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Dフェイブル ≪Don't dead dreams dive Fable≫  作者: 白黒源氏
【魔術師編】
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【魔術師編】19


 ミッドガルドに向かっている最中。今後の展開を考えながら歩いていると二頭の馬が引く馬車が現れ、ナクアが声を掛けてきた。どうやら上手く作戦は行ったらしい。



「大智、お待たせしました」


「別に待ってないよ。むしろ【ミッドガルド】で合流しようって話したんだ。丁度良いくらいだよ」

「色々がんばって疲れました。私、寝ずにがんばったので交替して欲しいです」

「口についてるパンくずを取ってから寝ろよ」

「わーい。大智大好きです」

「おう、ハグしてやろうか」

「え、ちょっと勘弁してください気持ち悪いですね」

「……なぜだろう。とても泣きたくなってくる」

「誰の所為ですか? 大智を困らせるとは良い度胸ですね。絞めてきます」

「お前だ、おまえ」



 ナクアは休息の為に馬車の荷台で丸まって眠り、俺は馬車を動かそうと思ったが、停止方法がわからないと気付いて走らせるのはやめた。適当に草でも食って休んでてもらおう。


 それからしばらくゆっくりした後、ナクアが目を覚まして再度出発した。


 それから事情を説明し、ロインと合流する為に【ミッドガルド】へ進路をお願いした。


 二日かけての都港【アルト】から廃墟の街【ミッドガルド】への再度訪問となったが、目印になる場所がほぼ皆無だった。


 少しだけ迷い、丘に登ってやっと【ミッドガルド】跡地をやっと発見できた。


 ジュリアスは見事に街を破壊して過ぎ去ったようだ。本当に災害みたいな能力だった。



「他の【始祖の眷属】も、こんなにやばいんだろうか……」

「何か言いたい事でも?」

「……。先に宣言しておく必要があると思ってさ」


 やはり、この問題は避け続けるのはよくないと思う。他ならぬ、俺自身が招いたことだ。


「今後、【始祖の眷属】は見つけ次第、最優先で討伐したい。この旅の目的はお前の故郷を目指す事だ。でも、やっぱり放っておく訳にはいけない」


「……それは、また厄介ごとに首を突っ込むと?」


「ごめん。旅の終わりが遠くなるけど、いいかな?」


「そんな事は気にしてません。ですが、手伝わせてください」



 意外な返答だった。手伝いを断る理由は一杯あるが、ナクアがわざわざそれを言い出すという事は、きっと何か意味がある気がした。


「一応、理由を聞いて良いか?」

「大智がまた泣かないか心配です」

「泣いてない」

「えーほんとですかー?」

「泣いてない。よしんば目から水が出てたとしても、それは断じて泣いてない」

「それはもはや泣いているのでは?」



 守る存在に心配されている。それだけで俺のハリボテのプライドがペシャンコだ。さらば俺のプライドよ。また作り直すから今度がんばってくれ。



 ちゃんと断れるだけの強い男になってから、手伝いはご遠慮しようと思う。



「まあ、あんまり気は進まないけど、よろしく頼むよ」

「任せてください。あ、それから大智――」



 その後、短い間だったが盗賊のアジトでの事を聞いた。魔法の詠唱短縮が出来たこと。それからビルゲインという男の末路も。


 可哀想に。きっと彼にはナクアが悪魔の使いか悪魔そのものに見えただろう。無事に供養されます様にと他人事で祈っておいた。


 俺もそんなことされたら本当に泣きそうだ。……今のうちに対策を考えておこう。




