1.目覚めの朝
「んっ…」
日の光を感じて重い瞼をゆっくりと開いた。ちょうど場所が悪かったのか直接当たる陽の光に眩しくて目が素直に開かない。少しズレてようやく目が慣れてきた私は重い体をゆっくり起こして辺りを見渡した。
「……ここは、どこ」
まず最初に素直に口から出た言葉がそれだった。そこは普通の、いや、見るからに高価そうな椅子や机がズラリと並んでおり、そんな様々な品々の真ん中にキングサイズを遥かに超えるのではないかと思うほどの1人で使うには大きすぎるくらいのベッドに私はいた。
なぜこんなところにいるのか、
そもそもここがどこなのか、全く記憶がない。
この場所がどこなのかも分からないが問題なのはそれよりも自分自身が誰なのかを全く覚えていないことかもしれない。
覚えていることは唯一誰かが私を呼ぶ声───。
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「まって、まずこの状況は何。なんでこんなに広い部屋にいるの…」
今の状況を全く理解出来ていない私は暫く呆然としてベッドの上に座っていた。本当に何も思い出せない。ここがきっととてつもない富豪の家で、そんな家の一室に自分がいるということに関しては理解することが出来ている、が、自分自身の事について思い出そうとしてもモヤがかかったかのように記憶の扉は固く閉ざされている。
とにかく何か今の状況がわかるものがないのかと
私は部屋の中をすみから探してみることにした、部屋を順に探してベッドの下に伸ばした時、ふと手に何かがあたるのがわかる。
「紙…手紙?」
〜敬愛なるナルディリアへ〜
今日の日が変わる頃、いつもの場所で
シン
「今日の日が変わる頃、いつもの場所で… 今日の日が変わる頃、夜の12時?、というかいつもの場所ってなに」
ベッドに下に手紙があるとは考えもしなかった私は急に現れたその手がかりをじっと見て、何度も何度も読み返した。
「親愛なるナルディリア…ナルディリア、私の名前なのかしら」
そんなことを考えていると、ガチャッ、鍵を開ける音がした後メイド服を身にまとった赤髪の綺麗な女性が部屋へと入ってきた。
「?!」
そのメイドは部屋に入るなり持っていたカップをトレーごと床に落とし私の方を呆然とみつめていた。
驚いた為一瞬沈黙の後「大丈夫ですか?」と私はメイドに声をかける。
が、いまだメイドはこの状況を理解出来ていないようでしばらくしてからゆっくりと口を開いた。
「す、すみません。お嬢様、すぐに旦那様方をよんでまいります。」
メイドも私以上に驚いたのか焦ったように私に向かっていう。
メイドはすぐに部屋から去っていこうとするがそんなメイドの上着の袖を掴んで早口に発した。
「まって!すみません、あの、お嬢様って言うのは多分私のことなんですよね?その、私、今までの記憶がないというかそもそも自分自身が誰かすらわからないん、です。」
「……」
またしてもメイドは驚いた顔をしたままフリーズしてしまった。
またしばらくの沈黙が続いた後、メイドは軽く深呼吸をして私に向いた。
「すみません、確かにそのような事もあるかもしれませんね、何にせよお嬢様は半年間ずっと眠ったままだったのですから。」
そうか、眠ったままだったのね、半年間も……
「半年間も?!」
「そうでございますお嬢様、お嬢様は婚約者候補の1人シン・クルーベルト様の御屋敷に出向いたのちシン様の目の前で倒れられ今まで眠っていたのですわ」
半年間、まさか半年間眠ってたなんて、そりゃ記憶もなくなる、そもそも半年間も眠ったままで人間大丈夫なのか。まあとにかくこの人に聞けることはきいとくべきかもしれない。
「えっと、あなたは、」
「私お嬢様の専属メイドのアリスと申します。」
「アリスさん、じゃあ私が眠ってた間というかとにかくこの状況、私のことについて教えて頂けませんか?」
「それに関してはとにかく旦那様方をよんでまいりますのでそれからにいたしましょう。それと、私のことはアリス、アリスと呼んでくださいませお嬢様」
「はあ、ではアリ…」
私がアリスの名前を呼ぶ前にアリスは急ぎ足で部屋を出ていってしまった。
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凄い勢いででてっちゃった、
ナルディリアはアリスが出ていった後ベッドに座りアリスが戻ってくるのを待っていた。
「ナルディリア?!」
突然ドアを勢いよく開けてきたのは金髪のいかにもイケてるおじ様というのに相応しい、身なりも顔も整った身長も体格もしっかりとした40代くらいのおじ様だった。男はナルディリアの方へ真っ直ぐに走ってくる。そして私の前まで来たかと思うと感極まる様子で私を優しく抱きしめた。
「ナルディリア、ナルディリア…」
そういいながらすっぽりと包み込みその手はとても優しく、暖かかった。何度も私の名前を呼びながら優しく私の頭を撫でる。しかし一向に終わりを見せないそれにとうとう私にも限界が訪れ
「ん、く、くるしい…」
「ごめんよ!ナルディリア!せっかく娘が目覚めたのに何をしているのだ私は…ごめんよ、どこも痛くはないかい?」
彼はさらに優しく私に尋ねた。
「大丈夫です、どこも平気ですから!」
ありのままに答えたつもりだったが何やら予想外の答えだったらしく少し動揺が伺える。
「何か、変なことを言ってしまったでしょうか」
私がそう言うと、「そんなことを、いや、記憶が無いせいか、にしても…」何やらブツブツ目線を外しながら独り言を言っている。
「あの……」
「いや、なんでもないんだ、すまない病み上がりなのに」
「そういえばナルディリア、君が目覚めたと聞いて婚約者候補達がぜひお前に会いたいといってるよ、私は今はまだ会わない方がいいと思って断ってしまったんだが良かったかな?」
「はあ、婚約者候補…」
婚約者候補どころか記憶がないんだから何もわからない、そもそもこの人は私のお父さん、なのか。
「あの、その、私記憶がなくて、その」
「ああ、では私の事も覚えて無いのだね」と悲しそうに呟く。
「私はヴォルグ・ディーンベルト公爵。君の父親だよ。」
やっぱりお父さんだったのね、にしてもすごい美形だな。ていうか、公爵ってことはそれなりなお家柄なのね。
「で、婚約者候補たちについてはどうする?」
で、と言うにはまだ頭の整理が出来ていないのだが
「えっと、出来ればもう少し落ち着いてからが良いかと…」
「うむ、ではそのように伝えておこう、ではアリス後は頼んだよ」
「かしこまりました、旦那様」
そういうと公爵は嵐のように部屋から去っていった。
「すごかったなあ…」
驚きが隠せず心の声が出ていたようで
どう致しました?っとアリスに心配されてしまった。
とにかくこの状況を整理すべくナルディリアはアリスに今までの事を少しずつ聞くことにした。
まず私はナルディリアという名前で歳は16歳、4人いる婚約者候補のうちの1人と会っていた時に意識を無くしたまま今日まで眠っていたらしい。
にしても婚約者候補が4人て、どこの遊び人?まあ確かに自分で言うのもだけど見た目はそれなりに派手かもしれない。
ナルディリアの容姿はこの国では珍しいらしい銀色の髪に透きとおるほど綺麗なブルーの瞳である。
「アリス、とりあえず私この部屋から出たいの、支度をお願いしたいのだけども」
「かしこまりましたお嬢様、ただもう少しお待ちくださいませ今外にはシン・クルーベルト様がいらっしゃいますので」
「シン、クルーベルト?」
たしか、シン・クルーベルトって…
「はい、お嬢様の婚約者候補のうちのお1人でございます」
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