いつものことのリトミーク
この頃の私は詩を書くことがうれしくて仕方なかったのでしょうね。繰り返し、繰り返し春になったことを喜んでいました。読む側の皆様にとれば、なに、おんなじことを書いてんだ!ってことでしょうけど・・・
「赤ちゃんのように」
頭の中のすべてのものが
外へみんな飛び出すと
残るものは何にもないのかな
もし
残った体が赤ちゃんみたいなら
何もかもが目新しくて
何もかも新鮮に見えるなら
くりくり目玉を見開いて
心の底から笑ったり
心の底から泣いてみたり
いやいやと身をよじったり
眼を大きく見開いて
太陽を見たいなと思ったり
きっと眩しくないんじゃないの
ほほを赤く染めたりして
優しい手にい抱かれて
すやすや、すやすや眠りたい
ずっと抱かれて眠りたい
「どこかにいる春よ来い」
家の中のすべてが眠った後
ひとり起きていると
蛍光灯と時計の時を刻む音が
やけに大きい
ほかの音は吸収されて
静まり返っている
ただ一人
心の中のたくさんの世界を
あっち、こっちと彷徨うと
急に寂しくなることがある
外に出て星を眺め
窓の外のずっと遠くを眺め
眼を細く、細くする
時の重さに息が詰まり
過去の深さに目をしばたたく
春のひとかけらを求めて
野に出て行っても
まだ冬のあとは残る
海の青さと
空の青さと
山の青さと
すべて冬のにおいが漂っているようだ
頭の中のかび臭い空気を
追い出すにはどうすべきか
春を呼んでくればいい
春よ来い
どこを彷徨っているんだい?
「絵の世界に遊ぶ」
せわしなく動かす絵筆のもと
心の世界は広がる
時を超え
空間を超え
固定される
色彩の変化は心の移り
極彩色は決心
清色は願い
暗色系は困惑
明色系は希望
色彩の流れは思考
断片は死
数々の色と
数々の形と
さまざまな筆を使って
心はカンバスの上に縛られる
小宇宙の中の私が
色彩の中で泳ぎ回れる
灰色の中でリズムが舞う
光が差し
音が映り
すべては移される
一枚の宇宙の中に
永遠のかなたから
存在し続けてきたもの
そして永遠の時
それをそれを閉じ込めてみたい
そしたら気持ちがいいだろう
「ポカリ、ポカリと春になる」
枯れ草の波の一角に
黒々とした土手焼きのあと
草に隠れていたモグラのトンネルと
緑色の地に這っている草
黒く煤けた小さな木の芽
すべて柔らかい光がいっぱい
枯れた葦のそばの
燃え残りの灰が小さな波紋を作る
小さな池
空は薄く曇って
しばらく続いた日和で
すっかり春になったみたい
遠くの工場の煙も静かに登るし
海も、山も、野原も
冬の厳しい青さを脱いだみたい
水もすっかりぬるんで
今日も釣り人がいる
近所の子らが
そこいらの池にタモを突っ込んでいる
のんびり、欠伸がでそうだな
うーーーんと背伸びをすると
なんだか背丈が十センチは伸びたみたい
「二羽の白い鳥」
薄く曇って
灰色の光が零れてる
黒く土手焼きを済ましたすぐ下の田んぼ
もうすっかり水もぬるんでいるだろうに
二羽の白い鳥
スッと飛んできて舞い降りる
どこから来たのか知らない
雌か雄か知らない
二羽の白い鳥
ほかの仲間はいないのか
北の国に帰るところなのかな
もう、直ぐにここから離れるさ
迷子になったのかな
まだ今年生まれたばかりかな
風は暖かく
水はぬるんで
きっと居心地悪いんだ
もうすぐに
北の国に帰るんだよね
もうちょっとだけ見ていたいけど
「明日になったら聞いてみよう」
春かな、冬かな
空の星は寒そうに瞬いている
冷たい風も
周りから舞い立つ
けど
真冬の北風ほどには厳しくない
ただ
海の向こうの山は冬の青
春の青と冬の青を混ぜて
かき混ぜて
インクの青を落としたよう
春とも冬とも違う
もっと違う今日
土手焼きの跡の
地面にひたと這っていた草も
せっかく体をもたげたのに
まだ早いのかな
春かな、冬かな
木に囲まれた小池も知らない
水面に映る空も知らない
明日になったらわかるかな
ネコヤナギの芽に聞いてみよう
たぶん知ってる
振り返ってみると、この頃の私は、狭い世界の中で、じっとしてるのが日常だったようです。詩の中で使う言葉も、目新しさがなく、かといって深刻さも影を潜めて、たぶん、ちょっとだけ幸せな時期を迎えたのでしょうかね。




