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白雪姫は毒林檎がお好きな模様  作者: 宮下龍美
第2章 救済と克服と自覚
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第41話

 我が校のテニスコートは、第三校舎の裏、運動場に面したところにある。テニス部でもなければ、体育の選択でテニスを選ばない僕はまず近づかないような場所だ。

 故に、今日この日、文化祭という日では、校内で最も人の近づかない場所とも言えるだろう。因みに文芸部の部室から見下ろせたり出来るのだが、部室を任せた後輩二人は部誌を売り捌くのに忙しいだろうし、誰もこのテニスコート前での出来事を見ていないだろう。

 僕達二人を除いては。


「いたっ······!」

「静かにしてなさいよ。バレたら台無しなんだから」


 テニスコートの前には我が親友、三枝秋斗と、親愛なる先輩にして文芸部部長、神楽坂紅葉先輩が、向かい合うようにして立っている。二人とも、既にこの時点で顔が真っ赤だ。

 三枝はこれから言うであろう言葉に緊張して。神楽坂先輩は多分、言われるであろう言葉を察して。


「まだ告白してないよな?」

「あの様子だとまだでしょうね」


 僕と白雪は校舎の影に身を潜めながら、そんな二人を見守っていた。出歯亀もいいとこではあるけど、気になるものは気になるのだから仕方がない。


「も、紅葉先輩っ!」

「ひゃいっ!」


 この距離であれば、いつかのショッピングモールとは違ってしっかり声も聞き取れる。

 裏返った二人の声はそれなりに大きいので、何かの拍子に通り過ぎた人に聞こえたりしないかちょっと心配だ。


「あ、あの、俺······!」

「ちょ、ちょっと待って秋斗君!」


 ついに、と言うタイミングで、神楽坂先輩から待ったがかかった。

 先輩はもう耳まで赤くしていて、ここから見ていても余裕がなさそうだ。もしかして怖気付いたとか?


「そ、その、心の準備が······」

「あ、そう、ですよね······」


 でっかい体を萎縮させる三枝と、セミロングの髪を揺らしながら俯く先輩。

 なんだこの二人。じれったいにも程があるだろう。さっさと告白してさっさとくっ付けよ。


「見てらんないわね······」

「同感だ······」


 正直、お互いにここまで分かりやすい反応をしていると、もう別に告白しなくてもいいのではないのかと思ってしまう。

 だが現実はそうもいかず。すーはーと大きく深呼吸した神楽坂先輩が、ついに先を促した。


「えっと······。ど、どうぞ······」

「はい······」


 今度は三枝が大きく深呼吸。いいから早く言えよ。


「えっと。お、俺、紅葉先輩のことが──」

「あれ、三枝先輩?」


 漸くと言うところで、頭上から声がかかった。僕と白雪、三枝と神楽坂先輩が声の方に視線をやると、そこには文芸部の部室から顔を覗かせた小泉が。

 小泉は三枝と神楽坂先輩の二人を見て色々と察したのか、「す、すみませんお邪魔しましたぁ!」とか言って顔を引っ込めた。


「あのバカ······」

「おチビさんには後でお仕置きね······」


 うふふと笑う白雪が怖い。頼むからお手柔らかにしてやってくれよ。


「えっと、さっきの子は?」

「あー、中学ん時の後輩です。つっても、智樹の後輩ですけど······」

「そ、そっか。どうして部室にいるんだろうね······?」

「な、なんででしょうね······」


 ごめん。僕が樋山と小泉の二人に店番頼んじゃったんだ。本当ごめん。


「そ、それでですね、先輩······」

「あ、うん······」

「あの、俺、先輩のこと······」


 そこで一拍置いて、三枝はもう一度深く息を吸う。そして吸い込んだ息と共に、想いの丈を吐き出した。


「先輩のことが好きです! 俺と、付き合ってください!」


 ゴクリ、と息を飲んでしまう。隣でも、白雪が固唾を飲んで硬直した二人を見守っている。

 想いを告げた三枝も、告げられた先輩も、まるで時が止まったかのように動かない。先輩の答えは決まっているはずだ。中々答えないのは、三枝の言葉を心の中で噛みしめているからだろうか。

