもなんか切ないよな」

「そだね。自分は月の人間だから、誰とも結ばれないなんて。無理難題を吹っ掛けたり、会うのを拒み続けたり。でもかぐやと帝は心を通わせる。帰るのが嫌になっちゃうよな。せっかく大切な人が出来たのに」

「ハッピーエンド…じゃないよな?」

「そうだね。かぐやを大事に育てた代わりに、大金持ちになったお爺さん達も、お金は手に入ったけど、大事に育てたかぐやは月に帰ってしまうし、帝は熱心に口説いたかぐやと、ついに文通までして心を通わせたのに、自分の持っている権力や、お金なんかではどうにもならないことがあると知る。かぐやもまた、月で罪を犯した罰として送られた地上で、大切なものを見つけたのに、別れが来ることを知っていて、手に入れることはできない。それがかぐやにとっては、最大の罰なんだろうね」

「でもみんな損はしてないよな。もともと子供がいないお爺さん達は、少しの間だけど親としての喜びは味わえた。お金持ちにだってなれたし。帝だって好きな人と3年も文通して、捨てちゃったけど不老不死の薬までもらったじゃん?かぐやも結局は帝と両想いになれて、月に帰らなきゃいけなくても、結局は羽衣着せられて、地上の思い出がなくなっちゃうなら、辛くないんじゃない?」

「そうかもね。でもお爺さん達はきっとお金なんかなくても、かぐやと一緒にいたかっただろうし、帝はかぐやへの気持ちを整理して、新しい暮らしをって思って手紙と薬を処分したけど、本当に気持ちをゼロにはできなかったと思うよ。あの人がいないなら、不老不死なんて意味がないなんて、やっぱり真剣にかぐやのこと好きだったんだろうし。それに…」

と言いかけて創は話すのをやめた。

「それに?」

「それに…かぐやだって、大事な思い出忘れさせられて、月に強制送還でしょ?もし地上でのことが、かぐやにとっての罰とするなら、お爺さん達と引き離す為に、一瞬記憶を消されただけで、もしかしたら月に帰って羽衣を脱いだ時に、また全部思い出したかもしれないよ?自分が忘れてた記憶が、何にも代え難いものだったと、月に帰ってから思い出したなら、かなり辛いよ」

と言った。

創も辛いと思ってくれているのかな。それとも俺に関する記憶が無くなってせいせいしてるのかな。

「創はさ。俺の事忘れちゃって悲しい?それともこのまま思い出したくないと思ってる?」

そんなこと聞くつもりなかったのに。もし思い出したくないって言われたら、俺は立ち直れないと思う。

すると創は言った。

「悲しいよ。というか寂しいよ。何も覚えてないけど、晴はいい人だから、楽しい思い出もいっぱいあったはずだと思う。それを何も覚えてないのは寂しいな。俺もなんかの罰を与えられたから、晴の記憶なくしちゃったのかなー」

