三つの選択肢
まるで、小説の悪役令嬢とヒロイン、その間に立つ攻略対象の王子のような状態だ。
日本で生きていた頃、乙女ゲームなんてしたことがなかったが、もしかしたら、この世界もゲームとして描かれていたりしたのかもしれない。
そんな馬鹿げた考えが浮かぶほど、酷い状況だ。
なんだって、こんな男に憑依してしまったのか。
あと、半歩。未だに悔やまれる。
――さて、愚痴と文句はここまでだ。
私は思考を切り替える。
今、考えなければいけないのは、私がどうするか、どうしたいのか、ということだろう。
勇者の勤めを果たし、公爵家の誇りを持つ――今は王子の身分だが――私としては、誠意ある行動をとりたいところだ。
元々、婚約をしていたカティナベルの為に動くべきだろうか?
そうであるならば、ルルリアナには申し訳ないが、謝罪し、代わりの相手を探すなりしなければいけないだろう。
王太子のお手つきを押し付けられる臣下のことを考えると、あまり取りたくない手だが、ルルリアナが結婚した後のことを考えると、事情を知らない男の元へはやれないだろう。
結婚すれば、彼女に男がいたことはバレるだろうし――知らない子のために一応言うが、女性の体はそういうふうにできているのだ――、その後、きつく当たられる可能性がある。逆に結婚前に話せば婚約破棄され、最悪、言いふらされる可能性もある。
そうすると、最初からしっかり説明しておいたほうが傷は浅い……と思いたい。
それとも、身体の関係を持ってしまったルルリアナを優先するべきだろうか。
その場合、カティナベルに土下座して――この世界に土下座の文化はないので、言葉の綾だ――彼女の要望を叶えるべく、可能な限り便宜を図るしかないだろう。
だが、日本で恋愛ドラマなどを見るたび、いつも思っていたのだが、なぜ、何も悪いことをしていない女性が割りを食わなければいけないのだろう? 子供ができたから責任を取る? 横恋慕したのだから、自業自得じゃないだろうか。
だが、浮気男とそのまま関係を続けたいか、と聞かれたらそれも微妙だろう。
……そうすると、私はルルリアナと結婚することになるのだろうか。憂鬱だ。
それとも、国王陛下に指示を仰ぐのが正しいのだろうか?
三角関係の問題も最悪だが、私自身が王子の人生を乗っ取る存在である。
別人なのだから、当たり前のように彼の人生をいただいてしまうのは間違っているのではないだろうか。
……深い、深いため息が出た。
一体、誠意と誇りとは、何だっただろうか……。
とりあえず、クズの人生に突然持ち込むと、大変なことになる概念のようだ。
王子、許すまじ。