第7章 卒業
〜卒業式は運命の分岐点でしたね。
ボクは地元の普通科高校へ、あなたは看護婦を目指して隣町の女子校へ・・・
距離にすればたいした距離ではなかったけれど、あなたに会う時間が少なくなったのは確かです。
それでも、会えた時はとても嬉しかったですよ・・・
校門の周りにある桜の木には、開きかけた桜の花が無邪気に走り回る男子生徒や友達と抱き合い涙を流す女子生徒たちを見降ろしている。
卒業式を終えた史也たちは、それぞれに思い出話に花を咲かせたり、写真を撮り合ったりして中学校生活の締めくくりを満足いくまで味わっていた。
やがて、一人、二人と学校を後にしていく。
そして、残ったのは学級委員のメンバー4人と担任の平野だけになった。
「お前たち、この1年間はよく頑張ったな。特に島田は辛いこともあったのによくやった」
「おかげでいい想い出ができました」
そう言いながらこぼれる涙を堪えていた久保佳子は真弓に寄り添うと、声をあげて泣き出した。
「私だって、みんなと別れるのは悲しいよ」
原田直美もつられるように泣き出した。
真弓はそんな二人を励ましながら、背中をさすっている。
「委員長、最後くらい、なんとかしてあげなさいよ」
真弓にそう言われて睨みつけられると、史也はどうしていいか分からず、うろたえた。
「なんとかって、どうすりゃいいんだよ。こっちが泣きたくなってきちゃったよ」
そんな史也を見て、佳子と直美は泣きながらも笑顔を見せようと顔を上げた。
「大丈夫だよ、委員長。」
佳子が声を震わせながら言うと、直美も頷いた。
史也たちは校門の前まで平野に見送られてやってきた。
「よし、最後に記念撮影をしよう」
そう言って平野はカメラをとりだした。
「さあ、並んで!」
4人は平野に促されて、直美、真弓、史也、佳子の順の校門の前に並んだ。
「ハイ!チーズ!」
さっきまで涙を流していた佳子も直美もこの時ばかりは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、がんばれよ!また、いつでも遊びに来いよ」
平野に見送られて4人はそれぞれに散って行った。
史也と真弓はいつものように真弓の自転車を史也が押して歩いていた。
真弓の家が近くなってきたところで史也が急に立ち止った。
「なあ、戻ろう」
「えっ?」
「思い出したことがあるんだ。学校まで戻ろう。」
史也はそう言って自転車にまたがると、荷台を指して真弓に言った。
「早く!」
真弓は言われるままに自転車の荷台に腰かけた。
「しっかりつかまってろよ」
言うと同時に史也は思いっきりペダルをこぎ出した。
学校に戻ると、校門の前で真弓を待たせて、職員室から平野を連れてやってきた。
「いったいどういうともりだ?」
「いいから、もう1枚写真を撮ってください」
そう言うと史也は真弓の手を取って校門の脇に連れてきた。
そして、ポケットに両手を突っ込むと、真弓がいる方の腕にすき間分けた。
「ほら!早く!」
真弓は史也の顔をしばらく眺めて頷いた。
その顔は今までに見せたことのない最高の笑顔だった。
正面から平野の声が聞こえた。
「いいか?撮るぞ」
「はい!」
二人は声を合わせて応えた。
今度は二人とも見つめ合ったまま写真に収まった。
再び一緒に歩いて帰る史也と真弓。
「覚えていたの?入学式・・・」
片手で自転車を押しながら、もう片方の手をポケットに突っ込んで歩く史也の腕につかまって真弓は歩いた。
「いや・・・ 写真を撮った記憶はあったけど誰と撮ったのかは全く覚えてなかったんだ。だけど、最後にみんなで写真撮ったとき、急に頭の中に浮かんだんだ。そして、そこには、はっきりと君の顔があった。そんときは錯覚だと思ったけど、よくよく考えてみたら、あの時、隣にいたのは君しか考えられなくて・・・」
「ピンポーン! 大正解! 私はね、きっとあの日からずっと里中君のことが好きだったんだよ。ラブレターだって書いたんだから。結局、里中君には届かなかったけど・・・」
「それって、あのラブレター事件?」
「あっ、それは知ってるんだ?」
「ああ、その前の日に、島田さん、うちのクラスの下駄箱でウロウロしていたでしょう?」
「えっ? どうして知ってるの?」
「やっぱりね! だから前田のヤツがあんなこと言ったのか・・・」
「前田くん・・・ ああ! そう言えば、あの時、前田くんに会ったわ・・・ それで、前田くんは何て言ったの?」
史也はいったん立ち止まって真弓の顔を見ると、それから、しばらく黙ったまま、歩き続けた。
真弓もそれ以上催促はしなかった。
「島田さんが俺のこと好きだと言ったんだ。まさか・・・と思った。それに、島田と言われても、どこの誰だかもわからなかったしね・・・」
「知っていたら嬉しかった?」
「その時はどうだろう・・・ でも、今は君で本当に良かったと思うよ」
真弓の家に着くと、史也は自転車を真弓に戻した。
「寮にはいつから入るんだ?」
「4月5日から。入学式が8日よ」
「そうか、入学式は同じだ。5日には見送りに来るよ」
「うん!待ってる」