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聖女の追放

聖女追放物語を書いてみました。


 馬鹿王子のバルカ王子が起こす事件は、いつも唐突だ。



「おい、チビ」




 下卑た意地悪い声に振り向けば、ニタニタと笑うバルカ王子が立っていた。彼の腕には、大きな胸が腕を包むように、下品な女がくっ付いている。



王子は王宮の、それも外交官が立ち入る正宮に立つような出立ちではない。王や教育係に見つかったら、なんと言われるか。



 しかし、セラに王子を叱る時間はない。教会での聖女としてのお勤めが一区切りし、これから王妃教育が始まる。馬鹿王子に構っている暇は、彼女には一切ないのだ。



 軽く頭を下げ、教育係の元へ行こうとするが、バルカ王子が「待て」と止める。



「今日から、お前は王妃教育はなしだ」

「……なぜ」

「それはな」



 自分に酔っているのか、態とらしく溜息を吐くと、ニヤリと片側だけ口角を上げる。




「お前の妹、ミルアナが聖女として目覚めたのだ! もう、お前の力は必要ない」

「せ、聖女の力をですか。ほ、本当に目覚めたのですか!」

「もう、お姉様ったら、さっさと事実を認めなさいよ。私、治癒術が発現したのよ」


 


 王子と同じ、下卑た笑みを浮かべる下品な妹は、何も分かっていない。



 妹は可愛らしい見た目で、社交界の華になっているらしいが、頭の中は空っぽなのも有名な話だ。



 社交界の観賞用の華、と。



 セラは、物心ついた頃から、聖女になってしまい教会に住んでいたので、あまり妹を妹と感じないが、妹の色んな噂は耳に入ってくる。



 今日も、その噂に違わず、胸を見せびらかすような肌面積が広いドレスを着ている。それを上品に華麗に着こなせていればいいが、雰囲気や仕草のせいで娼婦にしか見えない。




 それに、セラが聖女の称号を得ているのは、何も「治癒術」が使えるからではない。



 目の前の自信満々に笑う二人は、聖女になるための条件を、何も知らないのだろう。



「お前は筆頭聖女から、ただの聖女に落とす。前々から、気に入らなかったのだ。それに近いうちに、聖女の地位も剥奪もするつもりだ。それと、お前は王都から追放だ。早く辺境か、国外にでも出ろ!」



 バルカ王子は高笑いを上げながら、王宮の壮麗な廊下を闊歩する。下品でならない、光景だ。これだから、周りの貴族から「馬鹿王子」と呼ばれてしまうのだろう。




 追放、追放か――――これはチャンスではないか? 聖女という称号を捨てるチャンスの。




 常々、聖女を辞めたいと思っていた。王妃も兼任することを考えると、このままでは過労死してしまう。



 相棒である次期王は、あの通り馬鹿で無能。セラに馬鹿の仕事までやる羽目になるのは、火を見るよりも明らかである。というか、すでにあの馬鹿の仕事を一部引き受けている。



 王子は悪知恵だけは働くようで、今は王も王妃もいない。



 よって、この国・この王宮の中で一番発言権を持つのは、残念なことにバルカ王子となる。



 なので、追放を命じられたのなら、王命にも近い強制力を持ってしまう。それを利用しない手は、ないでしょう!







 小躍りしたくなる足を抑え、静々とお淑やかに。と念じながら、早々に自室へ向かう。


 

 部屋を開け、音を立てずに閉じると、もう押さえ付けられなくなった。




「や、やったー! これで、聖女なんて足枷が消えますよ!」



 腕を振り広げ、小さくステップを踏む。そのまま、ベットにダイブした。



 枕に顔を埋め、ごろごろとベットの端から端まで転がっては、笑い声を上げる。嬉しくて、嬉しくて、笑いが止まらない。

 


「とうとう、聖女を辞めることができる!」



 もう、聖女という体面を気にしなくていいのだ。


 

 もう、聖女というものの為に自分を偽る必要がなくなったのだ。


 

 やりたいことを、好きなだけできるようになるのだ。もう、我慢の必要性がない。


 

 バルカ王子には、最初で最後の感謝する出来事になるだろう。



 セラが求めていたのは、大きな羽を広げることができるほどの、自由だ。







 一人、浮かれ喜んでいると、後ろからガコン、と音が響く。



「ど、どうしたのですか? そんなに浮かれて」



 そんなにセラが浮かれていることが珍しいのか、部屋に入ってきた男が手に持っていた荷物をポトリと落とす。綺麗な玉型の落とし物は、彼の足元からコロコロと転がり、コツンとドアに打つかった。



 男は浅霧色あさぎりいろの目を見開いて、セラを凝視する。




 サラリと、紺青色の長い髪が流れた。日に当たって、キラキラと髪が光を編む。



 造形も含め、うっとりするほど男は美しい。初めてヴァルを見たときは、あまりの美しさに目が潰れるかと思った。


 

 冷ややかな美貌は、真顔だと血の通わない人形のような恐ろしさがあるが、男の頬は淡くピンク色に色付き、ちゃんとした生き物だと証明している。



 それに、男は表情豊かだ。一緒に暮らすと、男が人形とは程遠いとすぐに知れる。彼は可愛らしく、凛々しい人だと。



「聖女。もうやらなくて、よくなったのですよ、ヴァル!」



 ヴァルと呼ばれた男は、顔をみるみる青くさせていく。病人にも、負けず劣らずの青白い顔で、唇を震わせた。



「え、私との契約をやめるのでしょうか?」


 真っ青な顔に、光の入らない暗い瞳で聞かれると、腰が引けてしまう。端的に言うと、怖い。凄く怖い。



「大丈夫ですよ、ヴァルの契約は切れません。筆頭聖女の称号がなくなるだけですよ」

「ええ、そうですよね。そうですよね。ああ、よかった。よからぬ輩が、私とセラの契約を切る気でいたのだと、考えていましたよ」

「そんなわけ、ないですよ。心配し過ぎです」

「心配して、損はありませんよ。人間は、ネッチョリとした欲を持つ、汚い生き物です。大事なセラが、そのネッチョリに囚われたと考えると……」




 想像してしまったのか、ブルリと震えた。



 彼はこういった物言いをするだけあり、人ではない。



 ヴァル――ヴァルハラルは魔神という生き物だ。セラのような聖女は、魔神を含めた魔性ましょうと契約することで、聖女や聖人を名乗ることができる。



 魔性と契約すると、契約した魔性に呼応した能力を使うことができるようになる。この世界では、どの国でも魔性と契約し、国の利としてきた。



 数多いる魔性の契約者の中でも、魔神との契約者は滅多に出るものではない。



 王宮で役に立たない無能と囁かれる虚無を司る魔神のヴァルでも、その契約者であるセラが王子の婚約者になるほどの影響力を持っていた。セラが筆頭聖女の称号を持っていたのは、八割以上がヴァルハラルのおかげだ。




 けれど、そんな称号はどうでもいい。早く、この王宮から出ないと。



「ヴァル。早く荷物を詰めて、ここから出ますよ」



 セラの一声に、ヴァルも意気揚々と準備をしていく。



 筆頭聖女という大層な御身分であるわりに、荷物が少なかったセラたちの準備は瞬く間に終わり、王宮中が混乱している間に、王都から脱出したのだった。

 


 

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