第1章 出逢い
ふきのとうの同名の楽曲『やさしさとして想い出として』をイメージした物語です。
〜お元気ですか?
だいぶ暖かくなってきましたね。
そちらではそろそろ桜の花が開き始めたのではないでしょうか・・・
そして、今年もまたあの頃の思い出が鮮明に甦ってきます。
もう30年も経つのですね・・・
新学期を迎えた学校の廊下に据え付けられた掲示板にはクラス分けが記された用紙が貼りだされている。
だれもが気になる風に、自分の名前を捜している。
何組になったのか?
だれと同じクラスになったのか?
仲のいい友達とは一緒になれたのか?
いやな奴とは別々になれたのか?
だれもがそんなことを思いながら、我先にと掲示板の前に進み出る。
そんな連中を少し離れたところから窓際の壁に寄り掛かり、腕組みをして眺めている男子生徒がいる。
「何組になったっていいじゃないか・・・ どうせなるようにしかならないんだ」
少し避けたようにつぶやいた男子生徒は、腕組みしていた手をポケットに突っ込んで掲示板に近づいた。
後の方から掲示板を覗くと、すぐに自分の名前を見つけることができた。
里中史也。
3年1組だ。
壁に掛けられたスピーカーから、各自自分のクラスに入って着席するよう促す案内が聞こえてくると、生徒たちはそれぞれのクラスに入っていった。
史也も教室に入り、自分の出席番号が貼られている席に着いた。
廊下側から二列目の前から三番目だった。
「よろしく!」
そう声を掛けられて横を向くと、知らない女子生徒が微笑みかけてから史也の隣の席に座った。
知らないと言っても、話こそしたことはなかったが顔くらいは見たことがある。
同じ学校の同じ学年なのだから当然だ。
中学に入ってから同じクラスになったことはなかったので、名前を知らなかっただけだったのだが、それは史也にとって知らないということなのだ。
史也は何も答えず、すぐに前を向いた。
彼女はそんな史也の横顔を少しの間眺めていた。
それが、史也と島田真弓の出逢いともいえる瞬間だった。