そう言った創を抱きしめたいと思った。でも出来なかった。

「きっと俺の記憶だけを無くしたのは、創に対する罰じゃなくて、俺に対する罰なんだと思うよ」

きっと、創の気持ちを試すようなこと、したからなんだ。

「どうして?俺の中の記憶がなくなったのが、晴に対する罰になる?」

「大事な…というか、仲良しの従兄弟に忘れられるって寂しいから」

「忘れる方より、忘れられる方が辛いってことかー」

「どうかな。忘れる方も辛いけど、お前が寂しいって思ってくれてるなら、きっといつか思い出すよ」

そう言って頭をなでるのが精いっぱいだった。


中間テストが終わると俺達には修学旅行が待っていた。

大阪と京都だった。3泊4日でホテルは3日とも京都のホテルだった。

部屋は3人で一部屋だった。俺たちの部屋は俺と創とまっつん、のはずだった。

出発前日、まっつんは学校を休んでいた。心配でメッセージを送ったら、妹のおたふく風邪をもらっちゃったらしい。ついてないな。

お土産よろしく…と、泣いてるスタンプと一緒に返信が来た。

初日は昼過ぎに京都に着いて自由行動だった。創と料理部女子トリオとお土産をみたり、ホテルの近くを散策したりした。

2日目は世界遺産巡りだ。混雑しないようにコースが2つにわかれていた。

俺達は、西本願寺→二条城→龍安寺→金閣寺→下鴨神社→銀閣寺→清水寺というなんだか恐ろしいくらいに世界遺産を詰め込んだコースだった。たまたま入ったお土産屋さんで、俺と創はお揃いのマグカップを買った。