 そして赤い顔の先輩が笑みを浮かべたところで。


「おい夏目、白雪。お前らそんなとこでなにしとんや」


 今度は、僕達の背後から特徴的な関西弁が聞こえてきた。この学校で関西弁を使う人なんて一人しかいない。

 白雪と二人して振り返った先には、予想通り文芸部の顧問、大黒先生がそこにいた。


「せ、先生、よりにもよってなんでこんなタイミングで······!」

「智樹?」


 そして次に、親友の声が聞こえた。

 恐る恐るまた振り返ってみると、三枝と神楽坂先輩は僕と白雪をしっかりと視認していた。隣では白雪が呆れたようにコメカミに手を当てている。呑気だなおい。


「なんや、三枝と神楽坂もおるんか。こんなとこでなにやっとんねん」

「いや先生、これはですね······」

「お前ら覗いてたのか······」

「夏目がどうしてもって言うから」

「おい白雪。人を売るなよ君も乗り気だったじゃないか」


 神楽坂先輩は苦笑していて、三枝は恥ずかしそうに顔を手で押さえている。二人ともやっぱりその顔は真っ赤で、なんだか途端に罪悪感が湧いてきた。


「なにやっとんのか知らんけど、お前ら部員でもない一年生に店番任すとかアホか。さっさと部室戻れ」

「いや先生今ちょっといいとこなんで待ってください」

「んなもんオレが知るか」


 よ、容赦がなさすぎる······。助けを求めるつもりで白雪に視線を投げるも、彼女は知らんぷりを決め込むつもりらしい。こちらなど見向きもしていない。


「ほれ、三枝と神楽坂も部室戻んぞ」

「うっす······」

「は、はい」


 完全に意気消沈してしまっている三枝。やばいめちゃくちゃ申し訳ない。


「来ない方が良かったわね」

「あとで謝らないとなぁ······」


 井坂の言う通り、馬に蹴られてしまいそうだ。三枝は折角勇気を振り絞り想いを伝えたと言うのに、その返事も貰えずにお終いとかあんまりだろう。


「あ、秋斗君っ!」


 全員で部室に戻ろうとしたその時、神楽坂先輩が突然大きな声で三枝を呼んだ。僕と白雪も、大黒先生も、勿論呼ばれた三枝も、全員が先輩の方に振り向く。

 先輩はまるで余裕がなさそうに、顔をその名前と同じ紅葉のように赤く染め上げていて。


「わ、わたしも、秋斗君のこと、大好きだからっ!」


 あまりにも唐突に、三枝を呼んだ時よりも大きな声で、神楽坂先輩はその想いを吐き出した。

 誰もがなにも言えない中、大黒先生の「ああ、なんやそう言うことか」と言う声だけが聞こえる。ちょっと黙っててください。


「さ、先に部室戻ってるね!」


 沈黙に耐えられなかったのか、神楽坂先輩はダッシュでこの場を去っていく。

 僕も三枝も、白雪までもが呆気にとられてその後ろ姿を見ることしか出来なかった。


「青春しとるなぁ」

「先生、もう少し空気読んでください」


 カカカッと笑う先生の声と、呆れたような白雪のため息がこの場に響く。

 さて一方の我が親友はと言うと。


「なあ智樹」

「どうした親友」

「俺、今なら幸せすぎて死ねるかも」

「そうかなら遠慮なく死んでくれ」

「覗いてたくせに酷くないか⁉︎」


 煩い。結局告白は上手くいったんだからもういいだろう。

 取り敢えず、親友のこれからの幸せを願って、リア充爆発しろ。とでも言っておこうか。

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