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ガンッ!と大きな音と共に、僕の頭に強い衝撃が走った。
朦朧としながら後ろを振り返ると、
屈強な身体をしているスーツ姿の男が僕の頭を殴ったようだ。
「お、お父様っ!」
お父様って…白雪姫花の父親?
何で殴られたんだろう?
「取り押さえたまえ」
「はっ!」
スーツ姿の男は別の男の指示で僕を取り押さえる。
頭がガンガンするし、抵抗するつもりもないので、
なされるがまま取り押さえられた。
「全く…娘にストーカーがいるなんてな…私の娘を狙ったこと…後悔させてやる」
「お父様っ!違うんです!彼は!」
「彼っ!か、彼と呼んだか!…貴様〜!娘の…姫花の彼氏だとっ!!生きて帰れると思うなっ!」
「お父様!違うのです!話を聞いてください!」
白雪姫花の父親は指示を出した男性のほうだったようだ。
親子で言い合いをしているようだが…とりあえず、スーツ姿の彼をなんとかしてくれないだろうか?
「あなたっ!何てことをしているんですかっ!橋本!彼の手当てを!」
「はっ!」
今度は家の中から女性と執事のような男性が現れ、
僕はあれやこれやと大きな家の中へと連れ込まれた。
執事のような年配の男性に手当てをされる。
「剣士様が大変申し訳ございませんでした…霧山様でございますね?お嬢様からお話は聞いておりました」
「…そうですか」
白雪剣士。
それが白雪姫花の父親の名前のようだ。
そして、彼の名前は橋本。
執事をしているらしい…
白雪姫花の父親をとめた女性が母親で、
白雪響花。
スーツの男性はSPの方だったようだ…
名前は教えてくれなかった。
「剣士様はお嬢様を大切に育てられておりまして…少々、度が過ぎてしまうことが多々あるのでございます。霧山様にはご迷惑をおかけしてしまったこと…私、橋本が代わりに謝罪させていただきます。大変、申し訳ございませんでした」
「…いえ、僕は大丈夫ですので」
大丈夫ではあるのだが…
僕は呪いにでもかかっているのだろうか?
篠宮里沙の時もそうだったが…
友達の女子を無事に家に送り届けたら、必ず殴られるという呪いにかかっているんじゃないかと、本気で考えてしまっていた。
「霧山様…お身体は大丈夫でございますか?」
「はい。大丈夫です」
殴られたと言っても、父さんに殴られる痛みに比べてしまったら可愛いものだ。プロのSPの方には申し訳ないが…
「橋本さん、僕はもう大丈夫ですので帰ってもよろしいでしょうか?」
「でしたら、お嬢様に一声かけてくださいますか?同級生の方がお家にいらしたことなど一度もなく…霧山様に来ていただいて喜んでおられると思いますもので…」
「そうですか…」
「はい。でしたら、こちらになります」
そう言われ、橋本さんの後に続いて歩く。
あー、本当に大きい家だなぁ…
何人住むことができるんだろう?
なんてどうでもいいことを考えながら歩いていると、
白雪姫花の声が聞こえてきた。
「お父様!なんてことをしたんですかっ!?」
「わ、私はだな!姫花の為を思って…」
「お父様なんてキライですっ!リクくんに何かあったらお父様でも許しませんからねっ!」
「ひ、姫花っ!?」
まだ続いてたんだなぁ…
「失礼します。霧山様がお帰りになりますので、お連れいたしました」
「あ…すいません…。帰ります」
「リクくん!お怪我はなかったのかしら!?大丈夫だったかしら?」
「えぇ…まぁ…」
「それならよかった…本当によかった…」
白雪姫花は安心した表情でそう呟いた。
その背後には鬼のような表情の剣士様がいらっしゃいますが…
「あなた…そんな顔をしてはいけませんよ?姫花のお友達になんてことをしたと思ってるんですか…まったく…」
「だ、だがなっ!」
「霧山くんよね?いつも姫花と仲良くしてくれてありがとうね。もしよかったら一緒に夕食を食べていかないかしら?姫花も喜ぶと思うんだけど…」
「姫は…一緒に食べたいかしら…」
「き、きききき!貴様っ!」
「あなた…?」
「うぬぬぬぬ!き、きき霧山っ!お前に出す食事などないからな!」
「…そうですか。でしたら、帰らせていただきますね」
「そうだ!帰れ帰れ!」
「お父様っ!」
白雪姫花の一言で剣士様はシュンとしてしまった。
僕としては帰りたいのだが…
そう思っていると、白雪姫花はそうだ!と言った。
「お父様!お母様!リクくんと仲良くなってください!とても優しくて姫を守ってくれる王子様のような方なんですよ!」
「お、おおおおお王子様だとぉ〜!?」
「あら?そうなのね!それは私も仲良くしたいかしら?姫花の王子様なんだものね!」
「じいやも仲良くしてくれるわよね?」
「もちろんでございますとも」
「姫花みたいにリクくんって呼んでもかまわないかしら?」
「え?…は、はい…かまいませんが…」
「ありがとう。私のことはおかあさんでも響花さんでも好きに呼んでくれてかまわないかしら?」
「そ、そうですか…」
「橋本のことは橋本とお呼びくださいませ」
「あなたは何て呼んでもらうのかしら?おとうさん?おとうさま?それとも…」
「な、何故私が仲良くしなくてはならないのだっ!」
「あなた…姫花のお願いなんですよ?」
「お父様…?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!剣士様だ!剣士様と呼べっ!」
「ありがとうお父様!ねぇ、リクくん…姫のことは何て呼んでくれるのかしら?」
どういうことだろう?
そう考えた時に白雪姫花が考えていたことがわかった。
そういうことか…
「あの…白雪さん?」
「それじゃ、姫のことなのかわからないかしら?ちゃんと姫花と呼んで欲しいのだけど…」
僕はため息をついてから、こう答えた。
「わかりました。姫花さん…ですが、夕食はお断りさせていただきます。家で母が待っていますので、もう帰らせていただいてもよろしいですか?」
「そうね…リクくんのお母様が心配されているでしょうから…家まで送ってくれて、ありがとう。そして、怪我をさせてしまって…ごめんなさい」
「そのことはもう大丈夫ですので…」
僕が帰ろうとしたら響花さんが橋本さんに声をかけた。
「橋本!リクくんを送って差し上げて!」
「いえ、大丈夫なのですが…」
「姫花を送ってくれたのにそのまま帰すわけにはいかないわよ!お土産もご家族に渡してちょうだいね♪」
「え?あっ、はい…ありがとうございます…」
「では、霧山様…こちらへどうぞ」
「あっ、すいません…ありがとうございます」
そして、僕はあれやこれやとお土産を待たされ、
橋本さんに車で家まで送ってもらうこととなった。




