春への期待
春になるとなんかうきうきして、楽しそうなことが待っている気がしますよね。
「もう春だというのに」
何かを待っている
或いは
起こり得る奇跡を待っている
強風の荒れるなか
ふと思いだす
残るほどの大雪は
三月に入ってから訪れるのか
待つことに慣れた心は
少しばかりの焦りを気にはしないけれど
またもや雪に閉ざされることの絶望は
光が強くなるこの頃には
心に重い
もう春だというのに
「毎年、この頃のお約束」
三月の声を聴くと
ある人を思い出す
時間の流れに溶け込んで
ずっと流れた過去
細い銀の糸をたどると
シミのように現れる
悲しい思い出
思いだしたくなくて
忘却の世界へしまい込んでいても
この頃になると
こんにちは、と顔を出して
毎年のことだから
毎冬のことだから
寒さに震えるころだから
春をじっと待っているときだから
三月の声を聴くと
ある人を思い出す
時の流れの忘れ物
田んぼの
浅い水の青さのような
小さな面影の人
「つくしんぼの生えるところ」
野原に久しぶりに出ていく
曇っているけれど
枯れ草の裏の
春を見つけるには
充分すぎる光
グレーの光が照らす
土色のそこには
春はいなかった
ただ
モグラのトンネルの
入り口があって
ずっと続くトンネルを辿って
見回してみると
裸木に囲まれた
小池があった
灰色の中の青いオアシス
時は過去の春へつながる
静まり返ったこの辺りには
もうすぐ
土の子が伸びあがる
つくしんぼ
可愛い名前のおまえ
家でじっとしてるより外に出たほうがいいよって、あの頃の私に言ってあげたい気持ちがしますが。机の前でずっと、ぐずぐずしてたんですよね。