3日目は朝から観光バスに乗り、大阪のテーマパークに行った。お土産に、俺と創とまっつんの分も、お揃いのTシャツを買った。まっつんも一緒に遊べたら良かったのに。

夜は京都のホテルに戻り、修学旅行最後の夜を過ごした。

「昔さ。中学の修学旅行でお互いにお土産買ったんだ。俺はキーホルダーを創にあげて、創は俺に貯金箱くれたんだよ。覚えてないと思うけど。まだ家にあって使ってる」

「そうなんだ」

「そんときはお揃いに出来なかったけど、今回はお揃いのマグカップだな。まっつんも入れて、Tシャツもお揃いだし」

「うん。あのマグカップもTシャツも可愛いよな。帰って早速使うよ」

「うん。俺も」

しばらくすると、創の寝息が聞こえてきた。

よほど疲れたのだろう。まだ23時前なのに。

創のベッドに近付き、しばらく寝顔を見ていた。

俺はスマホで創の寝顔を撮った。ずっと見ていたいな。

創が寝返りをうったから、慌てて自分のベッドに戻りった。

スマホに保存されている、今まで撮った写真を見返していた。

中学の時は父さんのおさがりを使ってた。

ようやく去年変えたから、あまり写真が入ってない。

それにしても、俺のスマホの写真、創ばっかじゃん。

眠れないのはわかっていたから、持ってきていた本を読んでいた。創に前に借りたやつ。創と違って、本を読むのは得意じゃないから、なかなかページが進まない。

俺がベッドでゴロゴロしたり本を読んだりしていると、創が起きた。時計はもう1時半だった。

「どうした?眠れない?」

「ごめん。起こしたよな?」

「大丈夫。そっちは?大丈夫?」

「俺、枕変わると寝れなくて、ここ来てから毎日寝不足なんだよ。家から枕持ってきたらよかったかな」

と俺がいうと、創は

「それはだいぶ荷物嵩張るね」

と笑う。俺は少し悩んだけど、

「でも、実はもうひとつだけ、解決法があるんだ」

と困ったフリして言った。

「そーなん?どうするの?」

と創が言ったから、俺はベッドに寝転んだまま、両手を広げて言った。

「ん。きて」

「…え?どういうこと?」

創はちょっと困りながら言う。

「こうすると眠れるんだ。だからこっち…来て?」

「えっと…わかった」

少し悩んでいたけど、創は広げていた俺の腕の中に入って、背を向けて寝転んでくれた。

記憶がなくなってからは、こんなこと出来なかった。変な奴だと思われるだろうし、混乱させたくなかった。だから部屋に泊めてくれとも言えなかった。

はぁ…でもずっとこうしたかった。いつも創が使ってるシャンプーの香りがする。泣きそう。でもいいや。どうせ創は背中を向けてるし。

自然と創を抱きしめる腕に力が入る。

創がぴくっと動いたのに気付いて、俺は力を緩めた。

痛かったかな。力入れすぎたかも。俺が泣いてることに気付いたのか、しばらくするとゆっくりと向きを変えて、俺の涙を指で拭うと、

「こっち向きの方が良かった?」

と言って俺のことを抱きしめた。

あぁ。もうこのまま死んでもいいかも。

それか俺のだってわかるように、跡がつくほど強く抱きしめるか…

そしてそのままくっついて、1つになれたらいいのに。

そしたら記憶なんて戻らなくても、ずっと創は俺の1番で、そして俺は創の1番でいられる。


そう思っていても、いつもと同じように朝は来る。

帰ったらまた、ただの従兄弟に戻るんだな。

部屋を出る準備をしながら創が言った。

「帰ったらすぐ期末テストだな。それ終わったらクリスマスだろ?なんかする?」

「なんかって?」

「うーん。パーティー的な?去年楽しかったから。今年は先輩達は受験だから来れないだろうけど、俺達とたまちゃん達とでなんか出来ないかなって思っただけ」

「場所は?」

「うちで」

「母さん達は旅行って言ってたもんな」

「うん。沖縄行くって」

「瑛太と真理は、友達の家でパーティーするって言ってたし、瞬と楓は母さん達についてくって言ってたから…」

「な?家、使い放題だろ?」

「いいね!みんなで集まろ!」

「じゃあたまちゃん達に聞いとく。晴もまっつん誘ってみて。修学旅行来れなかったし、なんか思い出作らないと、でしょ?」

「そだな」

俺達はすぐにみんなにメッセージを送った。

まっつんからは

「絶対行く!」

とすぐに返事が来た。プレゼントは1人2,000円以内のもので用意するって事にした。

当日は、みんなでご飯やケーキを作る。

プレゼント、何にしよう。


期末テストも終わり、終業式を迎えた。

今日はクリスマスイブだ。このままスーパーに買い物に行って、創の家に向かう。

家に着くと、早速準備を始めた。

創とたまちゃんがケーキのスポンジをオーブンで焼いている。

さっきーとまっつんが唐揚げとポテトを揚げる。

ピザの生地をこねるのは俺の役目になった。

こねた生地にウメさんが具材を乗せていく。

焼けたスポンジに、創とたまちゃんがデコレーションしている。

それを横目で見ながら、俺とまっつんはポテトをつまみ食いしてさっきーに怒られた。

それを見て、創達が笑っていた。

ピザを焼いて、準備ができると

「いただきます!」

とみんなでクリスマスパーティーを始めた。

俺とまっつんはダイ○ーで買ったトナカイの鼻とツノをつけて、他のみんなはサンタ帽をかぶっている。

どうでもいいくだらないことから将来のことまで、みんなでたくさんの話をした。そんな時、

「そろそろプレゼント交換する?」

とさっきーが言った。

「そうだな。メモ持ってくるから、その間に順番決めといて」

と言って、創が2階の自分の部屋から、メモを持ってきた。並べた6つのプレゼントに、1から番号をふっていく。

同じように番号が書いてある紙を、空のティッシュ箱に入れてシャカシャカ降って、

「1番の人から引いて」

と言って箱を前に差し出した。

箱に入った紙が全員に行き渡る。

「じゃあ紙と同じ番号のプレゼントを開けよう!」

と創が言って、みんな自分の紙と同じ番号のプレゼントを開けていった。

「私1番だー」

と言ってたまちゃんが包みを開けると、中はギフトカードだった。

「すげー実用性重視だな」

と俺が言うと、

「それ用意したの私!みんな買い物はするでしょ?だから誰に当たっても大丈夫かと思って」

とさっきーが言った。

なるほど。ギフトカードなんて、思いつかなかった。

「じゃあ次私ね」

とウメさんが袋を開けた。中には膝掛けが入ってる。

「それ俺が用意したやつ」

と俺が言うと、

「なかなか良いよ!私好みで」

と言ってくれた。ちょっと嬉しい。

「じゃあ次俺だ」

と創が言って3番の袋を開けると、中はパンダのもちもちのぬいぐるみだった。

「可愛いね!でも俺がもらって良かったのかな」

と創が言うと、

「そうか!創や晴に当たる可能性もあったんだ!」

とまっつんが頭を抱えて言った。

「でも可愛いから俺は嬉しいよ!」

とにこにこしながら創が言った。

え、可愛いのはあなたなんですけど。

「じゃあ次、俺」

とそのまっつんが4番の袋を開けた。

中は紺のマフラーだった。

「えー!これって手編み?すげー!」

とテンション上がりまくりだ。

「1番当たらないと思ってたまっつんに当たるとは…手編みなんて今時どうよって思ったんだけど、ちょっとハマってるんだー。本当はカーディガンとかセーターが良かったけど、予算的に毛糸の玉がマフラー分しか買えなくて」

