ネカフェのカップルシートで、声も簡単に漏れちゃうような環境で、ラブコメ(?)したらダメですか?
ラブコメ……? ラブ……
中間テストが終わった放課後。時刻は1時過ぎ。
早く終わったので何をしようかと考えながら校門を出ようとした時、誰かが俺の腕に絡んできた。
「もーう! 悠生くん!」
肩のところできれいに切り揃えられたこげ茶色の髪を靡かせ、俺のところに来たのは彼女の陽色天花。
頬を膨らませ、何やら怒ってる……のか?
「よぉ、天花」
「よぉ、じゃない! 可愛い彼女を置いてきぼりにするなんて酷いよーっ!」
「あー悪い悪い。でも友達と話してただろ? だからてっきりそっちと帰ると思って」
「そんな訳ないよ! だって今日は悠生くんとたくさん過ごせる日。あたし、ずっとイチャイチャしたい気持ちを抑えて猛勉強したんだからっ」
むにゅん
柔らかな胸の感触がさらに伝わる。
……いつまで経っても慣れない。
彼女と付き合い始めて約半年。
順調に仲は深まっているとはいえ、こういったスキンシップには若干の照れがある。
「なーに、あたしのおっぱいが気になるのー?」
ガン見していたことがバレていた。
「ま、まぁ……健全な男の子だからな……」
「健全、ねぇ……。相変わらず悠生くんはおっぱい好き なんだから~。うりうりー」
上機嫌そうに肘でつつかれる。
おっぱい好きだよ。男だったら誰でも好きだろ。
「ごほんっ。とりあえず良くテスト勉強を頑張った。偉い、褒美をやろう」
と、頭を撫でる。
「えへへ〜。もーと褒めていいよ〜」
そんなやり取りをしている俺たちに、二人の女子生徒が近づいてきた。
先ほど天花と話していた子たちだ。
天花はコミュ力が高いので他のクラスの生徒とも仲がいい。とか言う俺もそれなりにはコミュ力があると思う。
「あ、二人共! さっきは話の途中に抜け出してごめんね~」
「あーいいよいいよ。急に走り出して何事かと思ってたけど、有森くんの方に向かってて納得した」
「そーそ。学園屈指の美男美女カップルが仲睦まじくしてるのは癒しだし~。はぁ、羨ましい~」
きゃっきゃっと盛り上がってらっしゃる。
「なぁ、天花。俺ってイケメンなの?」
「イケメンだよ。あと鈍感。……水面下ではバチバチだったんだから」
天花の顔から疲れが見える。
というか、俺って……イケメンなのか……!! 今まで言われたことがないから嬉しいぜ!
「……。….…やっぱりイケメンじゃない」
「うぇ!? イケメンじゃないの!? ……だよな、俺告られたこととかないし……」
イケメンってそもそもなんなの? 顔? 性格? 全部? 考えたらキリがないなぁ……。
「ふふ、天花ちゃんの独占欲すごーい」
「まぁ、こんなにいい彼氏ならねぇ」
「はいはい。あたしはどうせ独占欲の擬人化ですよーだっ。悠生くん、行くよ」
「お、とと! 急にどうした天花! いてて、引っ張るなよー!」
微笑ましそうに見守る二人を後に、学校から出た。
◆
「この後はどうする? どっかで昼飯でも食うか」
「それなら駅前のファミレスに行きたい! 今ならカップル限定でパフェが半額なんだって。テストが終わるまで我慢してたんだよ〜」
よほど楽しみにしていたようで、テンション高め。
「じゃあファミレスでテストお疲れ様会でもするか」
「さんせーっ! 今日はとことん食い尽くす!」
ファミレスかー、何食べよう。ドリア、ハンバーグ、唐揚げ……
ポツッ
「ん?」
肌に何か当たった。触ってみると水だ。
徐々に水滴が落ちる速さが変わり、降り出してきた。
「わぁー! やばいやばい!」
手で頭を防御する天花。だが、それだとほぼ意味がない。
俺はプチプチっとシャツのボタンを外し、脱ぐ。
「ふぇ!? 悠生くんどうしてシャツを脱いで——」
