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いろいろと一歩を踏み出した、二人は。

「お嬢様。亡きご主人様からの御手紙を届けに来た者がおるのですが。」

 侍女がおそるおそる言った。「お嬢様」と呼ばれた女が、不機嫌そうに振り返った。女は人間型で、人間でも若い美人で通るが、耳や目つきなどがひどく猫に近い印象を与える魔族だった。侍女はというと、ライオンのような顔の獣人系の魔族であり、かなり逞しい体付きで、こちらの方が恐ろしい印象をあたえるが、震え上がるように縮こまっていた。

「あのような男、私の夫ではありません。汚らわしい、恩知らずの輩の手紙なぞ…、え?…いえ、よいでしょう。手紙は受け取るだけは受け取り…手紙を持って来た者には後で報酬を与えますから、しばらく待たせておきなさい。決して、失礼なことはしないように、お願いね。」

 侍女は、目の前で、表情もどんどん変わっていく主に困惑しつつも急いで部屋を出た。

 魔界と人間・亜人達が言う地域の中で、伝統を誇るヒルコ公国第一公女カグザは、まだ、20歳前であったが、前魔王の仲介で結婚した夫と別居して実家に戻って来ていた。今、彼女はそわそわし、焦っては落ち着けと自分に言い聞かせ、また焦るという繰り返しをしていた。侍女が、ようやく、といっても大した時間は過ぎていなかったのだが、手紙を持ってきたのを見て、即座に奪い取ってしまいたい衝動を抑え、

「そのテーブルの上に置いてちょうだい。後でゆっくり読むから。もう下がっていいわよ。」

と言って、侍女が部屋を出ていこうとした時、

「ところで、これをもってきた使者は待たせておきなさい。報酬を与えないといけませんからね。」

と声をかけた。侍女は振り返って、頭を下げてドアを閉めた。それを確かめると慌てるようにテーブルに駈け寄った。彼女は、震える手で手紙を手にとった。封を開くと、よりはっきりしてきた、”魔王様“の気配が。それは、先ほど、侍女の後ろ側から次第に感じてきたのである。今、はっきりと感じる。魔王が生きていること、その魔王が寄越した手紙であると確信した。パピルスの手紙を開くと、その文字、一字一字に魔王様の魔力が、彼女を圧倒してきた。喜びと不安と恐怖が交差する中、震える指で手紙もって読み始めた。そこにはまず、彼女の忠義心とその行動への感謝と彼女ほどの女をあの様な恩知らずで、ふがいない、かつ、つまらない女にうつつを抜かし、彼女を軽く扱うような男を、彼女の夫に選んでしまったことへの謝罪が書かれ、そして彼らを成敗したと記していた。魔王が自分を評価してくれていることに感動するとともに、“やっぱり、あの女!愛人だったのね!”とあらためて怒りが込み上げてきた。そんな小さなこと、と自分に無理矢理に言い聞かせ、先を続けた。慎重に、自分への忠義心はあまり外側に出さないこと、それでいてあらたに魔王を唱える者達に媚を売らないこと、その態度を取ることで、周囲が高く評価はするだろうことを指摘したいた。その上で、妻の権利を主張して、あの地の所有権を主張すること、この手紙を持たせた男は、忠義心を失わず、その地の有力者の一族であるので、その地の確保、魔王への忠義心を持つ者達の結集の力になり、そして、今回の謀反は、人間亜人間を交えて謀略を展開したためだとして、密かに探るように命じていた。付け加えるように、最強の勇者が魔王と同士となり、二人は魔界、人間・亜人間界に向けて反撃を開始するつもりだと記していた。宛先に、もっとも信頼する者へとあった。無理な要求がなくホッとすると同時に燃え上がるものが心の中で燃え上がった。あの土地を手に入れるということなら、まず父は喜ぶだろう。魔王は、ご丁寧に統治が上手くいくように手はずをとってくれた。今、魔王の座を巡って、我こそはと声をあげている連中の顔を思い浮かべた。

「あんなの成り上がりどもの下につけるはずありませんわ。」

 魔王は功績と能力と忠義心には、必ず報いてきたことを思い出した。魔王とあの勇者がともに戦えばということも計算した。そして、どこの誰かも解らない連中に操られることに激しい嫌悪感が沸き起こった。

「魔王様の大帝国!そのNO.2、いや、それはあの勇者ね、でも、少なくともNO.5以内には入れる可能性があるわ。」

 彼女は夢見がちな目となっていた。直ぐに我に返った。

「まずは、今やるべきことを考えなければ、ね!…そうだ、まず喪に服すこと。その上で、妻としての権利を主張しないとね。」

 彼女は、自分自身に命ずるように大きく肯いた。

「誰か!急用よ!」

「よく無事で帰って来てくれた。」

 カグヅチ公は、息子であるエスタグロを抱きしめた。不覚にも涙が出てきたしまった。息子は、やんわりと父の手を振り解いて、

「私の方こそ、帰還が、遅くなり、父上にご苦労をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。」

 彼は先の魔王軍との決戦に参加し、行方不明になっていた。その間に、重臣の一人が反乱を起こした。当初、それは成功し、公は幽閉させられた。が、エスタグロは帰還し、彼は簒奪者を倒し、両親を解放し、そして公領を取り戻しただけではなく、重臣を操っていた他公国を破り占領したのだ。

