【魔術師編】18 Burial The Devil
最悪だ。計画が全て狂った。
しかも、その上、赤い服を着た修道女のクソ女に――コケにされ尽された!!
「グギギギギ! ユルザネエ! ゼッテエぶっ殺してやるうぅぅ!!」
大樹によって締め付けられていた体はビクとも動かない。本当は使いたくなかったが、魔技を使った。
体の至る所から刃を作り出す。俺は武器を作る魔技の持っていた。
魔技を使うのなんて二度とゴメンだった。
これをすると、自分が化物になったみたいでイライラする。冗談じゃあねえ。あんな人外共と一緒でたまるものか。
大量の植物が埋め尽くした宿屋を出て、太陽の光を浴びた。それがまた無性にムカついてしょうがなかった。
右の足が歩を進めるたびに激痛がする。さっきの締め付けで足首をやられていたようだ。
咄嗟に自分の魔技で骨を折るような音を出したら、あの野朗はそれを聞いて、殺すのをためらい、臆してやめた。どうやらアマちゃんのようだ。次に遭遇したらそれをカモに今度こそひん剥いてやろうと決意した。
だが今は治療が必要だ。休息もだ。
何とかしてアジトにも戻らねえと、女も抱けない。さっきまで、部下と遊んでただけなのに。俺がいったい何をしたっていうんだ。神様の野朗、もし会う機会があるのなら文句を言ってやる。
丁度、宿の角を曲がったところに、都合良く馬が一頭、止まってた。
ツイてると思った。飛びつく勢いで馬に乗ると、息を相当に切らしていた駄馬だった。
「誰だ、こんなに酷い乗り方させた奴ぁ。クッタクタのボロウマじゃあねえか」
無理やりケツを叩いて進ませたが、相当に遅い。これじゃあ歩いているのと変わらない速度だった。だが、怪我をした足でアジトに帰るよりはマシだった。
街を抜け、街道を抜け、森の端を進ませた。
休憩も挟まず、ただ黙々と馬を歩かせ続けた。脚が痛い。一秒でも早くアジトに帰りたかった。
「クソ、さっさと走りやがれってんだ、この駄馬!!」
しかし、そうすると今度は完全に足を止めてしまった。もうウントモスンとも言わない。限界だった。
「くそったれ……テメエなんかどっかの魔獣に食われちまえ!!」
落ちていた枝を取り、杖代わりにそれで歩き続けようと考えた。だが、馬に乗って行った方がやはり楽なのではないかと考え直し、馬を捨てた場所へ戻った。
が、馬は突然前足を振り下ろし、悲鳴のような威嚇をした後、そのまま遠くへ走り去った。
「ちっくしょうが! この薄情モノがああ!!」
地面を叩いて、怒りをぶつけた。
疲れたので、今日はそこで休んだ。
次の明くる日。
腹が立つが、しかたないから魔技で足を固定する道具を作って、アジトに向かった。
足を引きずって、やっとの事、夕方に辿り着いた。
アジトは【ミッドガルド】と【アルト】の間、西の方角の山林に位置する。そこには崖の壁があり、部下に穴掘らせて拠点にしていた。そこには予備の馬も、食料も、宝石機で傷を癒す道具もある。
これをロインが知れば咽喉から手が出るんだろうな。ロゼッタは気の毒だ。あんな頼りない身内しかいないのだから。
そもそもこの宝石機は傷を癒せても、失った体の一部、足なんか治るものじゃあない。精々自己再生能力を促進させるだけだ。それでも三度しか使えない上に、かなり高価だ。
このお宝を手に入れたのだって、相当運が良かったのだ。次は二度とないかもしれない。
そんな貴重品を誰かに使われてたまるか。
「良い場所に居を構えていらっしゃるようですね」
心臓が飛び出るかと思った。
暗がりの洞窟の中、出入り口に一人の子供の様な姿をした何かが立っていた。
「それにしても臭いですね。貴方は気にならないのですか?」
赤い目を煌々とさせた、白い肌に白い髪の化物が、貴族の令嬢が着る服なんぞ身にまとっていた。
不気味だ。それどころか、この態度。人を人とも思ってい無さそうなこの目。
気味がわりい。
いや、そんな事より、どうしてこの場所がばれたんだ。
「な、なんだお前! なんなんだ!? 何が目的だ!?」
「そんな事は貴方は知らなくてもいいんですが、その前に私からも一つ聞いても良いですか?」
「なに?」
「貴方、穴が好きなんですか? ここでも穴が家ですし、宿屋でも穴に入れてましたよね? お好きなんですか? 穴が」
「ああ? なんだ、どういう意味だ?」
何をするというんだ。
「いえ、そんなに穴がお好きなら特別にご用意しようかと思いまして」
「……どういう、つもりだ?」
だが、そういう事をするつもりなのだろうか? 俺はいつの間に、この気色悪い存在に、変な期待をしていた。まさか、そんな事があるのかと。
だが、女のすぐ後ろで、『カリカリ』と何かを彫る様な音がした。それが気になると、奴の背後を見た。
奴の背中で、何かが蠢いている。白い、独特の動きをした存在が何かをしている。
「……なにを、しているんだ……」
女は、恍惚とした笑みを浮かべて、俺の恐怖心を煽った。
「貴方専用の穴を作ってるんです。我が命に従え、土の眷属よ、深く、深く、深く。砕け。地の門を築け【ウォールブレイク】」
地面に大穴が開いた。どころかその位置は、それは俺の足元だった。どうする事も出来ずに落下させられた。ケツの骨が折れたかもしれねえ。
「痛ぇ……。な、何のつもりだ!? ただじゃすまさねぇぞ!!」
「大智に教わったのですが、世の中には土葬という儀式があるそうですね。まあ魔族の私にはあまり馴染みがありませんが――」
「何ぃ!?」
魔族、なんでこんな所に魔族がいるんだ。いや、待て。あの赤い目の子供、どこかで見覚えがあった。
どこで……――思い出した! アイツは確か、あの赤い服の女の後にずっとついていたガキだ!