シャツの下は黒のTシャツなので脱いでも問題はない。
「おらよ」
天花の頭にシャツを被せる。
「わぷっ。ちょ、これなにー?」
「傘代わり。ちょっと休憩できるところまで行くから走れるか?」
「あ、うん……。って、休憩できる場所ってまさか….…」
「?」
やけに顔を赤らめてる天花の手を引き、目的の建物まで駆け足で移動した。
◆
「……どーせこんなことだろうと思っていたけどさぁ」
「なんでそんな不貞腐れてんの?」
「……なんでもない」
俺が雨宿りに選んだのはネットカフェ。
ネカフェは意外と悪くない。
ソフトドリンクとソフトクリームが食べ飲み放題。漫画も読み放題。さらにこの店は追加料金を払えばカラオケなどもできる。
二人並びになれるカップシートのブースでとりあえず雨が止むことを見越して1時間にした。
「ネカフェは嫌か?」
「悠生くんといれるならどこでもいいけど……。てっきり、あたしはラブホに連れらると思った……」
「ラブホなんて行くわけないだろ。仮に入れたとしても、制服で学校名ばれて生徒指導の先生からのお叱り怖いし」
特にあのスキンヘッド、怖いんだよなぁ……。あだ名は温泉卵だけど。
Tシャツが汗ばんだ肌にベタベタ張り付いて気持ち悪い。本降りになる前に急いで移動きたからまだマシか。
水が滴っている前髪をかき上げる。
「悠生くんすごい濡れてる。髪の水滴が落ちそう」
「ちょっと拭けばあとは自然乾燥で乾くだろう」
タオル、タオルと……あれ? ない。鞄を漁るも、入っていない。
「タオルないんでしょ。はい、じっとしてて」
天花は鞄から取り出した自分のタオル片手に距離を縮め、
「ん、どんどん垂れてくる」
優しく拭いてくれる彼女のタオルからは、自分のとは違う柔軟剤の匂い。香水とはまた違ったいい香りがする。
「これで、よし」
「ありがとう」
「いえいえ~。雨が止んだら速攻家でお風呂だね」
「だな」
「風邪引かないでね」
「多分、大丈夫だろ」
「まぁその時はあたしが看病してあげるけど」
ほう、なら風邪引いてもいいかもしれないな。
「よいしょっ」
濡れた黒シャツを脱ぐ。
予備のシャツはたまたまた鞄に入れっぱなしであった。
昨日の俺、感謝するぞ。あと、タオルも入ってたら満点だった。
「っ……」
「ん? どした 顔赤いぞ?」
「あっ、い、いや……なんでもない……」
口ではそう言うも、手をもじもじ合わせ落ち着きがない。
「ははーん。もしかして彼氏の裸姿に照れてんのか?」
「べ、別に照れてないもんっ! ゆ、悠生くんの裸はあたしが一番見てるもんっ!」
「ちょ、おい天花。しーっ。ここネカフェだから声小さくな?」
「あ、うん……ごめん……」
濡れた身体をある程度拭いた俺たちはそれぞれ移動した。
天花はカルピスとソフトクリーム。と俺の分のコーラ。俺は適当な漫画をいくつか棚から持ちだして、パソコンの前に積んだ。
「パフェは食べれなかったけど、ソフトクリーム食べれたからいいや。う〜ん! おいしーっ」
「ちょうど喉乾いてたからコーラがうまい」
これであとポテチがあったらサイコーなんだけどな。
持ってきた漫画に手を伸ばす。この漫画、途中で買うのやめたんだっけ。最近はいい作品がバンバン出て金欠なんだよなぁー。
「俺は漫画見て時間潰すけど天花はどうする?」
「あたしは寝よっかな。昨日遅くまで起きて寝不足だし。ふぁぁぁ~~……」
と、あくびをしながら俺の太ももの上に乗った天花の頭を優しく撫でる。
「じゃあ時間がきたら起こすから」
「うん、おやすみぃー」
天花も大人しくなったし、ペラ、ペラと漫画をめくっていく。
おっ、義妹キャラの登場だと!? しかもドイツとのハーフ。これは修羅場に……。
「むー」
