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どうしてなんだろう?
考えてもきっと私にはわからない。
「あれ!?リクが白雪さんのこと下の名前で呼んでんじゃん!」
「ほんとなのです!りっくんはヒメヒメとの仲良しさんレベルが上がったんだね!」
ある日突然、霧山くんはヒメを下の名前で呼ぶようになった。
「…リク、何があったんだ?」
「まぁ、色々とあったんだ」
「…そうか…無理だけはするなよ」
「タカ、ありがとね」
なんで?私のことは呼んでくれないのに…
どうしてヒメのことは下の名前で呼んでいるの?
ヒメだけじゃない…ユイもそうだ…
どうして?なんで?私のことは呼んでくれないの?
そんなことが頭の中をグルグルと巡っていた。
ユイだけじゃなくヒメにも嫉妬してしまい、
より霧山くんと距離ができてしまっていたが、
今日は霧山くんと日直を一緒にする日だ。
「霧山くん…今日は日直よろしくね!」
「今日は篠宮さんと日直でしたね…僕が1人で日直はしますので大丈夫ですよ」
篠宮さんと呼ばれることにチクリと胸が痛む。
「どうして?私たち友達なんだからさ!一緒にしようよ!」
「そう…ですね…。ですが、僕は1人でさせていただいた方が助かるのですが…」
「そ、そんなこと言わないでよ…」
「そう言われましても…」
「霧山くん…お願い…一緒にさせて…」
「…わかりました」
霧山くんは少し困った表情をしていたけど、
一緒に日直をしてくれると言ってくれた。
授業が終わり、日誌も書き終わった。
今日一日、一緒に日直が出来たと言うのに、
特に何も話すことはなく、いつもと変わらない。
「日誌は書き終わりましたので…高橋先生に提出してきますね。篠宮さんは先に帰られてよろしいですよ」
「私も日直だから…最後まで一緒にするよ」
「そうですか…」
霧山くんと職員室に向かっていると、
前からユイが歩いてきた。
「おっ!りっくん!日直終わったんだね!リサリサもお疲れ様!」
「あ、ありがとう」
ユイはいつものように明るい笑顔で話しかけてくれる。
「結衣さんは今から帰るところですか?」
「そうなのだよ!でも、教室に忘れ物しちゃってね」
「そうだったんですね」
「うん!でも、なんかこうやって3人で話すのも久しぶりな気がするのです!ユイユイは嬉しいのです!」
「そ、そうだね…でも、ごめん。職員室に行かなきゃ」
「え?あ、そ、そうだよね!りっくんもリサリサも引き止めちゃってごめんね!じゃあ、また明日なのです!」
ユイは悲しそうな顔をして教室へと歩いていった。
「篠宮さん…何か用事でもあったのですか?お急ぎなら、僕が提出してきますので先に帰られてもよろしいですよ?」
「ううん。大丈夫だから、職員室に行こうよ」
「…そうですか」
そう言った霧山くんは職員室につくまで何も話さなかった。
「おー!霧山に篠宮!ちゃんと2人で日直したんだな!霧山も成長してんじゃねぇか!先生嬉しいぞ!」
「高橋先生…僕は今も変わらず1人でしたいと思っていますので、日直の制度変更については諦めていませんからね」
「制度変更って!もうちょっと言い方があんだろ?でも、まぁ最近はそれなりに友達もできてるようで安心はしてんだよ。霧山ってアレじゃん?どっちかって言うと隠キャじゃん?」
「高橋先生…生徒に直接、隠キャと伝えるのは教師としてどうかと思うのですが…まぁ、否定はしませんが」
「いやいや、もう霧山にはオブラートに包まなくてもいいんじゃないかって思ってんだよな〜。だって、そっちの方が早いじゃん?霧山も先生にズバズバ言ってくんじゃん?」
「それは…高橋先生ですからね」
「ほら、それな?そういうとこな?先生だって人間なんだよ?傷つく時もあるんだよ?」
「まさか!高橋先生に限って、僕のような隠キャの些細な言葉に傷つくようなことがあるなんて…信じられませんよ!」
「うん、それな?そういう感じで先生をイジってくるとこな?まぁ、冗談はそれぐらいにして…霧山のこと安心してるってのはマジな話だからな?」
「…ありがとうございます」
「まぁ、これからも学生らしく学生生活を楽しむこったな!篠宮もそうだぞ〜!ちゃんと楽しめよ?」
「は、はい。ありがとうございます」
霧山くんって高橋先生とはこんなにもイキイキと楽しそうに話をするんだなぁって驚いてしまった。
「それでは、失礼します」
「あー、霧山だけちょっといいか?」
「…わかりました」
「篠宮は帰っていいぞ〜。気をつけて帰れよ〜」
「わ、わかりました!失礼します!」
霧山くんは高橋先生の話を聞きはじめたようだ。
私は職員室を出てから、少しだけ見つめて、教室へと戻った。




