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教室に戻るとトラもタカも弁当を食べずに待っていた。

食べてていいよって言ったんだけどなぁ


「ほら!やっぱり、3人で食べたいじゃん!」

「リクも弁当を食べるんだ…一緒でも問題ないだろ?」


トラとタカはそう言ってくれた。


あれから篠宮里沙と朝日奈結衣は、気を遣っているのか僕たちにあまり近づかなくなった。

ある意味、元の日常に戻ったとも言える。

僕へのイタズラがなければ…


いわゆる典型的ないじめと言われるようなイタズラが僕の身に起こっている。上履きに画鋲を入れられたり、ノートに落書きをされたり。

暴力など直接的な被害は今のところないので、

イタズラだと思っている。

上履きの画鋲は一度、気付かずに履いてしまって痛かったけど、次からは確認すれば問題ない。

問題なのは回収した画鋲の置き場所だろうか?

ノートの落書きについても問題ない。

バカだのクソだのホモ野郎など書かれているだけだ。


ただ一つ疑問に思っていることがある。

バカとかクソなどは悪口が書きたいんだろうなぁとは思うことが出来るがホモ野郎とはいったい何だろう?


LGBT

セクシュアルマイノリティを知らないのだろうか?

男性が好きな男性もいて、女性が好きな女性もいる。

男性女性のどちらも好きになる人や、産まれた時の性別に違和感を感じて心と身体に悩みを抱えている人もいる。


それは個性という要素の一つでしかない。

隠キャも陽キャもそうだ。

一般的に隠キャや陽キャの方が圧倒的に数が多いため、接する機会も多く、一緒だと考えにくいのかも知らないが、僕は一緒だと思う。

ただ人数が少ないから、接する機会が少なく、

考えることが出来ない人が多いのかもしれない。


もしも悪口のつもりで書いているのなら…

ありのままの、互いが互いの個性を理解し合って、

思いやりを持つことが出来ていない事実に…

なんだか悲しいなぁって思ってしまった。


ため息をついてから、日誌を開く。

今日は僕が日直の日だ。

日誌を書こうと思ったら日誌を取られてしまった。

日誌を取るイタズラはやめようよ…

そう思って前を見ると日誌を持った白雪姫花が立っていた。


「え?…あ、あの」

「何故、1人でするの?」

「い、いや…それは…」

「姫も日直なのだけど」


そう言えば、今日は僕と白雪姫花が日直だったな。

いつも1人でしていたから相手の確認を忘れていた。


「あっ…そ、その…す、すみません…でした」

「何故、謝るのかしら?」

「そ、それは…」

「霧山くんが謝ることではないと思うわ。日誌は姫が書くから」

「え?で、でも…」

「何か問題でもあるのかしら?」

「い、いえ…」

「なら構わないわね。それより、何か考え事をしていたようだけど…何を考えていたのかしら?」

「…そ、それは」


白雪姫花は話せないことなら話さなくていいと言って、日誌を書きはじめた。


「あ、あの…好きって「ふぇっ!?」

「えっ!?」


僕が好きって何でしょうか?と質問しようとしたら、

白雪姫花はすごい声で驚いたようだ。


「す、すみませんでした!あ、あの…な、何か…そ、その…」

「べ、別に…何でもないわ…続きを聞くわ…」

「え?い、いや…た、大した質問…でも…ありませんので…」

「途中まで聞いたら気になってしまうのだけど?そこまで言ったのなら最後まで言って…」

「そ、そう…ですね…」


白雪姫花にすごく睨まれてしまった。


「あ、あの…ですね…。好きって…何でしょうか?」

「好きとは、心がひかれること、気に入ることまたは自分の思うままに振る舞うこと。似てる言葉に好むという言葉があるけれど、その言葉には特にそれを望む、欲するという意味もあるわね」

「そう…ですよね」

「知ってて聞いたのかしら?」

「い、いや…こ、言葉のい、意味は…理解…しているつもりなんですけど…よ、よく…わからない…と思いまして…」

「霧山くんはゲームをするのかしら?」

「え?…は、はい…し、します…けど」

「姫もゲームはするわ。ゲームは好きだもの…霧山くんも同じなのではないかしら?」

「そ、そう…ですね…」


白雪姫花はまた日誌を書きはじめた。


「し、白雪さんも…ゲーム…さ、されるん…ですね」

「するわ。何か問題でもあるかしら?」

「い、いえ…そ、その…し、してるイメージが…ありません…でしたので」

「そう」


白雪姫花がゲームをしているのは意外だと思った。

そして、僕も結局、相手に対して勝手なイメージを持って接していることに気付いて自己嫌悪してしまう。


別に白雪姫花がゲームをしていることについては、そっか〜、ゲームするんだなぁぐらいにしか思っていない。

だが、それでも意外だと思ったと言うことは、僕の勝手なイメージが、思い込みがあったという事実でしかない。


僕も人間だ。感情もあって、考えもする。

相手に対して勝手なイメージや思い込みもある。

だからこそ、相手の知らない一面や個性と触れ合う機会があれば、理解してあげられる、思いやりを持って相手のことを考えてあげられる人間になろうと思った。

それができる人間になりたいと思った。

そうあろうと僕は思った。


「何のゲームをしているのかは聞かないのかしら?」

「…え?…そ、それは…」


考え事をしていたから、

急に話しかけられてビックリしてしまった。


「何のゲームをしているのかは聞かないのかしら?」

「…そ、その…な、何の…げ、ゲームを…されて…い、いるんですか?」

「バケタイ」

「そ、そう…ですか…」


え?何で言い直したのかな?