【ミッドガルド】に到着すると、ロイン達が待っていた。皆、粉々になった街の上で、うな垂れていた。



「待たせたな。とりあえず、腹減ってるだろ。ナクア」

「ええ。はいはい。まあこうなるとは思ってましたよ」



 しぶしぶ、ナクアが盗賊の拠点から奪ってきた食料を取り出してきた。途中で狩りでもやれたらよかったが、見つからないのだからしょうがない。



「ロイン、ここに居る連中で全員か?」


「そうだ」



 ロイン、ロゼッタ、他に【アルト】で見た五人、それから待っていた連中が三人程……計十人か。

 確か元々は五十人くらいをいたんだったか。


「……減ったな」

「まだマシだ」

「そうだな。とりあえず、飯食え」



 ナクアが持ってきた道具の中に、大きな寸胴があった。でかい鍋だ。ジャック爺さんから貰ったものより、こちらで調理した方が今回は良いだろう。


 今回手に入れた材料を全部使うつもりで、鍋を作る。


 水瓶の中身も空っぽにして、野菜をナクアに切ってもらい、鍋に突っ込んで火をつける。


 荷物に根野菜が多いのは日持ちするからだろうな。葉野菜はすぐに腐る。美味いんだけれどね。あれは土からとったらすぐに食すべき食材だ。


 それから天からの授かりモノ、お塩。

 これ一つまみで味にパンチが生まれる。既に勝利したような物だ。塩は疲れた体に活力を与えてくれる。普段よりも少しだけ多めに入れてやれば味は引き立つだろう。


 さらに塩は調理時間の短縮に繋がる。特に根野菜には絶対に俺は使う。塩を入れると野菜は水分移動がしやすくなる。結果、火の通りが速くなるのだ。


 それから、なんと言っても干し肉があるのがいい。どうやら塩を塗した天日干しのようだ。味見してみると、悪くない。スープに入れて硬さを抜いてやろう。多分、相性はいいだろう。


 硬い黒パンは砕いて最後に乗せよう。これ、味見してみると相当に不味かった。焦げを喰ってみるみたいだった。


 やはり保存食か。中世のパンはマズイと聞いた事があったが、それは保存期間を永く出来る為に工夫した結果だ。その結果、ネズミも虫も食わぬパンになった訳だ。俺達もできれば食べたくないが、今回は調味料として扱う。



 今まで食べてきたパンはやはり庶民向けではなかったようだ。



 そして出来上がったのが、どこかで覚えのあるポトフみたいな野菜スープだ。いつかの爺さんよりもクオリティは低いが、今はこれで精一杯だ。胡椒も手に入れないとな。俺の心の中のジジイが口から光を出して『うまいぞおおお!』と叫ぶ日はそれからだ。



 器は、どうしたもんかと思っていると、ナクアがいつの間にか穴を作って焼き器を作っていた。即興らしいが、上手い事出来ていた。


「詰めが甘いですね」と自慢げに言われた。もうナクア様に頭が上がりません。



 そうやって全員、欠食児童並に食べてくれた。まあこういう時は腹でも満たせば不安も一時は忘れるさ。



「ロゼッタ、ごめんな。ちょっと良いか?」

「……うん」


 こちらは相変わらず暗い顔をしていた。


 話に聞いていた通り、片足を失っていた。ロインと同じ、利き手側の右だ。



「……どうしたら良いと思う?」


 ロインが行き迷う様に聞いてきた。


「そうだな……。ロインみたいに魔技で手足の擬態って出来ないのか?」


「ロゼの適正は炎だ。俺と同じ使い方は出来ない」


「炎か。足の代わりになりそうなイメージは無理だな」



 一応、必殺の名案……の様な事は考えていた。


 生命力という魔技を駆使すれば、失った足を再生できるのではないか。実際、俺の体は何度も切られたりバラバラになった。その度に自分の体は再生しているんだから、不可能じゃあない気がした。