とウメさんが言った。

「しかもウメさんの手編み?めっちゃ嬉しいんですけどー」

「なんでよ?」

「俺、ウメさんのこと好きだから!」

まっつん以外みんな、一瞬石像化する。

「は!?何急に」

と驚くウメさん。

「どさくさに紛れてしれっと告ってんじゃねーよ」

と俺。でもまっつんてこういうとこある。いつも自分に正直というか、空気読んでるような読んでないような、でも人を傷付けたりする無神経な感じとは違う。

きっと人のことよく観察してるんだ。だから去年の夏の合宿の時、真っ先に俺の創に対する気持ちにも気付いた。

「はい!告白の続きは後で2人でやってちょうだい!次は?」

とたまちゃんが言う。

「私だね。なんだろう」

とさっきーが包みを開けると、パスケースが入っていた。

「それ、私が用意したやつー」

とたまちゃんが言った。男女問わず持てるシックなデザインだった。

「私こういう感じ好き!」

たしかにさっきーに似合う気がする。

「次は俺だな。ってことは残ってるのは創が用意したやつ?」

「そうだな。開けて」

そう言われて、どれよりも大きな包みを開けた。

「あ。抱き枕」

「うん。晴に当たればラッキーと思ったけど、本当に当たるとは…持って帰るのはちょっと大変だけど、誰に当たっても大丈夫かと思ったし」

抱き心地、悪くない。

でも俺は創の方がいいな…

いかん。妄想が暴走する。

「プレゼント交換楽しかったね!そろそろケーキ食べよー?」

とたまちゃんが冷蔵庫にケーキを取りに行った。

ケーキを食べて、また話をして、22時頃お開きにした。


みんなを駅まで送って、帰り道。

「なんで抱き枕?俺が眠れなくて、添い寝してって言ったから?そんなに嫌だったら、断ってくれたら良かったのに」

「違うよ。いつも俺が一緒とは限らないから、そんときは代わりになるかと思って」

「でも、あれ旅行に持って行けないよ?」

「あ…そうか枕が変わるとダメってことは、家では普通に眠れるんだよな。失敗したなー」

えー。可愛いんですけど。

「いや、そういうことならいいんだ。嬉しい。今度どっか行く時、担いで行くわ」

「それなら、自分の枕持ってった方がコンパクトでいいんじゃない?」

と笑った。最近よく笑いかけてくれる。だいぶ2人でいるのが自然になってきた。

家に着いて、2人で片付けをしていた。

「あのさ、今日…」

と俺が言いかけた時、

「ただいまー」

と真理ネェが帰ってきた。なんだよ。大学生のくせに帰るの早いな。

「お帰りー」

と創と2人で言う。片付けが終わると、創が言った。

「さっきなんか言いかけてたよな?なんだった?」

「ん?なんだったっけな。忘れた。たぶん大したことじゃないよ」

あのさ、今日、部屋泊まってっていい?

