第3章 入学式
〜覚えていますか?
あなたが書いたラブレター・・・
結局僕の手には渡らなかったので、鈍感な僕はずっとあなたの気持ちを知らずに過ごしていました。
今思えば、もったいない気もします・・・
満開を過ぎた桜の花びらが、校門の前で記念撮影している親子に降り注いでいる。
暖かいこの地方では、入学式を迎える頃には桜が散り始める。
真弓は校門の前で入学の記念にと母親が構えるカメラを見つめていた。
「はい!チーズ」
シャッターを切った母親が真弓のそばに来て、辺りを見渡す。
「誰かシャッターを押してくれそうな人はいないかしら・・・」
二人一緒の写真を撮影したいと思っているのだ。
そこへ通りかかったのが、史也だった。
史也の両親は共働きで、どちらも仕事の都合が付けられず、入学式には史也一人で来ていた。
「ねえ、そこのボク!」
史也が声のした方を振り向くと、何組かの親子がカメラを片手に記念撮影をしている。
その中のひと組の母親が史也の方を見て手招きしている。
史也はその訳がすぐに分かった。
両手をポケットに突っ込んだまま、その親子の方へ近づいて行った。
「ねえ、いいかしら?」
そう言って母親がカメラを手渡そうとしてきた。
史也は無言でカメラを受け取ると、数歩下がってファインダーを覗きこんだ。
「撮りますよ」
そう言うと、無造作にシャッターを切った。
史也がカメラを返して立ち去ろうとすると、母親が史也に声をかけた。
「ねえ、あなたも新入生なの?」
史也は黙って頷いた。
「じゃあ、あなたも一緒にどう?」
そう言うと、史也を娘の隣に立たせてカメラを構えた。
「はい、チーズ!」
女の子は、図々しく史也の腕を取って体を寄せてきた。
一瞬ドキッとしたが、史也は女の子とは反対の方を向いた。
その瞬間シャッターの音が聞こえた。
史也は女の子の手を振りほどくと、母親にだけ会釈してその場を立ち去った。
真弓はポケットに手を突っ込んで歩いて行く男子生徒の後姿をしばらく見つめていた。
「なんだか、今時、珍しいくらい純粋そうな子じゃない?」
真弓の母親はそう言ってカメラをバッグにしまった。
「さあ、お腹すいたわね。何か食べに行きましょう」
「今の子、同じクラスじゃなかったから名前くらい聞いておけばよかった」
「そうね。でも、同じ新入生なんだからすぐに分かるわよ」
次の日、真弓は他のクラスを廻って、彼を捜した。
彼はすぐに見つかった。
1年3組だった。
すぐに、彼と同じ3組で、小学校の頃、仲が良かった佐藤裕美呼んで彼の名前を聞き出そうとした。
「え〜、知らないわよ。自分で聞いてきなよ」
裕美が面倒臭そうにそう言ったところで始業のチャイムが鳴った。
真弓は渋々自分の教室1年1組に戻って行った。
ぶっきらぼうだけど、なんとなく懐かしいような暖かさを持っている。
入学式のとき、はじめてみた史也はそんな感じに思えた。
一緒にならんで写真を撮ったとき、彼の腕にしがみついたのには自分でも驚いたが、ずった前から恋人同士だったようなそんな感覚が無意識のうちにそうさせたのだった。