 既にこの話はナクアと相談したが、しかし難しい顔をされた。


 解答は、他人の人体を正確に治療できるほどの魔素の制御ができるのかどうか、だった。


 確かに植物や木を生み出すだけなら既に出来るが、細かいコントロールはまだできない。いずれは出来るようになればいいだろうが、今は早計だとも思える。



 じゃあ、その出来るまでの間に代案が必要なのだが、さてどうしたものか。


「じゃあ義足を作ってみるのはどうだ?」

「義足? なんだそれ?」


 知らないのか。いや、そもそもそういう発想がこの世界にもあるのだろうか。



「ナクア、義足ってわかるか? こう、足の代わりを木とか鉄でつくる、人形みたいな感じの」


「うーん。人形の足ですか。イメージは出来ましたが、自在に動かす事なんて出来ませんよ?」


「そんな自動人形(オートマタ)みたいな技術は高望みしすぎだ。ちょっと関節が動く程度でいいだろ」


「なら簡単ですね。大智、良い木を作ってください。ちょっと作ってみます」



 いつにも増してナクアがやる気を見せていた。とりあえず程よい木材を作ろうと、元から硬くて乾燥した木をイメージして作ってみた。


 ロインはいきなり作業を始めたのに驚いたのか困惑していた。


「おい、どういう事なんだ? 勝手に決めていくなよ」


「すまん。どうせなら実物見せた方が早いと思ってさ。ナクア、いつ頃出来そうだ?」


「即興でいいのでしたら一時間ほどで。子供の足なんて小さいですしね」


「お前が優秀すぎて怖いわ」



 さて、義足はナクアに任せて、次の事でも進めておこうか。


「足に関しては義足が出来てからまた判断してくれ。他にも手段は考えてるから」


「あ、ああ。何が何だかわからないが、助かる。でも、これじゃあ俺達は何も考えていないんだが」


「決めればいいんだよ。使うか使わないかは自由だからな。それに話はこれだけじゃあないだろ? 今後どうするかも決めよう」



 ロインの表情が困ったモノから難しいのに戻った。


 何せその話しも死活問題だ。今後の運命を左右する事でもある。



「……お前たちはどうするんだ?」


「そういえば言ってなかったな。俺達西の最果ての魔境と呼ばれる土地に行くんだ」


「魔境? 何故そんなところへ……」


「里帰りって奴だ」


「なるほど……。そこには魔族がいるのか?」


「たぶんな」



 そこに居るのが良い奴等かどうかはわからないが、今は目指すしかない。



「……ちょっと、皆と話してくる」

「わかった。ロゼッタは?」

「お兄ちゃんについてく」



 そう言って、片足で飛ぶように兄の後ろを付いて行くつもりをしていた。それを察したロインが止め、ロゼッタを抱きかかえてみんなの元へと行った。



 俺だけが手空きになった状態だった。何もすることがないので周辺を見まわしていると、馬が走って来る音が聞こえてきた。突然の音に、周囲の全員が一旦動くのをやめ、その存在を凝視した。


