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あれからちょくちょく篠宮里沙から、
メッセージが届く。
村の状態がわかるゲーム画面の写真や、
わからないことについての話など。
それについて答えることは、
僕にできる範囲でしていたけど…
最近、学校で朝の挨拶をしてくるようになった。
「霧山くん!おはよう!」
「お…お、おは…おはよう…ございます」
メッセージはまだいい。
ゲームについての話だから。
でも、朝の挨拶はやめてほしい。
トラは笑顔で元気に挨拶しているけど、
タカは無言を貫いている。
僕は篠宮里沙にとってゲームの攻略本だ。
友達ではない。
だから、朝の挨拶なんていらないのだけど…
それを本人に伝えることなんか出来るわけもなく、
憂鬱な朝を過ごしていた。
「やっはろ〜。やぁやぁ!今日もいい天気ですなぁ〜」
「よっ!ユイユイ!」
「今からお弁当タイムかい?もしよければユイユイ達も仲間に入れてくれないかな〜?」
「いいぜ!な?いいだろ?」
僕とタカは何も言わない。
断る理由なんて思いつかないからだ。
「私も一緒でいいのかな?」
「もちろん!篠宮さんも一緒に食べようぜ!」
篠宮里沙と朝日奈結衣が一緒に食べることになった。
今日は朝だけではなく昼まで憂鬱になるとは…
「みんな美味しそうな弁当だねぇ〜」
「リクの弁当の唐揚げがめっちゃ美味いんよ!」
「そうなの!?ど、どうか〜ユイユイにおひとつお恵みを〜」
朝日奈結衣はまるで神に祈るかのように、
お願いをしてきた。
僕はため息をついてからどうぞと返した。
「ありがと〜!それじゃあ、ユイユイ特製の卵焼きをあげようではないか〜」
「え?…あ、ど、どうも」
「え〜!そこは、はは〜って言うとこじゃん!」
「そ、そうなん…ですか?」
「もう!霧山くんって冗談通じないよね〜?でも、本当にいいの〜?」
「あ、は…はい」
「ありがと〜。じゃあ、お返しに卵焼きあげるね」
「あ、ありがとう…ございます」
朝日奈結衣は僕の弁当から唐揚げを取ると、
かわりに卵焼きを入れてくれた。
「永森くんもユイユイとおかず交換するかな〜?」
タカは何も言わず静かに首を横に振った。
「そっか〜。残念」
「ねぇ、一之瀬くん」
「篠宮さん、俺のことはトラって呼んでよ!それで、どうしたん?」
「わかった。じゃあ、トラくん。いつも霧山くんと永森くんとどんな話をしてるの?」
「おっ!リサリサ!いい質問だね!ユイユイも気になるな〜。さぁ!答えたまえ!どんな話をしてるんだいっ!」
「ん〜?普通にゲームとかアニメとか?色んな話すっけど」
「そうなんだ。最近はどんなゲームをしてるの?」
「最近はバケタイって言ってさ。化け物退治だー!☆ってゲームの話をしてるけど…篠宮さん興味あんの?」
「う、うん。少しだけ…」
少しだけ?何を言ってるんですか?
あなたは発売日に並んで買ってましたよね?
なんなら僕より先に並んでましたよね?
攻略本を前によく少しだけなんて言えたもんだ。
「そうなんだ!バケタイってムズイけどさ!めっちゃ面白いんよ!色んな武器を使ってさ!こう化け物を退治していくんだけど…ちゃんと村も育てなきゃ化け物も倒せんくてさ!」
「そ、そうなんだね」
「へー、ユイユイもちょっと興味あるかも!」
「武器ごとにレベルがあってさ!俺は両手剣を使ってんだけど、今はレベル15になったとこかな?タカはレベル何になったん?」
「19…」
篠宮里沙と朝日奈結衣がいるから、
トラへの返事も単語になってるな。
「タカ!もう19まで上がったのかよ!買った日一緒だったろ?」
「トラが遅いんじゃないか?」
「うわぁ!永森くんが話してるとこ!ユイユイ初めて見たよ!」
タカはまた黙ってしまった。
「あー、タカは銃を使っててさ!もうレベル19までいってるみたいだな!リクは?」
「僕は…16…かな?」
「あれ?結構、双剣のレベル上がってね?もしかして無手の経験値貯めてないんじゃねーの?」
「ふ、2人の…足を引っ張るわけにはいかないからね」
「んだよ!俺もタカもさ!リクのプレイヤースキルなら足を引っ張るなんて思わねぇって!双剣レベルなんて俺らと一緒にする時に上げりゃいいんだからよ!ちゃんと無手レベル上げろよ」
「で、でもさ…」
「トラの言う通りだよ。リクが無手で無双するところを俺だって見たいからな…俺たちのことを気にして、無手レベルを上げないのはなしな」
「うん。ありがとう」
「3人とも仲良しさんなんだねぇ〜!」
普通に女子2人のことを忘れていた。
タカも同じだったらしく、また静かになった。
「とりあえず?そんな感じで面白いゲームなんだよ!もしよかったらさ!篠宮さんもユイユイも一緒にしない?わかんないとこあったらさ!俺らが教えるからさ!」
トラ…僕はもう篠宮里沙の攻略本だよ。
「どうしようかね〜。ユイユイはちょ〜っとお財布と相談が必要かな〜」
「わ、私も考えとくね!」
考えなくても持ってます。
「この唐揚げ!ホントに美味しい!」
「だろっ?リクの母さんの手作り唐揚げはピカイチ美味いんよ!」
まるで自分のことのように自慢してるな…
でも、それが僕は嫌じゃなかった。
むしろ嬉しいとすら思った。
なんか、母さんが褒められている気がするから。
「霧山くんのお母さんって料理上手なんだね!」
「そ、そう…なん…ですかね?」
「うん!すごい美味しいよ!ユイユイビックリしちゃった!」
「あ、ありがとう…ございます」
「ユイユイの卵焼きはどうかな?ん?ん?」
まるで早く食べろと急かされているようだ。
僕は卵焼きを食べた。
あっ、普通に美味しい。
甘めに作ってある卵焼きだ。
「お、おい…しい…です」
「よかった〜。お口に合ったようでなによりです!」
「う、うん。ありがとう…ございます」
「霧山くん!何だね!その敬語は!ユイユイに敬語なんていらないのです!そう!敬語なんていらないのです!大事なことだから、2回言っちゃった☆」
テヘペロ
朝日奈結衣はまるでテヘペロとでも
言いそうな感じだった。
テヘペロじゃないんだよっ!とツッコミを入れそうになってしまったが、それは僕は心の中だけの話だ。