「ところで、あの二人はどうした?」

 どういう奴の協力を得ていたのか、万全な体制を取っていた、元重臣、隣国の側の兵力を瞬く間に壊滅させた男女の戦士がいた。

「二人は旅立ちました。」

 少し悩む表情を見せてから言ったが、父親は気がつかなかった。

「それは欲がない方々だな。礼をしたいと思っていたのだが。」

 エスタグロは、それを待っていたように、

「いつか、かれらに恩、大きな恩に報いたいと思っています、私も。」

 息子が思っていることの何分の一も父は分からず満足そうに微笑して、少し休むと言って従者に支えられながら奥に入って行った。父は、長くはないとはいえ、幽閉で体調を完全に悪くしていた。

「あの二人、尋常な強さではなかったわね。一体誰なのかしらね?」

 後ろに姉のログアが、いつの間にか立っていた。エスタグロは、それに返事はしなかった。半ば推測はしているだろう、この頭の良い姉、と思っていたからだ。逆に姉の次の言葉を待った。

「あなた、彼らと何を企んでいるのかしら。」

 傍に歩みより、耳元で囁いた。彼は話すことにした、姉はやはり共に語り、行動出来る相手だと思ったからだ。

「実は姉上。」

「全く、こういうところは魔族と変わらないな。兎に角、殺し合いにならないってところは、まだましかな。」

「まあ、魔族だってすぐ殺し合いに、とならない連中もいるけど、この差は大きいかも。ところで、おばさん、誰が臭いって?」

 カツマとミヨは。酒場で肩を抱き合って、座って大ジョッキのビールを飲んでいた。周囲には、大柄な男女が十数人、死んだように倒れていた。少し離れたところに、魔導師の類いの男女が数人倒れていた。そして、十数人が、怯えた表情で従順に、二人の前で、床の上に直接すわっていた。一人、派手な感じの女が怯えた表情ながら、憎々しげに二人を睨んでいた。それでも、逃げるように出て行った。その直後叫び声が上がった。

「土下座して謝れば、助かったのにな。もう面倒ごとはたくさんだったから。」

 カツマがつぶやいた。

「お兄ちゃん。こいつらどうする?倒れている奴も手下にする?結構役に立ちそうな奴もいたけど、早く、手当てしてやらなければならないやつらもいるけど。」

 ミヨが囁いた。彼女がそう言うなら、こいつら全員、手下にしてよさそうだ、とカツマは考えた。

「お前達。倒れている奴も連れて、今日は帰れ。私達の下で働きたい奴は明日、ここに来い。倒れている奴で同じ考えなら連れてこい。明日まで生きていれば、どんな怪我でも治してやる。いいな。」

 彼らに合意する以外の選択肢はなかった。

「明日、湯屋に行こう、お兄ちゃん!」

 ミヨは、宿の部屋で二人きりになると、宣言するように言った。

 ミヨは、ここに来て早々に、二人で食事をしている最中、カツマの横に座った商売女が、

「こんな臭い男女より、私の方が格段に良いわよ。」

と言って無理矢理、彼にしなだれかかったことに、まだ腹が立っていた。すぐに、

「私は臭い男女が好みの変態なんだよ。」

とカツマが切り返し、

「うちの夫は(キャー!言っちゃった!)、年寄りは好みじゃないのよ!」

とミヨは汚いものを見る目で言った。その女が、この辺の商売女の“顔”だったらしく、騒ぎが拡大して、何十人もの腕自慢の男女が、瞬時に叩きのめされることとなったのだ。やはり、というか、かなり気にしていた。”ここの湯屋は~“と、カツマは記憶を遡っていると、

「ねえ、お兄ちゃん!私、臭い?」

 ベッドの端に、カツマと並んで座った。僅かな部分だけを隠しただけの姿にだった。ぷ~んと臭いが鼻にはいる。臭いというより、欲情させる匂いだった。カツマも、下着姿だった。彼の臭いもミヨに届いた。

「あのエルフ女はいい匂いだった?」

 嫉妬していたが、それに興奮していた。その言葉に、彼女と同じように並んで、互いの臭いに欲情して抱き合ったことを思い出し、ミヨが他の男と抱き合っている姿を想像してしまった。

「ミヨのは、香りだよ。」

「私でいいんだよね。」

 そう言って、唇を少し開けて、潤んだ瞳で見つめられ、カツマは抵抗出来なかった。カツマが唇を近づけるのを感じてミヨはどうしようもなくなってしまった。二人は何度か心の中だけでは、踏みとどまろう、戻ろうと思ったが、体と本心はそのまま突き進んだ。激しく動き、声を出し、”最高にいい“と心の中で叫びあっていた。全てが終わって後悔はしたが、

「心は元の兄妹だけど、もう体の関係は清算されている…と思う。 

「そ、そうだよ、ね。」

ということにしてしまった。その後、また続けて愛し合うことになった。

「お兄ちゃんたら、もう死ぬかと思った。」

「ミヨこそ。」

「それだけ私を愛しているんだね。」

「勿論だ。ミヨもだよな?」

「うん。私達の愛は誰にも邪魔させないために」

「この世界を僕達のものにしよう。邪魔する奴等は蹴散らしてやろう。」

「うん。それからね、浮気は駄目だよ。」

「ミヨこそ。」

 二人は微笑ながら、手を握り合った。

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