そう言おうとした。ダメだな。修学旅行の時以来、欲が出てきちゃってる。今日は諦めて帰ろう。


冬休みだなー。大晦日の夜は創を誘って、夜中の初詣に行くか。

創に電話した。

「もしもし?」

「どした?」

「大晦日の夜、年越し一緒にしよ!んで年が明けたら、一緒に初詣行こ?先輩んとこ」

「うん。いいよ」

「じゃあまた、当日連絡する」

「うん。わかった」

電話を切って俺は宿題を始めた。



12月30日、俺はカフェにいた。待ち合わせをしている。

「おーい!」

手を振りながら走ってきたのは、ウメさんだ。

「おう!待たせたな!」

とウメさんが言った。

「大丈夫。俺も今来たとこ」

「みんなは?」

「まだだよ」

「明日の大晦日、はるるに初詣誘われた?」

「うん。一緒に行くよ。みんなも一緒に行く?」

「うちらはうちらで行くよ。邪魔したらはるるに怒られそうだから」

「ウメさんは…まっつんと行くの?」

「うん。たまちゃん、さっきー、まっつん、私の4人かな」

「クリスマスの告白の後、どうしたの?」

「私、ほら、オタクじゃない?それ知ったら嫌いになるかもしれないじゃん?だからとりあえず、友達からっていうか、遊びに行ったりするところから、始めませんかって返事した」

「なるほど。まっつんはなんて言ってた?」

「はい!喜んでー!って昔の居酒屋みたいな返事が来た」

とウメさんは楽しそうに話した。

「良かった」

「それにしても、今年もはるるは、早く創の記憶が戻りますようにって祈るんだろうなー」

「そうだなー。去年も必死にお願いしてくれたらしいから。それ俺に言っちゃうくらいだし」

「だよねー。こうなりゃもう奥の手使って、同じように階段から落としてみる?そしたら記憶戻るんじゃないかなー」

とウメさんが言うから

「やめて。次は本当に死ぬから」

と2人で笑った。

その時、たまちゃんとさっきーがやってきた。

「ごめんー!遅くなってしまった」

さっきーが言った。

「大丈夫だよ。連絡くれてたし。ウメさんと話してたから」

「なんの話?」

とたまちゃんに聞かれて、

「去年の初詣の話。今年もはるるは、創の記憶が戻りますようにって、必死にお願いするんだろうなって話してた」

とウメさんが言った。

「確かに!」

と俺が渡したメニューを見ながら、2人が言った。

「でも今年は、そのお願いしたら無駄になっちゃうから、早く言ってあげないと、と思ってるけどね」

「…何を?」

とたまちゃんが俺に聞いた。

「沢口先輩のところすごいよ。ちゃんと俺と晴の願い事叶えてくれた」

という俺の言葉に、3人が一斉にこっちを見た。

「それって…」

とうるうるした目でウメさんが言ったから、

「うん。思い出したんだ。晴のこと。大切な思い出も全部」

と言った。その瞬間、

「きゃー!」

と3人が喜んでくれていた。

「いつ?戻ったの?」

ってさっきーに聞かれた。

「修学旅行の最終日、枕変わると眠れないって晴が言って、でも眠れる方法が1つだけあるって言うから、何?って聞いたら、添い寝してって腕を広げて言ったんだ。ちょっと恥ずかしかったけど、それで眠れるならと思って、布団の中に入って、晴に後ろから抱きしめられた時に思い出した」

