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決戦。魔王と勇者は裏切られる

 戦いは、早朝、魔王軍の中央からの攻撃から始まった。大きな攻撃魔法や矢、投石、投げ槍が飛び交い、密集した騎馬隊、歩兵の槍隊、抜刀隊、魔法戦士がぶつかり合う。人間的達の軍は防戦をしつつも、次第に後退した。魔王軍の先鋒は遮二無二に突進してきた。このままでは崩れかねないため、勇者の一人が仲間達を率いて前線に立ったため、踏みとどまった。それを合図にしたように、双方の右翼が突撃を開始した。どちらの勢いも凄まじく、双方共に左翼はたちまち突き崩された。鏡を見ているように、方向を変え、互いに中央軍の横あいから突撃を開始する。中央軍はすぐに総崩れとなるが、互いに、同様な状況となってしまい、包囲に至らず、総崩れとなって退却する相手の軍への追撃はある程度行ったものの、殲滅させるには至らなかった。そして、両軍は体勢を整えるため、少し退き対峙する形となった。

 何人もの勇者が倒れ、多くの有力魔族が死んだ。両軍の戦死者は、かなりの数となった。

「魔王!今日こそ決着をつけてやる。」

「今日は、お前の顔を見る最後の日だ。」

 二人の聖剣と魔剣がぶつかり合った。高位のそれですら、二人の魔力で支えていなければ砕けかねないくらいだった。

 両軍は陣形を立て直して対峙していた。その夜、期せずして、両軍は大々的な夜襲を仕掛けた。結果、遭遇戦となり、両軍入り乱れての乱戦となった。自らの精鋭を引き連れて突入する魔王と勇者は、大きな魔力の方向に進んだから当然のことではあったが、真っ正面からぶつかり合った。お互いに相手の力量は知っていた。惜しみなく、大きな攻撃魔法を連射した。同時に複数の攻撃魔法を発動させながら、複数の防御結界を張りつつ、剣を凄まじい速さで振るった。剣で鍔迫り合いをしながらも、その至近距離ですら、攻撃魔法を発動した。周囲がはじけ飛ばされるほどの剣圧、魔圧が吹き荒れた。

「何時まで続くんだ!」

 二人が心の中で叫ぶほど、二人の闘いは続いた。ふと、相手の後方に気がついた。

「魔王!お前は部下からも見捨てられてしまったようだな!」

「勇者!お前の仲間はお前を捨てて逃げ出したぞ!」

 互いの言葉に、二人は目の前の相手を警戒しつつ、自分の後方を窺った。初め、自分達の闘いに近づくことすら出来ないため、遠巻きに様子をうかがって、心配しつつ見守っていると思おうとした。しかし、相手の後ろには誰もいない、互いに少しづつ移動しても、視野に自分の味方は入らなかった。”何かおかしい。“そう思った時、頭の上に強い魔力を感じた。

「おい、魔王。」

「なんだ?勇者?」

「どうもおかしい。一時休戦して、協力して、身を守らないか?」

「我も、同じことを考えていたところだ。その申し出を受けてやるぞ。」

 上空の魔力は、急速に強くなってゆき、渦巻く雲のような形をとると、この下の周囲は結界のようになり、上空から得体の知れない力が落ちてきて、周囲を包み込むと、結界は徐々に狭まっていった。そして、周囲100mは巨大な穴だけが残っているだけだった。

「気を付けなよ。あいつ、まだ生きているかもしれないからね。強さだけは、半端じゃない奴だからね。」

 ハイエルフの女が、用心深く周囲を視ながら言った。

「おいおい、あの男と恋仲だったんじゃなかったのかい?」

 後ろの髭面の大男の戦士が呆れたように尋ねた。彼も注意深く周囲を見回していた。他に何人も周囲を見回していた。少し離れたところに魔族の一団がいたが、彼らを襲うつもりは全くないようで、同様にあたりを探すように動きまわっていた。

「お~い。ここら辺は、何も見当たらないようだ。それに、もう暗いから戻ろう。」

 その声に、ハイエルフの女の顔が、ぱっと輝くのを髭面の戦士は見て肩をすくめた。声の主は、若い聖騎士だった。

「そうね。魔族達が、何時気が変わって襲いかかってくるかもしれないしね。」

 彼女は、彼の傍に駆けよった。聖騎士の彼女を見る表情も、恋人を見るようだった。髭面は、また、大きく溜め息をついた。彼女はそれを見逃さなかった。

「何よ。あんたは、奴とは何年ものつき合いで、奴に引き上げられたんでしょう。そんな溜め息をつくくらいなら、あいつを助けていればよかったでしょ。」

 顔が歪まないようにしながら、冷たく言い放った。彼は顔をそむけて、彼女の言葉には答えずに、

「あの旦那に肩入れしていた姫さんは、どうなのかね?」

 誰に聴かせるでもなく呟いた。

「せいせいしてるわよ。」

「上のことは分からないが、肩入れしていたのはあの姫様だけではなかったはずだが、誰も反対はしていなかったはずだ。苦しい立場に立っていたからね。今では、違う意味で苦しい立場に立っているがね。」

 彼は、自分の腕をつかんで寄り添ハイエルフの女を連れながら、周囲の兵を集めて、その場を立ち去った。

 一方、魔族の側も人間達が引き上げるのを見て、自分達も引き上げることにした。

「しかし、あの魔神女、ちゃんと死んだんだろうな?」

 貴族風の牛頭の男は、かなり不安そうだった。同族らしい女が、肩に手を置いた。

「魔道士、それも高位の1000人が合力して、人間達の同じくらいの魔力も合わせての攻撃だよ。いくら、あの化け物の売女だってひとたまりもないわよ。」

 そのやり取りは、とうの二人の耳に届いていた。

「偽勇者。お前は人望がないな。」

「他人のことが言えるか。酷い言われようじゃないか、魔王モドキ。」

 二人は、一㎞ほど離れた、堀の中に穿かれた小さな穴の中から、遠目と遠耳の魔法でもって様子をうかがっていた。

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