天花の指が、ふにゅ、と俺の頬を突いた。
「天花どしたー?」
構わず読み続けていると、突く回数が増えてきた。
どうやらまた何か不満らしい。
すると、座ったままの俺に正面からまたぐように抱きついてきた。
「天花さん、漫画が読めないんですけど」
目の前にはおっぱい。すごく柔らかそう。
「どうしてこんなに可愛い彼女がいるのに、他の子でニヤニヤしてるのっ」
「……漫画のヒロインに嫉妬すんなよ」
「あたしのほうが可愛いもん」
きゅっ、と天花が俺の首に手を回し、離れなくなる。そのせいで身動きが取れなくなったため、はぁ、とため息をつき、漫画を閉じた。
「よしよし。甘えん坊さんは仕方ないなぁ〜」
可愛い奴め、と頭を撫でてやると、抱きしめる力がまた一段と強くなった。
「やぁん。突然だったからビックリしたよ~」
くすぐったそうにするも、やめてほしいくないらしい。
「悠生くんも頑張ったからご褒美あげないと〜」
天花は猫のように擦り寄り、俺の頭を愛おしそうに撫でる。
ネカフェで俺たちは一体何をやってるんだ……。
「どうしたの? あっ、ムラムラしちゃったー? んっふふー」
黙り込んでいる俺を小悪魔的な笑みで眺める天花。
よく考えたらこの状況って結構……。
身体は密着してるし、その影響で天花からいい香りが……。
彼女とはもう既に何回か経験してるのに、胸の高鳴りが止まらない。
……賢者になれ、俺。
「……寝る」
「えー!?」
天花の顔が見えないよう、そっぽを向いて寝転ぶ。
ああ、なんか横になったら眠くなったってきた……。
「狭い空間で濡れた彼女と二人っきり。ムラムラして当然だよね……。恥ずかしくないよ、あたしも同じ気持ち、だから……」
天花は俺の耳に口を近付け囁く。
わざとらしい切なげな仕草と、浅い息が艶かしい。
「……
天花は吐息をかけながら俺にさらに追い打ちをかけてくる。
「もう、そんなにお話しするのが嫌なら、キスしちゃうもんね」
と、微かな甘さと温かさと柔らかさが唇を襲う。
「お、おい……」
「むふふ、キスしちゃった♪」
少し恥ずかしかったらしく、頬を染めながら胸に顔を埋めてくる。
誘惑してくる癖に、こうやって甘えてくるのは……ずるい。
ごくりと生唾を飲む。
服は着替えた、部屋はクーラーが効いて涼しいはずなのに汗が止まらない。
「ねぇ、もう一回していい?」
「あ、ああ……」
ちゅっとリップ音を立てて2回目のキス。音が漏れてないか心配だ。
キスするたびにもぞもぞ動き、天花の制服と俺が着ているTシャツが擦れ合う。
これはもう――我慢の限界だ。
「お家まで待てる?」
「っ……」
俺の気持ちを見透かしたような瞳。
その瞳が潤んでいるのは、雨で濡れたせいなのか、それとも他の理由があるのか。
部屋は仕切られているものの、厚さはそれほどなく、少しでも大きな声を出せば周りに聞こえてしまう。中はかろうじて見えない高さ。しかし、上から覗かれたら丸見えだ。
こんなところで大きな声や物音を立てたり…… 密室で服を脱いで抱き合っている姿を誰かに見られでもしたら……。
サァァと血の気が引き、理性が戻る。
でも……危ないと分かっている。バレたらヤバイと知っている。なのに、背徳感が湧き上がってしまうのは何故だ……。
「あたし、頑張って声、我慢するから……。だから、ね?」
天花の言うことはなんでも信用してあげたい。
でも、今の言葉は信憑ゼロ。
俺はゆっくりと首を縦に振った。
反応を見た天花はふふ、と嬉しそうに笑い……
「じゃあ時間、延長しよっか」
—完—
ラブラブラブでしたね、羨ましい( ´ ᾥ` )ウム
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