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第11章 新しい生活

〜こうして僕とあなたは遠く離れてそれぞれの道を歩くことになりました。それでも僕たちの心はずっと一つでいられると信じていましたが・・・





 新人の看護婦は、毎年、病院の若い医師たちに注目されている。

まだ修行中のみである彼らは、日常のほとんどを独身寮と病院との行き来に費やす。

人並の恋愛などする時間はなかった。

彼らが接する女性といえば、病院の患者か看護婦くらいのものだった。



 正看護婦になったとはいえ、真弓はまだまだ駆け出しだ。

配属された外科病棟では教育係の3期先輩、今井(いまい)沙織(さおり)の下で仕事を覚えようと日夜励んでいる。

「島田さん、今度の新人歓迎コンパのことなんだけど、私、行けそうにないわ。佐和子に頼んでおいたからゆっくりしてくるといいわ。但し、次の日のミーティングには遅れないように」


**ここの新人歓迎コンパは、看護婦も医師も新人とその教育係の間で行われている。

看護婦の教育係は、だいたい3〜4年先輩の看護婦が務めているが、医師の方はもう少しベテランの医師が教育係を務めている。

看護婦たちは、出世しそうな医師をものにする絶好のチャンスなのだ。**


「白石先輩に? どうしたんですか? あんなに楽しみにしていたのに・・・」

白石(しらいし)佐和子(さわこ)は沙織と同期で、真弓の教育係である沙織のサポート役でもあった。

「実家に呼ばれたのよ。きっとまたお見合いだわ」

「また・・って?」

「趣味なのよ。母親の・・・ どうせ、地元の町会役員の息子とか、そんなのだと思うわ」

「いいじゃないですか! お医者さんより、そういう平凡な人の方が家庭的で大事にしてくれるんじゃないですか?」

「私ね、そう言う家庭を望んでいるわけじゃないのよ」

「じゃあ、どんな家庭がお望みなんですか?」

「セレブよ!」

「セレブ?」

「そう!亭主なんかどうでもいいの。亭主の稼ぎで贅沢三昧ができる生活にあこがれるのよ」

「ふ〜ん・・・」

真弓はそんな沙織の考えが理解できなかった。



 小説を書いてみたいという気持ちになったのは真弓のおかげだと言ってもいい。

そのことがなければ、史也は地元の工務店に就職するつもりでいたからだ。

大学も工学部に入った。

小説とはまるでかけ離れているようにも見える。

しかし、考えてみれば、世に出ている小説家が皆大学の文学部を出ているわけでもない。

 高校が普通香だった史也にとって、工学部での勉強は今までに習ったことのない専門教科や実習など新鮮な空気を与えてくれた。

驚いたのは女子学生がけっこう多いということだ。

設計やデザインを将来の仕事にしたいという彼女たちは熱心に授業を受けていた。

 もう一つ高校と違うのは、サークルというクラブ活動の多さだった。

いろんな種類の物があり、探せばどんな趣味をもったものでも何かしらそういう(たぐい)のサークルを見つけることができた。

史也は、その中から“ライターズクラブ”という小説を書いているらしいサークルに入ることにした。

 放課後、早速、部室を訪ねてみた。

部室は8階建ての本校舎の最上階にあった。

このフロアには、こういったサークルの部室が中廊下をはさんですらりと並んでいる。

史也は一部屋一部屋看板を確認しながら“ライターズクラブ”の部室を捜しあてた。

おそるそそるドアを開けてみると、長い髪をヘアバンドで束ねた女性の姿が目に入った。

「あのぉ・・・ このサークルに入ろうと思って来たんですけど・・・」

振り向いたその女性は、女性としての魅力が充分の知的で、それでいて幼さの残る顔だちをしていた。

彼女は史也の方をしばらく眺めるとニコッと笑い手招きをした。

「佐々岡香奈(ささおかかな)です。一応ここの部長をやっているけど、部員は君で二人目・・・ かな。よろしくな」

彼女はそう言うと立ち上がって右手を差し出した。





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