僕の耳が悪いと思ったのだろうか…

それなら、申し訳なかったな。


「バケタイ」

「え?…ば、バケタイ…さ、されてるんですね」

「そう。バケタイ」


え?なんでこんなにバケタイって言うの?


「バケタイ」


まだ言ってるよ!

ちょっと怖いんだけど…

あれかな?バケタイって言わなきゃどうにかなっちゃう病気にでもなっちゃったのかな?いやいや!それじゃ、定期的にバケタイって呟いてることになっちゃうよね!?

そんな姿見たことないもんなぁ…

え?それとも、僕が気付かなかっただけで、

ほ、本当にそんな病気に…


「バケタイ」

「ば、バケタイ…さ、されてるんですね」

「そう。バケタイ」


うん。病気じゃないね。

きっと僕にループする特殊能力が目覚めてしまって、

巻き込んでしまったのかもしれない…

ごめんなさい。本当にごめんなさい。


「バケタイ」

「ば、バケタイ…さ、されてるんですね」

「そう。バケタイ」


やっぱりそうだ!これはループしているんだ!

ごめんなさい。ごめんなさい。

本当に申し訳ありません。

巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。


「バケタイ」

「ば、バケタイ…さ、されてるんですよね」

「そう。バケタイ」


ダメだ!ちょっと返事を変えてみたのに!

もうこのループから抜け出せないのかっ!


「バケタイ…………霧山くんもしてるのよね?」

「え?…は、はい…してます…けど」

「武器は何を使ってるのかしら?」


もう話の内容よりもループから抜け出せたことの喜びの方が勝っていた。よかった。本当によかった。

もうこのループから一生抜け出せなかったらと思うと…僕のせいで巻き込んでしまっていたらどうしようかと…そればかり考えてしまった。


「武器は何を使ってるのかしら?」

「え?…あ、ああ…ぶ、武器ですね。双剣…です」

「そう。姫は斧なの」

「そ、そう…ですか」

「前作は両手剣を使っていたのだけれど、斧の方が姫には合っているように思うの」

「そ、そう…ですか」

「レベルは何かしら?」

「23…ですね」

「そう。姫は26になったところ」

「そ、そう…ですか」

「姫は協力プレイをしたことがないのだけれど」

「そう…なんですね」

「姫は協力プレイをしたことがないのだけれど」

「え?…そ、そう…ですか」

「姫は協力プレイをしたことがないのだけれど」


え?なんなの?またループしてるの?

いや、違うよね?これってRPGでよくある村人と会話してて、何度も同じこと言われるやつなの?

でも、話しかけてきてるの相手なんだけど!?


「姫は協力プレイをしたことがないのだけれど」


もし村人が同じことを何度も話しかけてきて、

何も行動できないのなら、それはもうバグですよ?

これはRPGじゃなくてアドベンチャーゲームなのか?

だとしたら選択肢をください。

誰でもいいので、選択肢をください。


「…姫は協力プレイをしたことがないのだけれど…?」


うん。何で同じことを言いながら首を傾げるの?

首を傾げたいのは僕の方なんですけれどもっ!?


「…何か言うことはないのかしら?」

「え?…いや…そ、そうなんですね」

「そう」


白雪姫花は首を傾げながら考えているようだ。

ごめんなさい。僕には選択肢が見えないんです。

相槌をうつことしかできないんです。

協力プレイをしたことがないことは、

もう本当にわかりましたので…


「…姫は協力プレイを」

「したことが…な、ないんですよね?」

「そう」

「あ、あの…協力プレイを…し、したことがない…ことは…その…わ、わかったんですけど…」

「そう。なら、何か言うことはないのかしら?」

「え?…い、言うこと…ですか?」

「そう。何か言うことはないのかしら?」


ごめんなさい。何もありません。


「と、特には…」

「そう」

「おう!リク!日誌書き終わったか〜!って、白雪さんじゃん!」

「う、うん。今日は一緒に日直だったから…日誌書いてくれてるんだけど…」

「へー!白雪さんっていいやつなのな!俺は一之瀬泰雅!トラって呼んでよ」

「クラスの人の名前ぐらい覚えているわ」

「え?そ、そっか!」

「あまり気安く話しかけないでくれるかしら?」

「え?ご、ごめんな」

「別に…いいのだけれど…」


そう言って白雪姫花は自分の席に戻って行った。


「リク…俺、なんか怒らせるようなこと言ったかな?」

「いや…言ってないと思うけどね」

「白雪さんっていつもあんな感じだろ?別にトラがどうこうって話じゃないと俺は思うけどね」

「そっか〜…いいやつっぽいから仲良くしたかったけどな〜」

「そ、そっか」


僕は白雪姫花が何を考えていたのか、

何を思っていたのか…全くわからなかった。


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