第5章 一緒の時間
〜あなたのせいで学級委員長なんてものをやらされる羽目になってしまいましたが、あなたが副委員長に立候補した時には驚きました。
でも、おかげで1年間あなたと一緒に過ごす時間が多くなったことは、今思えばとても幸せでした。
あなたが夢を見つけるまでは・・・
史也は一度目をこすってから改めて手をあげた生徒を見た。
やはり、島田真弓だ。
「他にいませんか?」
真弓は自分でそう尋ねると、今日室内を見渡し、前に出てきて黒板に自分の名前を書いた。
「はい、これで委員長と副委員長が決まりました。続いて・・・」
ポカンとしている史也をよそに真弓は他の役員を次々と決めて行った。
「よしっ!それじゃあ1年間頑張ってくれ」
担任の平野の言葉に我に返ると、教室の全員が拍手で役員一同をたたえていた。
隣には、満面の笑みを浮かべて手を振っている真弓の姿があった。
人前でしゃべる・・・ というより、しゃべること自体があまり得意ではない史也にとって、学級委員長という役割は毎日を憂鬱にさせた。
だが、史也にとってありがたかったのは、真弓がほとんど委員長のやるべきことを代行してくれたことだ。
史也は真弓の横でただ頷いていればよかった。
「なあ、なんで俺を委員長に推薦したんだ? お前がやればよかったんじゃないか?」
「委員長だと何もしなくても、そこにいなくちゃいけないのよ。だから一緒にいられるの。他の、いてもいなくてもいいような役だったり、何の役でもなければ一緒にいる機会がないかもしれないじゃない!」
史也は真弓の言っていることの意味が分からず、首をかしげていた。
すると、いきなり真弓からデコピンを食らった。
「何するんだよ!いきなり・・・」
「ドンカン!」
そう言って真弓はその場を立ち去った。
「お前って、本当に鈍感なヤツだな」
史也のそばに来てささやいたのは、3年間同じクラスの前田実だった。
「何のことだ?」
「島田のヤツ、たぶん、1年の時からお前のこと好きだったんだぞ」
「1年の時から? なんで・・・」
「そんなの知るか! こっちが聞きたいくらいだ」
そう言うと、前田も怒ったように立ち去った。
そんな前田を見た史也はつぶやいた。
「あいつ、島田のことが好きなのか?」
史也と真弓は相変わらず、どちらが委員長なのか分からないような関係を続けながらも、ことあるたびに一緒に行動していた。
文化祭の準備などでは、夜遅くまで二人だけで出し物の製作を行ったりもした。
にも係わらず、史也は相変わらずの鈍感ぶりで、まるで、恋愛感情というものを持ち合わせていないかのような態度だった。
文化祭を翌日に控えた夜。
全ての準備が終わり、他の生徒たちはそれぞれに皆帰って行った。
「お疲れ!明日、楽しみだね。真弓たちも早く帰りなよ」
「お疲れ!ありがとう、私たちも戸締りしたら帰るから。じゃあ、また明日ね」
先に帰ろうとする、史也の方をグイと掴んで真弓はクラスメイトに手を振った。
「まさか、か弱い乙女をおいて先に帰ろうなんて思ってないでしょうね!」
ちょうど、そこへ担任の平野が様子を見にやってきた。
「おう!終わったか。俺がやっておくから、もう帰っていいぞ」
「ありがとうございます」
真弓は平野に教室の鍵を渡すと、史也の手を引っ張って教室を出ようとした。
「里中、ちゃんと島田を送って行ってやるんだぞ」
平野はそう言うと史也に向かってインクした。
あたりはすっかり暗くなっていた。
自転車通学の真弓は自転車を押しながら史也と並んで歩いている。
「遅くなるから先に行ってもいいぞ」
「先生が送って行けって言ったでしょう」
「だってお前の方が家遠いじゃないか」
「あら、か弱い乙女を途中で夜道に放りだすつもり?」
真弓にそう言われると史也は返す言葉がなかった。
史也は真弓の自転車のハンドルを手に取ると、自転車にまたがって後ろの荷台を指差した。
「乗れよ」
真弓は荷台に腰かけて史也に両手を廻してしがみついた。
「いいか?」
「うん」
史也はしばらく無言で自転車を走らせた。
「なあ・・・」
「なに?」
「ありがとう」
「なにが?」
「いつも悪いな・・・ 俺が委員長なのに」
「な〜んだ、そんなこと気にしてたの? いいのよ。私がそうしたくてやっているんだから。それよりこっちの方こそごめんね。本当は学級委員長なんてやりたくなかったよね」
「いや・・・ いいんだ。おかげで、お前といつも一緒にいられる・・・」
「本当?」
「ああ・・・」
真弓は、史也に回した手を一層強くして史也の背中に顔を押し付けた。
「おい!」
「いいの!」
「そじゃなて、道が分からないんだ」
そう言われて真弓は辺りの景色に目をやって焦った。
「えっ!いやだ。ここどこ?」
「だから、それを聞いてるんだってば!」