相談相手を探す
一人で延々と悩んでも仕方がないので、誰かに相談することにした。
だって、分からないのだ。
決められないのは、決断すべき要点が分かっていないのだろう。そうであれば、聞き取り調査じゃないが、必要な知識を探さねばならない。
魔王との戦いを通し、私は学んだのだ。
一人で悩み、迷い続けている時、考えている内容はずっと同じだ。
同じことを堂々巡りで考え、足を止めている。
悩んでいる人間の視野はとにかく狭いから、考えたって仕方がない。
とにかく、失敗を恐れず、動いて、体当たりで何が正しいのか探さなければならないのだ。
その際、信頼できる人間に相談し、意見をもらえるのならなお良い。
さて、ここで問題なのは「誰を頼るべきか」ということだ。
信用できる人間とは、誰だろう。
利権が関わる人間はできるだけ避けたいが、王子である身の上で、周囲にそんな人間がいるだろうか。
陛下は国の利益重視で、恋する少女のことなど簡単に切り捨てそうだ。
婚約者のカティナベルと浮気相手のルルリアナは論外。
王妃も陛下とあまり変わらないし、弟は継承権が関わる。
王太子の派閥なら、私にこのまま王太子としていてほしいだろうし、私の意思を無視して暴走しかねない。
まぁ、誰だって損をしたくないし、利益が目の前に転がっていたら手を伸ばしてしまうものなのだろう……。私としては、自分の損得はどおでもいいので、筋を通したいのだけれど……。
「はぁぁぁ」
顔に手を当て、深々とため息をついた。
「……どうか、なさいましたか?」
私はまた、思考の渦にはまりこんでいたようだ。
落ち着いた、警戒するような声に慌てて顔を上げた。
目の前にいたのは四つ年上の、涼やかなアイスブルーの瞳の女性。
カティナベルの付き添いである……たしか、セラフィオーネだ。
「あぁ、すまない。お見苦しいところを見せた。気にしないでくれ」
婚約者と城の庭園でお茶会をしていたのだが、うっかり考え事をしてしまっていたようだ。姿が見えるぐらいの距離とは言え、カティナベルが私のエスコートもなく、一人で花を楽しんでいることが、私たちの関係性を物語っていて、頭が痛い。
とはいえ、話す気もないのにいかにも悩んでいます、という態度を見せてしまったのは失敗だった。
だが、最近はいつ、どこにいても、誰に相談すればいいだろう、と周囲の人間を見ながら考え込んでしまうのだ。
苦笑する私の顔を、セラフィオーネがじっと見つめてくる。私は居心地が悪くなり、紅茶へと手を伸ばした。
「……もしかして、ルルリアナ様が妊娠でもしましたか?」
私はガバリと顔を上げ、セラフィオーネの顔を見た。
目をまんまるにする私の顔を見て、彼女はわずかに眉をひそめた。
「事実なのですか……?」
「い、いや、妊娠はしてないが……。だが、なぜ……?」
私はあまりに予想外な状況に言葉が続かない。
セラフィオーネは少し迷うように視線をさまよわせた。
だが、庭の花々の向こうにカティナベルの姿を認めると、彼女の姿をしばし見つめ、目を閉じた。
私はそんな彼女の様子を窺っていたが、次の瞬間、こちらへ向けられた彼女の瞳を見て、息を呑んだ。
彼女の瞳は静かに、だが強い光を放ち、まっすぐに私を見ていた。
「殿下はもっと、カティナベルのことを知るべきです」