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兄が、妹が大好き

“これ以上は不味い。”と感じて、二人は、体を離した。互いに荒い息づかいを整えてから、どちらかともなく、地面に座り込んだ。

「あれからどうしたんだ?」

「お兄ちゃんこそ、どうしたの?あれから。」

 兄の自分の方から話すべきかなと思い、口を開いた。

「どうも記憶が曖昧なんだ、北朝鮮あるいは韓国からのミサイルが爆発した後からこの世界に来た時まで間が。とにかく、異世界に勇者として転移させると誰からか言われて、どのくらいの時間が経過したかは分からないが、長く、或いは短時間か、全く分からない時間、特訓をさせられて、もういいだろうと、この世界に放り出されたんだ。」

「同じ。ん…、お兄ちゃん、裸でこの世界に現れたんでしょう?」

 いたずらそうな視線を兄に向けた。少し赤い顔をしつつ、切り返した。

「お前も?」

 真っ赤になって、

「す、直ぐ魔法で簡単な服を出したわ。」

 胸を押さえて、恥ずかしそうに文句を言った。簡単な服なら、魔法で二人は、即座にだすことができた。カツマは微笑して、それについてはそれ以上追求せず、

「同じだよ。森の中の夜道だから、野獣やら、盗賊に襲われるやらで大変だった。」

「勇者でなく、魔王だということが違うだけ。戦いとかやってきいるうちに、前にも言ったように魔王に、それから…え、え。」

 急に、涙目になっていた。

「どうした?」

「うわ~、私、私、汚れちゃった。お兄ちゃんが好きだったのに~、あんな奴等になんて~。お兄ちゃんに嫌われる~。」

と号泣し始めた。それを見て、驚き、慌てたが、直ぐに気を取り直して、

「ミヨ!そんなことで、お前を嫌いになるもんか!お前が本当に好きなんだ、お前が好きなんだ!処女が欲しかったんじゃない!お前が好きなんだ!」

 大きな声で、叫んで、妹を抱きしめて叫んだ。彼女は、涙目ながらも、心もち顔を上げて、心細そうな表情で、

「本当に?本当に私を嫌いにならない?」

 不安そうに見上げる顔は、この世のものとは念えないほどよ可愛いかった。

「勿論だよ。」

 嬉しそうに微笑んだ。それも、この上なく可愛いかった。兄を抱きしめ返した、幸せそうに。少したって、彼女の顔が怒っているものに変わった。

「ところでさ、お兄ちゃん。あのエルフ女やどこかの王女さま達に、鼻の下を伸ばしてもいたわけだね?」

 声も意地悪な感じになっていた。”しまった!ミヨは嫉妬深かった!“彼は心の底で叫んだ。”でも待てよ。”

「その前に、お前の周りには、僕なんかよりずっとイケメンな奴等がいたわけだけど。」 

“しまった。お兄ちゃんはひどい焼き餅焼きだった。”今度は、彼女が心の中で叫んだ。二人は困ったように見つめあった。先に折れたのは、カツマの方だった。

「ミヨが、いなくて寂しかったんだ。もう、ミヨがいるから、特別な感情なんかもうないし、今からは、ミヨしか見えないよ。」

 その言葉に安心したように、ニッコリと笑ってから、

「私だって寂しかったんだよ。あんな奴等、お兄ちゃんと比べたら、小石以下だよ~。」

と首根っこに抱きついた。

”でも、どうして、一目で分からなかった“という疑問は、口に出すと、また自分に返ってきそうなので、二人とも思いとどまった。

「もう一度。これからのことを相談しよう。」

「そうだね。」

と前向きなことで、そのことは有耶無耶にすることにした。探知結界を周囲に張りめぐらせた上で、二重の結界を張った中で、たき火を挟んで今後のことを話しあった。たき火をはさまないと、どうなるか不安を感じたからだった。二人の間には、まだ自制心があった。

「あいつの話しだと、そのまま拠点に出来るところは魔界にもなさそうだな。」

 彼は腕を組んで難しい顔をした。

「ごめん、お兄ちゃん。私がしっかりしていなくて。」

「そんなことはないよ。」

 しょげ返った妹を見て慌てて言った。その兄のフォローに、期待する妹の顔を見て、深呼吸を小さくしてから、

「前にも言ったけど、軍の編成でも、国の制度とかも、前魔王とは比べようもなく、手強いものになったと感じたよ。魔界に潜入した時には、日々小さなことなどでも随分進歩して脅威に感じていた。短時間でここまでやる魔王は、実に厄介な奴だと思っていたよ。人間達を利用したり、参考にしたりした、現場を担う部下がいても、上の奴が大した奴だから出来る。だから、心から恐れた、だから、人間達に団結を働きかけたんだ。短時間によくあれだけ出来たと思うよ。僕なんか、小さなことであくせくしていただけだったのとは、大違いだよ。」

 必死になって語った。語りながら、本当にそう思っていたということを思い出した。何とか倒そうと思っていた自分も思い出した。それにはゾッとした。あいつらが裏切ってくれてよかったとも考えた。小柄な裸身を思い出して、妹を見て、あいつがいなくなってよかったとも思っていた。そこまでゆくと、自己嫌悪を感じた。そんな兄の気持は分からなかったが、嬉しそうにしていた妹は、同様に兄である勇者を殺すことを考えていた自分に鳥肌がたつのを感じていた。そして、しみじみと

「私は魔王になっちゃったからよ、そう思えることが出来たのは。お兄ちゃんのことは、情報は集めていてね、徒手空拳で国々までもまとめ、整えて、軍事だけでなくね、という勇者を一番恐れたものよ。領地のことだって調べたわ、大した奴だと思っていたわ。お兄ちゃんは、本当に堅実で、立派にやっていたわ、たった一人で。」

 言っているうちに、彼女も熱が入りまくった。

「褒められ過ぎだね。でも、結局はしてやられたわけで、しかも、誰にやられたのかも分からない有様なんだよね。」

 兄が苦笑すると、妹もため息をついて

「私も同じ。そして何も残っていないのよ、魔王なんて言って。」

 急に心細くなり、このまま二人で隠れて静かに暮らした方がいいかという思いも浮かんだ。兄を、妹を危険な目に遭わせたくないとも思った。しかし、

「でも、誰だか分からないけど、あんな知恵者が見のがすとは思えないな。」

「そうよね。そういう頭のいいやつなら、私達の恐ろしさは分かっているしね。」

「それに、このままやられているのは、悔しいしな。」

「そうよ。結局やられたって、このまま引き下がるよりはいいわ!」

”こいつは負けず嫌いだった。“お兄ちゃんは、負けるのが一番嫌いだった。“

「とにかく、やってやる。」

が二人の結論だった。

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