第9章 絆
〜高校生なったら中学の時のように、いつも一緒にいられなくなったけど、ボク達の絆は固く結びついていたと思います。
今思えば、長いようで短かった3年間でした。
その中で、僕も君に負けないように将来の目標を模索していました。
そして、ボクを今の道に導いてくれたのはあなたでしたね・・・
高校に通うようになってからも真弓は休日ごとに帰ってきていたので、その時はなるべく史也と過ごすようにしていた。
土曜日の午後帰って来る真弓を史也は毎回駅まで迎えに行った。
その後は、駅前の喫茶店やゲームセンターなどで時間を潰して真弓から譲り受けた自転車で真弓を家まで送って行った。
「この名札、貼り替えれば良かったのに。」
真弓の名前の脇に小さく書かれた史也の名前を見て真弓が言った。
「ああ、これね・・・ ずっと君の隣に居たいから」
「まあ、いつからそんな気の利く言葉を照れもしないで言えるようになったの?」
真弓にそう言われると、史也は急に恥ずかしくなった。
「あれっ?なんか、顔が赤くなったみたい」
「からかうなよ。目一杯なんだから。ただ、本当にそう思っているから、そう言ったんだ」
史也がそう答えると、クスクス笑う真弓の声が背中越しに聞こえてきた。
「里中君って、学級委員長のときはあまり目立たなかったけど、文章を書くのって上手だったよね。新聞記者とか小説家とかになれるかもよ」
「そんなお世辞を言っても何も出ないぞ。それに文章で食っていこうなんて、そう簡単にはいかないさ」
「お世辞じゃないわよ。私なんかラブレター書こうと思った時なんか結構苦労したもの」
「そのラブレター見たかったなあ」
「ダメダメ、あの時は勢いでラブレター出そうなんて思ったけど、今は、あれが里中くんに渡らなくて良かったと思うよ」
「そんなことないさ。ラブレターなんてものは文章がどうのより、気持ちの問題でしょう?1年の時に、それを貰っていたら、中学の3年間がもっとバラ色だったかもしれないじゃないか」
「そうかしら、あまり女の子には興味なさそうだったよ。けっこう、里中君がいいって子いたんだよ・・・」
「まあ、確かにね・・・ 中学に入った頃は、入学式のときに写真を撮った女なの子のことがしばらく忘れられなかったから、他の子のことなんかどうでも良かったんだ」
史也のその言葉を聞いて真弓は一瞬ドキッとした。
「それって・・・」
「ああ、そうだよ。でも、クラスが違ったから、その時以来、会えなかったし・・・」
「それで忘れちゃったのね。私はずっと覚えてたよ」
「忘れたわけじゃないさ。3年になって同じクラスになったとき、君はあの頃よりよっぽど大人になっていたから気が付かなかっただけさ」
「それで気が付いたのが卒業式なわけだ」
「そういうことになるかな・・・」
史也がずっと自分のことを気にしていてくれたことを真弓はこの時初めて知った。
例えは変だが、『盆と正月がいっぺんに来た』というのは、まさにこんなことなんだろうなと思った。
真弓はいつものように速足で史也の横に並びかけると、史也の腕を掴んで顔を寄せた。
「ねえ、一緒に乗って帰ろう」
真弓の家まではあとわずかの距離だったが、二人乗りして行くことにした。
3年間の高校生活はあっという間だった。
別々の高校に通ってはいたが、二人の関係に変わりはなかった。
真弓は高校を卒業すると同時に大学病院で看護婦になる。
史也は大学に進学して勉強しながら、小説を書いてみようと思っている。
真弓は一足早く、夢に向かって足を踏み出した。
史也も遅ればせながら、夢を描き始めた。
そして、夢を夢で終わらせないために、努力をしてみようと心に決めたのだった。