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姫はお父様のお仕事の都合で、
小学生のころに引っ越してきた。
お父様はお仕事が忙しく、
いつと爺やと一緒に過ごしていた。
お母様はお父様と一緒にお仕事に行っていて、
姫はいつも爺やと一緒だった。
学校に友達はいない。
学校生活なんてつまらない。
男子は姫のことを可愛いとか綺麗とかしか言わないし、
お父様のお金持ちなとこに興味があるのかもしれない。
女子はそれが気に入らないのか、
直接は言ってこないが、
コソコソと姫の悪口を言っていることを知っている。
可愛くないとか、金持ちの娘だからとか、
姫はずっと言われ続けていた。
だから、転校してからも同じだろうと思っていた。
そして、思っていた通りに同じだった。
男子には人気があるが、女子には嫌われる。
そんなある日、クラスの中で目立っている、
中心人物のような男子に告白された。
白雪は俺の彼女になれっ!
そう言われたと思う。
姫にはいつか白馬に乗った王子様が
迎えにくるんだよってお父様から聞いていたから、
この人は王子様なんかじゃないって思った。
でも、その時の姫は爺やとしかあまり話さないから、
上手く断ることが出来なかった。
ご、ごめんなさい
姫がそう言うとその男子は怒った。
白雪は俺の彼女になれよっ!
何でならないんだよっ!
姫は謝ることしか出来なかった。
それからだった。
その告白した男子が姫に嫌がらせをするようになった。
面白がって、他の男子も一緒に嫌がらせをする。
でも、姫にとってはどうでもいいと思っていた。
男子に不細工!って言われたり、
消しゴムのカスを投げられたり、
本当に些細なことだった。
でも、その日は違った。
爺やが買ってくれたペンケースを壊されたのだ。
多分、わざとではなかったとは思うのだけれど、
男子達が不細工と言って騒いでいたら、
姫の机にぶつかってペンケースが落ちた。
それを踏んでしまった男子がいたのだ。
だが、ペンケースが壊れたのにも関わらず、
男子達は騒ぐのをやめなかった。
告白してきた男子が壊れたペンケースを踏みつけて、
姫にこう言った。
聞いたぞ!お前ん家って金持ちなんだろ?
こんなんいくらでも買ってもらえんだろ?
そう言われた。
たしかに買ってもらえるとは思うのだけれど、
爺やが買ってくれたペンケースだったのだ。
姫はそのペンケースを大切にしていた。
だから、壊れたことが悲しかった。
そして壊れたことを知った爺やが、
悲しむ姿を見ることも悲しいと思ってしまった。
姫は壊れたペンケースを抱えて、
もう踏みつけられないようにした。
そうしていたら、彼は姫にこう言った。
つーか!お前ってお嬢様ってやつなんだろ?
アレなんじゃね?
お前って父ちゃんのお人形さんなんじゃね?
着せ替え人形みたいな?
そう考えたら、お前って父ちゃんのおもちゃだな!
それを聞いた周りの男子は笑った。
笑いながら、おい!人形!と言ったり、
パパ〜お着替えおねがいしまちゅ〜!なんて、
姫に言いながら、笑っていた。
今までどうでもいいって思っていた。
でも、壊れたペンケースを抱えながら、
なんだかとても悲しくて、悲しくて…
その時だった。
姫が霧山璃空を知ったのは…
いま、何て言われましたか?
もう一度、お聞かせ願えますか?
姫と男子達の間に立ち、男子達に話しかけている。
あ?なんだよ!霧山にはかんけーねーだろっ!
…たしかに、僕には関係ありませんが、
許せない発言が聞こえましたので…
もう一度、お聞かせ願えますか?
おい!霧山が許せないとか言ってるぜ?
兄貴の金魚のフンが何か言ってるわ!
そう言って周りの男子達も笑う。
そんなに聞きたきゃ、何度でも言ってやるよ!
白雪は父親のおもちゃなんだよ!
着せ替え人形なんだよ!それってよ!
おもちゃと一緒じゃねぇかっ!
そうですか…
やはり、許せない発言がありましたね。
訂正をお願いします。
人を人形扱いすることは間違っています。
それとも、人がおもちゃに見えてしまう病気ですか?
なんだとっ!霧山のくせに!
そう言われ、霧山くんは殴られた。
霧山のくせにっ!と言われ、
周りの男子にも殴られたり、蹴られたりしている。
すぐに先生が来て、騒ぎはおさまった。
でも、霧山くんは最後まで同じことを言っていた。
先生に事情を説明して、
騒ぎを起こした家族が呼び出された。
姫のペンケースが壊されたこともあり、
男子達は姫に謝った。
それから姫に嫌がらせをすることはなくなった。
でも、姫はそれから霧山くんのことが気になった。
今までクラスにいたことすら気付いていなかった。
それなのに、姫を庇ってくれて…
騒ぎの合った日に霧山くんのお母様が
学校に来られたので姫は話しかけた。
「あ、あの…霧山くんの…お母様ですか?」
「あら?リクちゃんのクラスメイトかしら?」
「は、はい…。あ、あの…霧山くんは…姫のために…そ、その…」
「先生から話は聞いたわよ〜。貴女が白雪姫花ちゃんなのね!」
「は、はい!そうです!」
「そうなのね〜。ヒメちゃんが気にすることなんてないわよ〜!リクちゃんはリクちゃんが思ったことをしただけなんだから!ね?」
「…そうなのですか?」
「そうなのよ〜!だから、大丈夫!」
「は、はい…」
「ほら!ヒメちゃんの可愛い顔が心配してる〜ってなってるじゃないの〜。大丈夫よ。大丈夫なんだから!ヒメちゃんは笑顔よ!笑顔!」
「は、はい!」
「ほら!可愛いじゃない!もしよかったら、リクちゃんとも仲良くしてくれたら嬉しいわ〜♪」
霧山くんのお母様は優しく姫にそう言ってくれた。