「……聖騎士だ」


 誰が言ったか、一頭は誰も乗っていないが、もう一頭は軽装の鎧を着た人物が乗っていた。


 誰もが逃げようと言い出していた。【アルト】が襲われ、追い打ちに来たのだと感じていたのだろう。



 しかし様子がおかしい。騎士は一人しかいない。しかも旅でもするのか、馬に荷物が多く積載されている。


 俺だけはその騎手が誰なのか気が付いた。




 ジェラルドだ。


 しかも隣を走っている馬は、見覚えのある馬だ。


「バリオス?」


 バリオスがいち早く俺の前までやって来ると顔を触って欲しそうに頬をぶつけてきた。俺の顔なんて忘れてると思っていたのに。


 それに、どうしてここへジェラルドが着たんだ。


 お蔭で周りの連中も、騎士が着た事で物陰に隠れた。唯一この場に残っているのは、俺とナクアと、逃げ遅れたロゼッタに、それを匿っているロインくらいだ。


「ずいぶんと探し回ったよ。何処へ行ったのかわからなかったからね」


「俺なんか追いかけてきて、どうしたんだ。因縁でも果たしにきたか?」



 そんな気分でもないし、受けて立つ余裕も無かった。


 だがジェラルドは硬い表情をしたまま、馬を降りて俺と向き合っていた。


「……答えをまだ、聞いていない。何故、キミは今でも姿を偽っているんだ?」

「まだそんな事気にしてたのかよ」



 なんだったらこの場で指輪を外して実践してみた。するとどうだろう。一度は見られたはずの連中から、恐怖の声が多数漏れていた。


 バリオスなんて気が狂った様に俺を蹴り飛ばそうとして、その後ナクアの方へ走って逃げだしていた。


 黒金の様な体は実際に鋼鉄の様に硬いし、赤い光る線が走っているのは変わらない。この姿を人間だと思う奴はいないし、魔族だとか化物だとか、そう思う方が自然だ。



「お前はこの姿を見て、味方だと思うか?」


「……そう、だったのか。そう言えば、そうだったね。キミは僕たちを助けてくれたんだった。それを忘れていたんだ」


「何が言いたいんだ?」


「ありがとう、僕らを助けてくれて。それからすまなかった、キミには酷い事を言ってしまった」



 いきなりどうしたんだと俺が困惑させられた。何がどうしてそういう考えに行き着いたんだ。



「僕は、自分の考えばかりに囚われていた。正直、キミに裏切られたと思った時、頭の中で整理ができなかったんだ。どうしてそんな事をキミがと思っていた」


「……ああ、なるほど。そういう事か」



 つまりは、あの時の激怒は、俺が体験したことと同じだったという事か。


 自分の想像を超える状況が現実に起きて、頭の中が自分で処理できない未開封の箱が埋め尽くされていく感じ。


 どうすればいいのか、わからなくなる。わからないから、余計に腹が立つし、憤る。



「お前は悪くないよ。俺が騙してたのは事実だ。原因はそれだ」


「でもそれは、仕方がないからやっていた事だろう?」


「それはそうだけど――……いや、もういい。というかこの話はもうやめにしよう。これ、お互いが自滅し合ってる」



 なんだかどこかで記憶のある掛け合いだったな。


「俺は自分が悪いと思ってるし、お前も打ち明けなかった理由がわかった。それで終わっちまおう」


「それ、結局キミが悪い事になってないか?」


「答えは人それぞれだよ、ジェラルド君。何度も同じ事を繰り返し言わせるな」


「……答えは自分で得るもの、か」


 何を得意げに自分の言葉みたいに言っているんだか。これは他人の言葉だ。ペテン師も様になってきてしまったな。


 指輪を付け直して女性の人間の姿に戻った。こうでもしなければ、周りの連中が不安がってしまう。



「で、ジェラさん。貴方は大智――ガイアと和解する為にここまで来たのですか?」


「それもあるけど、頼みがあってね。キミ達の旅に、僕も同行してもいいだろうか?」



 ……それこそ訳が分からない。一体どうしてそうなった。



「いきなりだな……。家は良いのかよ? お前には貴族としての責任があるだろ。そもそも俺達は魔人側だ。人間の敵になるぞ」


 それはジェラルドの最も嫌いな裏切りを意味することになる。だがジェラルドは吹っ切ったような顔で言い切った。



「人間よりも、キミを裏切りたくない」



 それがジェラルドの答えだった。


 なんだろう。どうしてそんな答えに至ったのか、俺にはわからない。だけどそんな事よりも、ジェラルドがそう言ってくれたことが、何よりもうれしかった。


 思い悩んでいた事なんか忘れて、すっかり気が晴れた。




 でも気になる事はある。


 あの人畜無害なジェラルドさんが『人間よりも』なんて、随分な変化だった。


「何かあったのか?」


「少しばかり、修復不可能な家庭不和が我が家を襲ってね」


「……父親と何かあったのか?」


「多少、自分の常識や価値観が一掃される程には」


「立派な大事件じゃないか」



 いったい何があった。ジェイド伯爵、いろいろやらかしてきた人物だが、心配になる。……いや、それほど心配でもないか。俺の中では既に終わった事だ。


 もう二度とジェイドのオッサンには会わない。そう考えれば特になにかを心配する事も無かった。



「そういえばモーガン卿の所へ誘われてただろ? あっちはいいのか?」

「それだと、キミへの恩が返せないだろう?」

「……俺に恩なんてないだろ」

「ガイアの中ではないけれど、僕の中ではあるんだ」

「ああ、そうですか」



 上手い事、使いこなすもんだな。


 答えは人それぞれだ。それを頭ごなしに否定する程、俺も愚かにはなりたくない。


(……愚かになりたくない、か。何をすればそうなるのか、それがわかる程度には、俺も成長できたという事だろうか)


 少しずつ、だな。



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