「なにそれ…もう少女漫画じゃん」

「良き!かなり良き!」

「オタクに生まれて良かったよ…私。その写真撮りたかった…」

とみんなで盛り上がっている。

「あ。それでクリスマスの時に抱き枕?はるるに当たって欲しいって言ってたやつ?」

とたまちゃんに聞かれて、

「そう。俺がいない時に代わりにって思って。でもそれ持って移動するくらいなら、枕の方が嵩張らないよなって後で思った」

「はるるは知ってる?」

「いや、まだ言ってない。年が明けて、あいつがまた俺の記憶が早く戻りますようにって、そうお願いする前に言うよ」


帰り際たまちゃんに、ある録音を聞かされた。

「これ…」

「うん。これ聞いたら、もう悩まなくて済むでしょ!付き合ってるフリもしなくていいよね!どうする?」

「でも…」

「私のことは気にしないでね!だから今度はちゃんとはるるに気持ち伝えるんだよ!」

と言ってくれた。

「わかった。ありがとう」

そう言って3人とわかれて家に帰った。


そういえば、修学旅行から帰ってきた俺に、母さんが言った。

「もしかして、記憶戻ったの?」

「何でわかったの?」

「わかるわよ。母さんだもの!」

なんかちょっとよくわかんない理由だけど、

「まだ晴には内緒にしてて。自分からちゃんと話すから」

「わかった」

と言って母さん達は、晴にだけは何も言わずにいてくれた。


大晦日。

晴が俺の部屋に来ていた。ベッドに座っている晴の横に座って俺は聞いた。

「なぁ、晴。俺になんか言うことない?」

「え?なんかあるかな…明けましておめでとうはまだだし…今年もお世話になりました。来年もよろしく!かな」

「まあそれはそれでいいけど、他にあるだろ?」

晴はすごく悩みながら、ようやく出した答えが

「宿題教えて」

だった。

「まだ終わってなかったの?」

「わかんないとこだけ何個か残してて…」

「去年の夏休みもそうだったじゃん」

「ちょっと待ってて。持ってくるから」

しばらくして、晴が家から宿題を持って現れた。

「あと、もう一個あった」

お、やっときたか。心の準備をして待つ。

「怪我させてごめん」

「…は?何で晴が謝るの?」

「俺があのカフェ行こうって言わなきゃ、怪我なんてしなかったなって」

「関係ないよ。あれは俺が勝手にやったことだから。宝くじ外れたからって、宝くじ売り場の人を恨んだりしないだろ?」

「そっか。そうだな。ちょっと気になってただけ」

「宿題やるよ」

「お願いします」

終わった後、晴は動画を見てた。

「何見てんの?」

「水泳の動画。創は将来どうするの?どこの大学行くとか決めてる?」

「何?急に」

「クリスマスの時、みんなで色々話しただろ?俺はどうしようかなって。泳ぐのは好きだけど、アスリートになれるほどでもないから。他に何か見つけようかなって」

「俺は、悩んでる。父さん達見てたら、建築とか面白そうだなって思うし、でも児童福祉や医療にも興味ある。家族と相談してゆっくり決めようかなって。それにまだこの先、他のことにも興味が湧くかもだし」

