プロローグ
物事って、なんだって、こんなにも些細なことで狂っていくんだろうな?
今回の場合は、たった数センチの違い。
私の足の位置がもう数センチ。
もう半歩、違ったら、こんなことにはならなかったはずなんだ。
『殿下、わたくしから婚約破棄なんてありえませんわ。早く、浮気相手の男爵令嬢とは別れてくださいませ』
最近のネット小説、ライトノベルの流行りって知ってるかな?
乙女ゲームで描かれていた世界で、悪役として登場していた人物として、生を受けたり。
生まれ変わったら、地球じゃなくて、世界の法則が全く違う、異世界、としか言えない場所で強くなり、悪者と戦わなくてはいけなくなったり。
『フィルメリアさま、大丈夫ですか? あんな女と一緒に、義務でいるなんて……。お辛いですよね? わたしと一緒のときだけでも、無理しなくても良いんですよ?』
いわゆる、悪役令嬢もの、とか異世界転生、とか。
あとは、有名な小説で、十二の国が出てくる世界で王になる少女の物語みたいに、異世界に転移してしまったり。
あとは、魂だけが異世界に転移して、ものすごく嫌なヤツの身体に憑依して、最低最悪の評判の中、まともな人間関係を築くために主人公が奮闘する物語、とか。
――えっ? なんで、そんな話をするのかって?
『婚約破棄は慣例として女性からするものですが、わたくしにそんなつもりは微塵もありませんわ。まず間違いなく、父は認めませんし、周囲の方々も、わたくしが王太子である貴方と婚約したことを祝福してくださってます。それなのに婚約破棄なんてしたら、周囲にどう思われるか……。まさか男性から、しかも王太子から婚約破棄された女、なんて汚点をつけて、私の人生を潰す気ですか?』
『フィルメリアさま。いつになったら、あの女と別れて、わたしと結婚してくれるんですか……?』
……私の身にも、似たようなことが起きたからさ。