「ま、まさか、俺を、ずっと街から追いかけて……」
「おや、まさか今頃気が付くとは。そうですよ。貴方方の物資を頂戴する為に」
「ふ、ふざけんじゃあねえ‼」
「生き様がふざけている人に言われたくありませんね。さて」
「ぶえッ‼?」
土を掛けられた。
「水の眷属よ、流れよ、命の雫よ【ウォーター】」
今度は水を掛けられた。だが、魔法にしては弱弱しい。いったい何をするつもりだ。
「息吹く眷属よ、吹け、回れ、回れ、渦を巻き起こせ【トルネード】」
濡れた土がエネルギーを発生させて、混ざるように回転した。
「炎の眷属よ、滾れ、滾れ、燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ、熱せよ火炎【フレイム】」
今度は穴の中に火を噴き込まれた。今度こそ俺は殺されるかと思い、盾やら鎧やらなんでも思いつくものを魔技で生み出した。こうしなければ殺されていた。先に水を掛けられていた所為もあるのか、火が消える頃には髪が燃える程度で済んだ。
「テメエ! どういうつもりだ!? 何が狙いだ!?」
「焼き物ってどうやって作るか、ご存知ですか?」
「ああ!?」
「粘土に水を混ぜて、練り込んで、高温で焼き上げるんですよ。貴方の足元を今、固めています」
ずっと座り込んでいた所為で、足や尻、手が硬い土に固定されてた。
なんで、何でそんな事を――!?
今度は土を投げ込まれた。続いて水、また練り込まれ、炎で焼かれた。
「人間を殺すのは簡単ですが、死んだ後に不死者になって襲ってくるなんて非常に怖いじゃあないですか。どうやって殺せばいいのかわかりません。
でも考えたんです。こうやって、地面に埋めて、中で固めてしまえば身動きが取れなくなります。不死者といえども、動けなければ意味はありません」
な、なんで、俺が、こんな目に――。
また同じように、今度は腰の位置まで土を入れられた。
徐々に、徐々に、殺すつもりだ。
奴は笑顔を絶やさずに言った。
「別に貴方が憎くてやってるんじゃあないですよ。自分の安全の為に仕方がなくやってるんです。でもあれですね。貴方も嬉しいでしょう? 大好きな穴の中で死ねて」
「た、たす、たすけ――」
「嫌ですよ。大智は寛容ですが、私はそれほど汚物に優しくないので。人間も魔人も、腐った魂は汚物と同じです。臭い奴は死んでよろしいです」
意識が失いそうだ。
この俺が、こんなにも助けを懇願しているのに、有り得ない程頼み込んでいるのに、奴は笑って、同じく繰り返した。
どころか、奴は言った。
「楽しく逝ってくださいね。穴、お好きなんでしょう?」
奴は醜悪な悪魔の様な笑みをしていた。それが、最後に目にした光景だった。
◇ ◇ ◇
「ふう、良い仕事しました」
清々しい気分で終わりを迎えた。
なかなかに良い出来だと自負している。完璧な土葬だ。
手間を掛けた分だけ出来が良くなっていく感じがするのも私のヤル気心に火を付ける要因となった。
もちろん、一番の理由は世間のゴミを駆除できたことですけど。
それから私は大発見をした。
途中から口が渇いてきたので、魔法の詠唱が下手になってきてしまったのだ。それで大智の言っていた詠唱の簡略を実行してみた。するとどうだろう、威力は微妙になるが、コツさえ掴めば案外と上手くいった。
どうやら自分にはチャレンジ精神がなかったようだ。これは反省をしなければ……。
ついつい途中から楽しくなってきてしまったのもいけない。人を埋葬する最中に笑うとは何事か。
試せば試すほど、色々と工夫が出来るのが魔法の面白さだ。それが興に乗ってしまったのだ。……別に、土葬が楽しかった訳ではありませんよ?
それに触手の扱いにも工夫が必要らしい。空気中の魔素を触手でも命令できるようになってきた。これならばもしかしたら、大智の言っていた触手のみの魔法陣で魔法の発動が可能になるかもしれない。
「意外とやってみるものですね。次からは大智を見習いましょう」
それに今度試したいことも出来てしまった。
「土に穴を掘って超火力……小麦粉さえあればパンも作れるかもしれませんね」
盗賊の隠していた大量の食料を食い漁りながらあらゆる物資を馬車に詰め込み、ミッドガルドへ向かった。
やはり食べ物は人を幸せにするのだと実感させられた。
「……そういえば刃物、まだ作ってませんでした」
完全に忘れていた。今度一番に付くろうと思う。




