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どう見ても、冤罪です!

感想、ブクマや評価等ありがとうございます




 辺境伯の城は、街から離れた丘の上にある。上から見ると街を一望でき、街の象徴としても有名だ。



 ロ型の二階建ての城は黒く、無骨である。角は丸い砦の造りになっていて、贅を見せびらかすよりは、実用的な城塞だ。



 そんな城の手前側に、騎士の詰所が建っている。離宮と言っても過言でないほど大きく、隣には訓練所が設けられていた。










 詰所の一室に、セラは後ろで腕を一本に拘束されたまま尋問を受けている。いや、尋問というには空気がとても緩んでいた。



「黒い髪も紫の瞳も珍しく、すぐにあなたを容疑者として捕らえたけど、色々と怪しいよね」



 私の前に座って、頬杖をついているのは、騎士団長だ。



 最初、彼が騎士団長と聞いて、意外だと感じた。ふわふわとした金髪に、眦の下がった茶色の目には親しみを感じる。



 だが、それ以上に彼から漂う軽薄な口調と雰囲気が、勝手に想像していた騎士団長から外れていた。



 ただの盗人(冤罪だが)の尋問に、騎士団長が来ているのは異例とのこと。なんでも、今回の事件が他の事件と絡んでいる可能性があるらしい。



「髪飾りを盗まれた。と通報をしてくれた雑貨屋の店主に、確認を取ろうとしたけれど、連絡がつかないんだよね。魔術通信ではなくて、詰所にまで来てもらえばよかったよ」



 困った顔でそう口にする騎士団長に、どうして捕まったかを知る。



 魔術通信だと、電話のように相手の声しか聞こえない。よって、どんな人相かさえ分からなくなってしまう。



 通信を取る分には便利だが、どうやら魔術通信には穴があるらしい。



 この辺境伯領に来て、髪飾りを買ったのは、今日が初めてだ。だとすると、盗まれた髪飾りは今日買ったピンクの花の髪飾りとなる。



 セラには、髪飾りの代金を払った記憶がしっかりあった。



 どう考えても、店主の言いがかりだ。



「団長! 詰所の前に男が来ています。なんでも、セラを返せとか言っていまして」



 慌てた様子で1人の騎士が入って来た。困惑を隠しきれず、首を傾げている。



「セラ……?」



 騎士団長も首を傾げ、頭の中の記憶をひっくり返しているのか、険しげな表情である。



「もしかして、君の名前?」



 何度も首を縦に振る。


 

 その様子をつぶさに見ていた騎士団長の視線が、どんどん鋭くなっていく。



「その男を通せ」



 先ほどまでの軽い口調はなんだったのだろうか。と思わせるほど、低い声で告げた。









「……いた。どこに行ったのかと、思いましたよ」



 騎士に連れらやって来たヴァルは、ホッとした顔になる。



「勝手に、1人でどこかに行ってはいけませんよ。次は、勝手にどこかに行かないでくださいね」



 諭すように言葉を続けるたびに、セラはどんどん半目になっていく。



 勝手にどこかに行ったわけではない。連行されたのだ。それに、ヴァルが茶葉屋に夢中になってえいなければ、離れ離れになりはしなかっただろう。



「どうぞ、こちらに座って」



 セラの隣に椅子がもう1席増えていて、苦笑を浮かべた騎士団長に促され、ヴァルは座る。



 チラリと、隣のヴァルを目だけ動かして見てみると、ゾッとするほど冷たい顔をしていた。



「どうして、セラがこんなところにいるんです?」

「……盗人の容疑がかかっていてね。ただ、僕は冤罪だと思うんだけどね」



 騎士団長が、大袈裟に溜息を吐く。


 

「そうですか。では、冤罪なら、帰ってもいいですよね」

「いやいや、ちょっと待って。解決していないから、帰られると困る」



 引き止めようと慌てているが、ヴァルはセラの腕を取ると立ち上がって、帰ろうとドアに向かう。帰れるなら早く帰りたいが、このまま帰ってしまうのは、流石にまずい。



「ヴァル待っ……」

「お、いたいた」



 セラの言葉に被せるように入って来たのは、アンバーの髪の瞳を持つ男だ。



 どこか眠たげな目をしていて、口元には髭がぼうぼうに生えっぱなしである。髪も髭も整えない姿は、浮浪者にも見えた。服の上からでも分かる筋肉質な体は、いかにも戦闘職をしている体つきだ。



「ジン様!」



 驚きに声を裏返らせながら、騎士団長は立ち上がると一礼する。



「まぁまぁ、座って座って」



 朗らかに笑う男に対し、騎士団長は恐る恐る椅子に座った。



 ジンという名前で、茶髪に茶色い目。不審者じみた格好だが、騎士団長がまず礼をする男。セラの記憶には、ある1人の人が当てはまる。



 ジン・クレバー。ここ、クジュ地方の領主である、辺境伯である。



「ジン様、どうなさいました?」

「ああ、ちょっと用事があってな」



 ジンは顔をセラに向け、軽く頭を下げた。



「はじめまして、筆頭聖女様。いえ、元筆頭聖女様」



 顔を上げると、ジンはニヤリと笑う。



 どうやって、セラの情報を仕入れたのかは分からない。この男、最初からセラが筆頭聖女だと分かっていて、ここに来たということだ。




 また、自由を奪われるかもしれない。




 そう考えると、顔がみるみる青くなっていく。せっかく自由を手に入れたのに、また鳥籠に入るもかもしれないと考えると、今すぐにでも体面とかを忘れて逃げ出したくなった。

 





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