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「よっ!リク!おはようさん!」

「おはよう」


教室に入るとトラはいつも通り挨拶してくれたが、

タカは机に突っ伏していた。


「タカ…元気ないの?」

「なんかよ、日直みたいなんよね!」

「なるほどね」

「はぁ…」

「相手は?誰だったの?」

「朝日奈さんだった…」

「はぁ?なんか朝日奈さんのことが嫌みたいな言い方じゃん!」

「女子が苦手なんだ…察してくれよ…俺は関わりたくないんだよ…」

「そんなん言ってもよ!学校のルールなんだから仕方ねーだろ?」

「リクの時みたいに…1人でしてくれって頼まれた方が楽なんだよ…」

「いやいや!日直は1人ですんの大変だろ?」

「やっはろ〜!やぁやぁ!今日もいい天気ですなぁ!」


朝日奈結衣(あさひなゆい)が話しかけてきた。


「おっ!朝日奈さんじゃん!」

「朝日奈さんなんて…一之瀬くん!遠いよ!地球の裏側に呼びかけるように遠いよ〜!距離感じちゃうじゃん!ユイユイって呼んでよ〜」

「えっ?マジで?ユイユイって呼んでいいん?」

「もちろん!一之瀬くんはもうユイユイの友達だろ?」


朝日奈さんは親指を突き出してグッドポーズを作りながら、それを顔の近くに置き、フフンと勝ち誇った表情でトラに友達だろ?と言っている。


「マジか!じゃあ、一之瀬くんじゃ俺とも距離感あんじゃん!俺のことはトラって呼んでよ!」

「わかったよ!トラくん!」


意味のわからない謎の友情を育まないでくれ…


「ねぇ、霧山くん。霧山くんの下の名前って難しい漢字だよね〜。ユイユイさぁ〜、頭が悪くてねぇ〜何て名前なのか、わからなかったのだよ!霧山くんのお名前を教えてくれますかな?」


そう言って、いきなりお願いポーズをされてしまった。

ごめん。トラと謎の友情を育まないでくれって思ってしまって、本当にごめんなさい。

だから、僕に話題を振らないで…


「リクだよ!リク!まぁ、リクの漢字ってムズイもんな〜。ユイユイがわからなくても仕方ないっしょ!」

「へ〜!霧山くんの名前はリクくんって言うんだね!」

「そうそう!ユイユイさ、リクとも仲良くしてやってよ」


トラ?なんてことを言うんだい?


「トラくん!ユイユイは霧山くんとも友達になろうと思います!」

「おうよ!頼むな!」

「はーい!永森くんも今日は日直よろしくね〜」


朝日奈結衣は手をひらひらさせて、

自分の席へと戻っていった。


「トラ…お前は何てことをしてくれたんだ!俺とリクの平穏な日常を壊すつもりかっ!?」

「えー、タカ!何を怒ってんだよ?」

「はぁ…今日は最悪な1日になりそうだな…」

「タカ。無理しないでね」

「リク…ありがうな」

「おいおい!俺が悪いみたいじゃん!」


教室の扉が開き、高橋先生が入ってきた。


「あー、HRはじめっぞ〜」


昼休みになり、3人で弁当を食べていると、

朝日奈結衣が近づいてきた。


「あれれ〜?いつも3人で食べてるのかな?」

「おっ!ユイユイじゃん!そうだぜ!俺ら、仲良しだかんな!」

「仲良しさんなのはいいことだねぇ〜。ユイユイも混ぜてくれないかな?かなかな?」


タカは無言で朝日奈結衣にわからないように、

首を横に振っている。

トラ!気付いてあげて!タカの気持ちに!


「おっ!いいぜ!いいよな?」


トラは本当に明るい表情で僕とタカを見る。

うん。わかってた。

トラがそういう些細なことは気にしないって、

僕たちはわかってた。

タカは終わった…とでも、

言ってしまいそうな顔をしている。

わかった。僕がなんとかしてみるよ…


「あ、そ、その…あ、朝日奈さんは…いつも一緒に…た、食べているお友達が…い、いらっしゃるのでは…な、ないですか?」


タカが期待を込めた目で、

僕の顔を見つめている。

どうだ!いつも一緒に食べている友人を、

放っておいてまで僕たちと食べるんですか?


「あ〜、リサリサは部活のミーティングをしながら食べるみたいでね〜。今日はどうしようかなと考えていたところだったのだよ!」


ごめん、タカ。僕には無理だった。

この状況で1人で食べてくださいなんて…

僕には言うことが出来ない。

タカも僕の頑張りを讃えてくれる表情をして、

頷いてくれている。

タカと目と目で語り合った。


「ユイユイが一緒じゃ、気まずいかな…?」

「んなことねーよ!な?そうだろ?」

「そ…そうですね…」

「よかった〜。ユイユイがいるせいで、霧山くんも永森くんも嫌な気持ちになるなら、申し訳ないって思っちゃったからさ〜!」

「大丈夫だっての!てかさ、ユイユイとタカは今日日直だろ?日誌とかどうしてんの?」

「ユイユイがちゃ〜んと書きますよ〜!永森くんも手伝ってね!」


タカは何も言わずに弁当を食べている。


「おい、タカ!ユイユイをシカトしてんじゃねぇよ!」

「ねぇ、トラくんトラくん。永森くんってタカって呼ばれてるのかな?」


タカは教えないでくれと言わんばかりの顔をしながら、僕たちにしか気付かない程度で首を横に振っている。


「そうなんだよ!タカヤだからタカな!」


僕たちにしか気付かないではなく、

僕しか気付かなかったようだが…


「そうなんだ〜!じゃあ、ユイユイもタカくんって呼んでもいいのかな?かなかな?」

「おう!いいんじゃねぇの?」

「霧山くんはどう思うかね?」

「そ、それは…ど、どうでしょうか…永森くんは…女子と話すことが…その…苦手ですので…朝日奈さんのように…は、ハイスピードで…きょ、距離感を詰められるのは…その…ちょっと…」

「そうなん?俺は全然、いいと思ったんだけど」

「そっかそっか!霧山くん!教えてくれて、ありがとうね!ユイユイってさ〜…ほら!みんな仲良しさんなら嬉しいなぁって思ってるんだけど…考え方は人それぞれだもんね!」

「そ、そう…ですね…」

「永森くん。ごめんね。いきなり距離感を詰めるようなこと言っちゃってさ〜」


タカは静かに首を横に振った。


「許してくれるのかな?ありがとうね」


タカはノートを取り出し、

許しますので、日直は1人でさせてください

と書いて、朝日奈結衣に見せた。


「それはダメだよ!ダメダメ!日直はユイユイと永森くんがしなきゃいけないんだから!」


それを聞いてタカは少し落ち込んでいた。

弁当も食べ終わり、朝日奈結衣は日誌を書きはじめた。

タカはおろおろと朝日奈結衣を見ている。


タカは女子とは基本的に話さない。

苦手だからってのもあるとは思うけど…

基本的に話そうとはしないのだ。

きっと、1人でしたいのに日誌を書かれているのを止めることも出来ず、どうすればいいのか悩んでるんだろうな。

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