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第12章 変化



〜それでも、離れて暮らすことでいつもお互いを意識することができると信じていましたが環境の変化についていこうとすればするほど、気持ちに余裕がなくなってしまったことがとても悔やまれます・・・





この地域では割と大きな雑居ビルの最上階にあるこの店は、ここが地方都市の小さな町であることを忘れてしまいそうなほどモダンな造りだった。

まだ未成年の真弓は当然酒を飲みに行ったことがなかったが、新人の歓迎会などは居酒屋の座敷で行われるのであろうと思っていた。


 真弓が佐和子と店に到着した時には、ほとんどのメンバーが揃っていた。

二人に気付いた幹事の佐藤(さとう)弘樹(ひろき)は、ざわついた場内を沈めるべくマイクを手にした。

「皆さんご静粛に・・・」

弘樹が帆と声叫ぶと、場内は静まり返り、みんなが弘樹の方を見た。

「・・・遅れてくる佐伯君以外は全員揃ったので、これより、新人歓迎会を始めたいと思います」

弘樹がそう宣言すると、場内はまた拍手や歓声で盛り上がった。


 佐和子は真弓の手をとると、会場の中央のテーブルの方を示した。

「行こう! こういう時は目立った方が得よ」

佐和子に引っ張られてきたテーブルには、病院でもよく見かける外科の医師たちが集まっていた。

佐和子は仲の良い先輩がいたと見えて、すぐに二人で意気投合していた。

見かけるのと知り合いなのとでは、大きな違いで、こういう場所でどういう風に接していいのか真弓には皆目検討が付かなかった。

真弓がどうしたらいいのか迷っていると、後ろからポンと肩をたたかれた。

「やあ! 君は・・・」

声をかけてきたのは研修中に患者役をやっていた木下広之(きのしたひろゆき)だった。

「島田真弓です」

「そうそう、島田さん!俺のこと覚えてた?」

「はい、もちろん・・・ あの時は本当に失礼しました」

そう、忘れるわけがなかった。

あの時は、まさか、あんなことになろうとは思いもよらなかった。



 電車の脱線事故が起きたという設定での訓練だった。

広之は足にけがをして大量の出血があるという患者の役だった。

現場で応急処置を受けて病院に運ばれてきたということになっていた。

その時の広之の演技を真弓は今でも覚えている。

激痛に顔を歪め、必死で助けを求める演技は研修の患者役とは思えないほど迫真の演技だった。

真弓はそんな広之の演技に引き込まれ、それが研修であることを忘れてしまうほどだった。

 止血状況を確認し、縫合のための消毒をしなければならない。

患部にはマジックで線が引かれているのだが、広之の患部は右足の内側の付け根のあたりだった。

消毒をするには下着を脱がさなければならない。

研修では、脱がすポーズをすればいいのだが、かなり舞い上がっていた真弓は広之の下着を本当に脱がしてしまったのだ。

さらに、消毒する際、広之の男性のシンボルをよけるためにしっかり触ったのである。

これには広之も驚いた。

「君っ! そこは・・・」

我にかえった真弓の顔はみるみる赤くなったのは言うまでもないが、既に後には引けないのでそのまま最後までやりとおした。


 その研修が終わって、談話室のベンチで落ち込んでいると、缶コーヒーを片手に広之が現れた。

広之は缶コーヒーを真弓に渡すと照れ臭そうに、こう言った。

「気にすることはないさ。今日のことはきっといつか役に立つ」

「すみません・・・でも、木下さんの演技があまりにも迫真に迫ったものだったから・・・」

「そう言ってもらえるとうれしいな。じゃあ、責任を取ってもらおうかな」

「えっ?責任?」

「そうさ!女の子にあそこを掴まれたことなんて初めてだからね」

「あれは、その・・・」

真弓が困った顔をしていると広之は笑って手を振った。

「冗談だよ。でも、新しい下着をはいて来ていて本当に良かった」

そう言って広之は談話室から出て行った。



 改めて見ると、この木下広之という人物はとても親しみがある感じがする。

そう・・・ どことなく史也と同じような雰囲気があるのだ。







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