後悔、決意、のち行動
「あぁ、失敗した……」
私は自室で一人、悶ていた。
冷え切った瞳でセラフィオーネに、
『……問題に向き合うことのできない、どうしようもない方だとは思っていましたが、ここまで酷いとは思っておりませんでしたわ。今回の浮気問題から逃げ出したくて、そんなことまで言い出すなんて……』
と、言われた時のことを思い出すだけで死にたくなる。
私はまだ、自分がフィルメリアである、という自覚が足りなかったようだ。
いや、このどうしようもない王子は自分とは別人だ、と。一緒にしないで欲しい、という自己防衛にも似た感情が、現実を受け入れることを拒否していたのだ。
他人の目から見れば、自分はフィルメリア殿下でしかなく、彼の立場のまま生きるのであれば、彼の過去も自分のものとして、受け入れるしかないのに……。
フィルメリアが過去に何かしたのなら、その上で相手と付き合わなければいけない。
例えば、彼が過去にいじめていた人間に、私はフィルメリアじゃないから、といじめたことがなかったかのように相手と接することは、相手に苦痛をもたらすはずだ。
幸い、彼は誰かをいじめたりはしていなかったようだが、彼なりに今まで築いてきた人間関係というものがある。それを変えるにしても、私がフィルメリアであることを無視しての行動は不義理を生むだろうし、図々しいと思われることもあるだろう。とにかく、信用を失うばかりで、ろくなことにならないだろう。
このどうしようもない人間が自分なんだ、と。受け入れがたい現実を認めなければ、きっと、先には進めない。
「でも、なんだかんだ、優しいんだよな……」
セラフィオーネは私の言ったことを全く信じていなかった。
だが、助言はしてくれたのである。
『……それが、何かの比喩だとして。わたくしでしたら、一番最初に陛下に話をするのではないでしょうか。魂が、人格が別人のものだ、ということだけ。自分の立場が定まらない限り、何も決められないのでは?』
「よしっ」
私は勢いよく立ち上がると、侍従に指示を出した。
――まずは、陛下と内密に話ができるようにアポを取らなくては。