「ふーん。なんか楽しそうでいいね。たまちゃんにも相談したりする?」

「これからするかもしれないけど、まだ何も。実は別れたんだ、俺達」

「なんで!?たまちゃんいい子なのに!」

「うん。だからかな。色々あってさ。でも前みたいに友達としては仲良くしていくから心配しないで」

「そうか…色々ね」

「うん。色々」

「けど、大学生になったら俺達別々になっちゃうな。俺の頭じゃ創と同じとこは行けないだろうから」

「そうかもな」

「せっかく高校まで一緒だったのになー」

「でも俺が別の大学行って、一人暮らしとかしても、家に押しかけてくるんだろ?」

「そう!美味しいご飯を食べさせてもらいに行くから、また生姜焼き作ってよ!」

「わかったよ。そういえば、年明けの初詣はなんてお願いするの?」

「それ言ったらダメなやつなんだろ?」

「あれ?でも今年のは教えてくれたのに?」

「だから叶わなかったんだよ」

「あと1時間あるよ。諦めるの?」

「1時間じゃどうにも出来ないだろ?」

「そんなんわかんないよ?なんか試してみてよ」

「なんだろう。…何したらいいか浮かばないや」

「そっか。まあいいや。でも実は俺の願いは叶ったんだよ。やっぱ沢口先輩んとこ、すごいね」

「だって創は俺に教えてくれなかったから。それで叶ったんだよ」

「そーなの?」

「何お願いしたの?叶ったんなら教えてよ!」

「秘密。そういえばこの間押し入れ整理してて見つけたんだ」

と俺はひとつの箱を出した。蓋を開けて晴に見せる。

「それ…」

縄跳びと小学生の時に使ってた手提げ袋。夏休みのラジオ体操で皆勤賞のスタンプカード。それで貰ったノートと鉛筆。ご当地キーホルダー。晴の制服の第2ボタン。

「お前も残してたんだな…なぁ、夜中初詣に行ったあと、泊めてって言ったら怒る?」

「これで何回目だよ。怒りはしないけど…隣自分ちで家に枕もあるんだから、帰れば普通に眠れるでしょうよ」

「でもここにいると、なんとなく落ち着くから」

「せっかく抱き枕もプレゼントしたのに」

「あー。あれは大事に使ってる。ていうか泊めてって言ったのは初めてだよ。修学旅行の時は、泊めてもらったんじゃなくて、添い寝してもらっただけだもん」

「だもんじゃないよ。初めては嘘だね。去年の合宿のあとも、去年の晴の誕生日も、俺が怪我する前の日も泊めてって言ったから、初めてじゃないだろ」

晴の表情が変わる。

「去年のって…誰に聞いたの?」

「誰にも聞いてないよ」

「じゃあ…」

「思い出したんだよ。全部」

と俺が言った瞬間、晴は俺に抱きついて

「ほんとに?いつ?」

と言った。

「こないだの修学旅行で、お前の抱き枕になった時。後ろから抱きしめられて、全部思い出した。それと階段から落ちた時、俺このまま死ぬのかなーって。それなら前の日に晴に添い寝をねだられた時、背中を向けるんじゃなかったって思った。死ぬってわかってたら、向かい合って抱き締め返したのにって」

「それを思い出したから…だからこないだの修学旅行では、向かい合わせで抱きしめ返してくれたのか?」

「うん。後悔しないように。次の日また事故にあったりして、次は本当に死ぬかもしれないじゃん?」

と笑って言うと

「なんでそれならもっと早く言ってくれなかったんだよ?」

「晴が俺をどう思ってるかわかんなかったから。それ次第では、このまま記憶を失ったフリしてる方がいいのかと思って」

「そんなわけ。俺がどんなに…」

「泣くなよ。ごめんな。もう大丈夫だから」

「泣いてない…でも、良かった。本当に」

「それでさ…俺になんか言うことない?」

「なんだよ?さっきから」

「こんなもん聞いちゃったんだよ」

と俺はたまちゃんが録音していたデータを再生した。


「…俺は創を誰にも渡したくなかったんだ」

「…もし俺のこと思い出したら、気持ちの整理させて欲しい。たまちゃんには申し訳ないけど、好きだって伝えるだけ伝えてもいいかな?」


「うわぁぁぁぁぁ!」

晴は焦りのあまり、俺の携帯を取り上げようとした。

「ほら、言うことあるんだろ?」

と俺は、晴にもらった第二ボタンを掌に乗せて言った。

「…なんだよ」

「もう!」

と俺は晴にキスをして言った。

「ほら、好きだって、誰にも渡したくないって言えば?」

「う…好きだ。俺も言ったんだから創も言えよ」

「晴。好きだ。ずっと好きだった」

と晴に抱きついた。

「可愛すぎるだろ…」

「何言ってんの…?」

「お前さ、そのボタンもらってやるって俺に言った時、もう俺のこと好きだった?」

「当たり前だろ?好きでもないやつのボタンなんか貰うかよ」

「…なぁ。このまま、お前のこと抱きしめたまま、今日は眠ってもいい?」

「年越したらすぐに、初詣行くんじゃないの?」

「もういい。そんなの朝になってからで。朝までこうして眠りたいから」

「ん。じゃあそうしよ。明日の朝、先輩のとこ行って、お礼もしなきゃだよ。俺らのお願い叶えてくれて、ありがとうございましたって」

「そうだな。あとお願いも変えなきゃ」

「どうして?」

「もう1回、創の記憶が戻りますようにってお願いしようとしてたから」

「やっぱり…」

と言って俺は笑った。

「だから明日は、創と死ぬまで一緒にいられますように!に変えるわ」

「だから言っちゃダメなんだって…」

俺達はそうやって、抱き合って眠りについた。

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